(10)接触

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 タマモがフジワラ家と繋がりがあることが分かったあとは、ツガル家とサダ家の話し合いにフジワラ家が加わるようになっていた。

 とはいえフジワラ家はツガル家と違って魔物との繋がりは公にしていないので、表向きにはこちら側の内情を探るためのやり取りだとしている。

 そうした家はフジワラ以外にもいるらしいので、今のところは特に疑われるようなことにはなっていない。

 そして肝心のタマモが制覇している領域だが、フジワラ家が影響力を持っている範囲よりも狭い場所しか領域化できていなかった。

 これには理由があって、そもそも狐種は数を増やすのに難がある種族で領域を広げたとしてもそれを維持するのが難しいとのことだった。

 これについて多産系の種族を眷属化すればいいのではないかと助言したら、苦笑したタマモからこう言われてしまった。

「そもそも魔物は自分と同種以外の種族を仲間にしようなんて考えない。考えたとしても隷属するくらいだ」と。

 隷属するというのは少し大げさだとしても、力が全ての魔物界では自分に負けた種族はあくまでも手足となって働く蟻のようなものであり、家族のように接することはまずありえないとのことだった。

 

 タマモが初めての話し合いの時に驚いていたのは、俺が領域外の場所を自由に行き来していることだけではなく、他の種族に対する扱いにも驚いていたらしい。

 そもそも本体が世界樹であるため自由に動けない(かった)俺が、自由に移動できる仲間を欲しがるのは当然だろうと言うと納得したように何度かうなづいていたが。

 時系列で考えれば、実は「俺」という意識を持った時には既に眷属アイはいたことになるのだが、それを敢えて教える必要はない。

 たとえ最初から眷属がいなかったとしても、恐らく同じような行動はとったはずだからだ。

 

 タマモに眷属を作るというアドバイスをすると同時に、もし今から作るのであれば卵から返したほうがいいということも言っておいた。

 その卵を得る方法も無理やり奪い取ったのでは駄目だということも、理由を併せて伝えておく。

 色々と試してきたことがここで役に立ったわけだが、何故だかタマモには白い目で見られてしまった。

 他の種族を相手にそこまで配慮する魔物など他には知らない、と。

 

 自分の考え方が普通の魔物のありようからずれていることはよくわかっているが、それを止めようとは思わない。

 そもそもたった数年でユグホウラがここまで大きくなれたのは、その「ずれ」があったからこそだと考えているためだ。

 もっといえば自ら魔物の考え方に染まりに行く必要がないと理由もある。

 その辺りはそれこそ眷属たちに任せておいて、必要になればお互いにすり合わせればいいだけである。

 

 タマモが公爵位を獲得できるまでは、領域を拡大することは決定している。

 敵に塩を送るだけではないかと掲示板でも騒がれていたが、むしろ今後のことを考えれば必要だというのは変わっていない。

 狭い島国である日本列島でさえきちんとした意思のある魔物が見つかったのだ。

 そうなると当然のように大陸に行けば、もっと多く見つかってもおかしくはない。

 中にはユグホウラと同じように複数の公爵位を持っている魔物がいても不思議はないだろう。

 そうした場合に、同格に近い仲間がいるというのは非常に重要になってくると考えているからだ。

 

 とにかくタマモが公爵位を得るまでは、ムサシの地域の領域化を手伝うことになっている。

 ちなみに単にタマモの手伝いというだけではなく、爵位持ちが隣接する領域をこちら側が領域化した場合にどうなるのかという実験も含まれている。

 タマモの眷属(狐)が領域化した場合にはそのままタマモの領域になることは分かっているが、こちらの眷属や子眷属が領域主を倒した場合にどうなるかは分かっていない。

 それに精霊樹を持っている場合を持っていない場合にどうなるのかなど、調べることはいくつもある。

 そうした疑問を一つ一つ解決するためにも、タマモの領域の公領化は必要な作業である。

 ……後から付け加えた結果論であることは否めないが。

 

 

 そうこうしているうちに、ダンジョンに向かったチームから連絡が入ってきた。

 その連絡は、なんとダンジョンの入る前にダンジョンマスターとの関係者に接触することができたというものだった。

「予想外というか、予想通りというか……入るときが一番危険だと思っていたからちょうどよかったのかな」

 安堵半分拍子抜け半分といった様子で呟いた俺に、報告を持ってきたシルクが頷いていた。

「そうですわね。どうやらダンジョンマスターもこちらに興味を持っているようですから、すぐに戦闘になるということはなさそうですわ」

「それはよかった。にしても、ダンジョンマスターが警戒しているエリアは予想以上に広かったのかな?」

「どうでしょうか。部下の警戒領域が地上にまで及んではいるようですが、そこまで広い範囲というわけでもなさそうですわ」

「そうなんだ」

「はい。何しろ対象のダンジョンは人里にほど近い位置にあるようですから」


 詳しく聞くとタマモが言っていたダンジョンマスターがいるダンジョンは、頻繁に人族の冒険者が出入りしているらしい。

 それだけ生活の糧になる素材が多く取れるからということもあるのだろうが、それ以上にダンジョンマスターが敢えてそうしている可能性もある。

 ダンジョンマスターにとって一番「おいしい」のは、ダンジョンが壊されない程度に人が出入りしてくれる状態だからだ。

 そのことはプレイヤーのダンジョンマスターからも確認しているので、ほぼ間違いないはずである。

 

「そうか。だとすると周辺の豪族と繋がっているかどうかも問題になってくるけれど……今はそこは考えなくてもいいか」

「そうなのですか?」

「たとえ繋がりがあったとしてもその辺りの豪族がどう考えているか分からないしね。こっちから言い出す必要はないよ。言うとしてもそれこそ連合から言うべきことじゃないかな?」

「確かにそうですわね」


 ちなみに連合というのはツガル家とサダ家の話し合いの最中に、何となく呼ばれ始めた呼び名らしい。

 その名の通りユグホウラを中心とした豪族のまとまりらしいが、彼らがそのまとまりをどう呼ぶかは特に関与するつもりはない。

 組織の呼び名など中身さえ変わらなければ、その時々で変わっても構わないと考えているからだ。

 

「問題はダンジョンマスターがどう考えているのかということなんだけれど……」

「最初に話をした感じでは、そっちはそっちで勝手にやってくれという感じではあったそうですが……」

「なるほどね。ダンジョンマスターらしいといえばらしいのかな。こっちも必要時以外はダンジョン自体に手を出すことは無いとして、あとは地上部分が問題になるのか」

「そうですわね。ですがそれも心配はない気もしますわ」

「確かにね。話に聞いた感じだとダンジョンにしか興味がなさそうだからね。その辺で上手く交渉すればどうにかなる……ということにしておこうか」


 とりあえず相手の出方を見てみないことには、こちらはどうすることもできない。

 ダンジョンがある場所を領域化するのはまだまだ先のことになりそうなので、問題の先送りとも言えるのだが。

 とはいえダンジョン周辺の土地を中立地帯とするのか、あるいはどちらかが領域化するのかはきっちり決めておいたほうがいいだろう。

 そもそもダンジョンマスターが、ダンジョンの外に出て周辺の土地を領域化出来るかどうかもわかっていないのだから。

 

 とにかくダンジョンマスターとの話し合いはまだまだ始まったばかりなので、詳細はこれから詰めていくことになるはずだ。

 その報告を待ちつつ、今はユグホウラをより安定して運営できるようにすることが先決である。

 そう考えて日々を過ごしていると、掲示板がある報告で沸いているところを目撃することになる。

 すなわち「ついに龍の人が広場をつくることができた」と。




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