(9)攻略前の話し合い

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 自分と同じような「意志ある」爵位持ち、本土にもあったダンジョンマスターについて、そして準領域/領土の存在。

 大きく三つもの得難い情報を得られただけでも、タマモと同盟を結んだ甲斐があったと思っている。

 一応参考までにと掲示板でも今回の件は報告したが、どちらかといえば驚くプレイヤーが多かった。

 中には同盟なんて結ぶ必要はなかったんじゃないか(攻め滅ぼせばよかったのに)という意見も出ていたが、そちらの方が賛否が分かれていたように思う。

 過激派以外でも普通に眷属として取り込めばよかったんじゃないかという話もあったが、それは少し違うと一応否定しておいた。

 あの話し合いで分かったことだが、タマモの目的は“自分自身”が今ある領域を守り切ることだ。

 それを考えると眷属となった瞬間に領域を守れなくなる可能性がある眷属化は、最初から選択肢にはなかったはずだ。

 これは後から分かったことなのだが、タマモはムサシの半分以上を治めているフジワラ家との繋がりがあった。

 過去にフジワラ家の当主と何やらあったようだが、それ以上は敢えて聞くことはしなかった。

 フジワラ家の話をしている時に、どう見ても乙女の顔をしていたので聞かなくても分かったという理由もある。

 

 とにかくタマモの最低条件はムサシの地を治め続けるということなので、それを満たすためには眷属よりは準眷属のほうがいいと判断した。

 これが後々どう影響を与えることになるかはわからないが、少なくとも俺自身はこの結果に満足している。

 掲示板内は当然のこととして、眷属の中にも首を傾げる者がいた。

 どうやら狐と相性が悪そうなシルクは勿論のこと、ファイも倒したほうがいいのにと考えていそうだった。

 もっともファイの場合は自分が戦えればいいと考えているだけなので、まだまだ攻めるところはあると言っただけで納得していたが。

 

 この件に関しては多少強引だが、統治者としての権限で話を収めることになった。

 これがしこりとなって眷属の間に亀裂が入る……なんてことにはならないとは思うが、タマモのような存在を仲間としたときに眷属たちがどういう行動をしていくのかは経過を見て行きたい。

 そもそもこの先、日本領土や大陸進出をするとなった場合に、すべての領土を眷属だけで賄うなんてことは不可能だと考えている。

 あまりに領土が増えてしまうと、直接統治するのが難しくなるのは歴史を例にとってみても分かっていることだ。

 それならば外様大名ではないが、タマモのようなある程度信用できる存在を作って管理していくのもありではないかと考えたということもある。

 ……決して俺自身が狐が好きで、打倒したくない――なんてことを考えたからではない。…………はずだ。

 

 それよりも今はタマモから得た情報で知ることができたダンジョンの方が重要だった。

 そのためにシルクとクイン、それにファイとラックを呼んで話をしていた。


「――というわけで中々大きそうなダンジョンがあるそうなので、まずは接触を図ってみたい」

「ガウ?(接触なのか、攻略ではなく?)」

「タマモの話を聞く限りでは話ができそうな相手みたいだからね。変に脅してきたりとかしなければ、特に潰すことは考えていないよ」

「ガウ?(それじゃあ俺が呼ばれた理由は?)」

「討伐しないというのも絶対じゃないからね。それに、もしダンジョンマスターと会えるのであれば直接対面して強さを見てきて欲しいというのもある」

「ガウ(なるほどな)」


「ピッピ?(ダンジョンを潰さないというのは、まだ理由があるのではありませんか?)」

「お。さすがラック。ちゃんとわかってくれているか。それに、クインも分かっているみたいだけれど」

 ラックに加えてクインの名前を出すと、シルクが少しばかり悔しそうな表情になって見ていた。

 どうやらシルクにはダンジョンマスターと接触を図る理由が分かっていないみたいだ。

「別に難しく考える必要はないよ。ツガル領で見つかったダンジョンと違って、爵位もちのダンジョンマスターがいる状態で周辺領域を攻略したらどうなるのかを知りたいんだよ」

「ガガウ(いつものように実験か)」

「そういうこと。大陸にいけばそういうダンジョンも多くなりそうだからね。影響が少なそうな今のうちに試しておきたい」

 これに関してはタマモの時のような行き当たりばったりではなく、話を聞いた時から検討していた。

 これが話の出来なさそうな相手であれば成長する前に速攻で潰すことも考えたのだが、そうでないのであれば折角の情報元をなくしてしまうのは勿体ない。

 

「――そういうわけだから、とりあえずダンジョンに向かうのは少数精鋭で。できれば二桁以内に収めておきたいかな」

「ガウ(そうか。だから俺を呼んだのか)」

「そういうこと。ダンジョンがどういう構造になっているか分からないから入れない可能性もあるけれど……その時はその時だね」

「ファイが入れないとなると、逆にいえばそこまで大型の魔物は出てこないというわけですか」

「だね。どっちにしても情報収集には違いないから構わないよ。そもそも目的は話し合いであって殲滅じゃないしね」

「そうですか。ではわたくしも……」

「シルクは引き続きタマモとの連絡役になってもらうつもりだから駄目。それに情報部隊のとりまとめもあるだろうに」

「確かに長期間離れるとなると不都合がおきそうですね」

 

 俺とクインから諭されるように言われて、シルクは何とも言えない表情になっていた。

 タマモとの関係については既に納得しているようだが、やはり例の美女(狐)との相性は相変わらずのようだった。

 何がシルクをそうさせているかはわからないが、脊髄反射的に拒否感のようなものが出ているようにも見える。

 これがタマモとの関係を築いていくうえで悪い要因になるのであればクイン辺りに役目を変わってもらうことも考えるのだが、あくまでも例の美女だけに対するもののように見えるのでそこまでする必要はないだろう。

 

 とにかく近畿辺りにあるというダンジョンについては、少数精鋭の部隊を送り込むことが決まった。

 その部隊の一人にファイが混じることから東北方面の攻略スピードが落ちると思われるが、これについては特に心配していない。

 春の戦で取り込んだイトウ家の領域は既に攻略が始まっているが、トウドウ家についてはまだどうなるかが決まっていないからだ。

 今のところツガル家からも攻め込むという話は聞いていないことに加えて、停戦協定がある以上は攻めるとしても来年以降になる。

 別に領域化はツガル家に合わせる必要はないのだが、折角なので状況を見守りつつ攻略を進めて行きたいと考えている。

 

 

< Side クイン >

 

 話し合いを終えた私は、主様がいない場所でシルクと話をすることにした。

「どうしたのですか、シルク。あなたにしては珍しい。あそこまで拒否反応を示す必要はないのではありませんか?」

「わかっていますわ。……でもどうしてもあの女の顔を思い浮かべると……」

「そこが不思議なのです。別に相手が女性だからというわけでもないでしょうに……」

「…………それは仕方ないわ。あなたもあの場所にいたら同じようになったと思いますわ。何しろあの女、主様に色目を使おうとしていたのですから」

 シルクからそう言われた私は、不覚にもすぐに答えを返すことができませんでした。

「それは――いえ、それでもです。やはり主様の前で、その態度は良くないでしょう」

「わかっておりますわ。それでも……いえ、言い訳ですわね。主様の前では改めるように努力いたしますわ」

「そのほうが良いでしょう。……私も注意しなくてはいけませんね」

 自重するように呟いた私に、シルクも大きく頷いておりました。




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