第15章

(1)春までの状況

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 マツシリ攻略後に新しく手に入った因子のお陰で、眷属たちが続々と進化をしていた。

 主に新しい属性が増やすための進化なので特殊(縦の)進化ではない進化になるが、それが通常進化というかどうかは微妙なところだ。

 単に属性が増えているだけなので、やはり横の進化というのが正しい気もする。

 もっともその辺のやり取りは掲示板でも散々行われていて、いまでも結論が出ていない問題だ。

 個人的には今後も結論は出ないんじゃないだろうかとも思わなくもないが、敢えて水を差す必要もないかと見守るだけにしている。

 それはともかく、新しい因子のお陰で眷属たちがまた強くなったことは喜ばしいことだ。

 どう考えても脳筋になりつつあるファイなどは非常に喜んでいたが、情報部隊を持つクインやシルクなんかも喜んでいた。

 因子が増えた進化ができるということは耐性が増えるということであり、子眷属たちがより色々な環境の場所に行くことができるようになって情報収集がはかどるためだ。

 

 そして眷属たちの進化が進められる中で、もう一つのビッグプロジェクトである造船所の建設も既に始められていた。

 先に作っていた製錬所の建設は九割五分以上が終わっていて、メインである金属の製錬部分については既に稼働が始まっている。

 だからこそ造船所の建設が始まっているのだが、では残りの五分が何かといえば単に内装の部分で残っているところがあると言われた。

 その内装というのが事務部分に関わるものと、何故だか計画されていた俺(世界樹)のための部屋だというのだから後回しにしていいと言うのは当然のことだった。

 

 秘密裏に部屋の作成を計画していたアイが残念そうにしていたが、お陰で造船所の建設計画が早まったのは喜ばしいことだ。

 下手をすれば、この夏には小型船の造船が始められるのではないかというくらいには計画が前倒しになっている。

 小型船第一号ができれば少なくとも百人程度の子眷属が乗せられるようになるので、予定通りにに向けての侵攻計画が進められるようになる。

 もっともあちらの大陸がどういう状況か全く分かっていないので、状況によってはそのまま引き返してくる可能性もあるのだが。

 

 全くの未知数であるアメリカ方面はともかくとして、マツシリ攻略後にはラックたちによるユーラシア大陸の調査が始まっていた。

 こちらはマツシリから北にある半島から上陸してもらっての調査になるが、今のところ人族による町や村は見つかっていない。

 どうにもこちらの世界では冬が厳しい傾向にあるためか、元の世界よりも極地認定されそうな地域がより広がっているように思われる。

 それでも過去の世界に原住民がいたことを考えればこちらの世界にいてもおかしくはなさそうなのだが、やはり魔物が出現するということで生き残るには厳しいのかもしれない。

 

 いずれにしてもユーラシア大陸の北東側には人がいなさそうなので、このまま攻略を進めるかどうか決めなければならないだろう。

 今までは流れでマツシリと日本列島の攻略を始めているが、今後大陸の攻略を進めるかは慎重に考えるつもりだ。

 他のプレイヤーからは何をいまさらと言われそうだが、日本列島のような島国を攻めるのと違って大陸を制覇するとなるときちんとした防衛態勢を整えなければならない。

 今のところ期待しているのは空を飛べる鳥種たちの監視と広い範囲をその足でカバーできる狼種だが、どちらも多産系のように一気に数を増やすというわけにはいかないので決断を下せないままでいる状態だ。

 

 大陸方面の攻略は調査だけにとどめて討伐は待ってもらっている状態なので、ファイを始めとした攻略部隊は東北方面の山林を中心に攻略を進めてもらっていた。

 その攻略は非常に順調で、既にツガル家の支配領域である青森、岩手辺りにある山林は既に攻略は終えている。

 さすがに平地に降りてまで攻略を進めるつもりは今のところないのだが、もしかするとそれも早まるかもしれないと考えていた。

 というのもツガル家が春に始めようとしているイトウ家との戦の前に、ユグホウラとの関係を明らかにすると宣言しているためだ。

 

 もしユグホウラの存在が明らかになれば、少なくともツガル家領内では攻略が進められるようになる。

 ただしもしユグホウラの存在が公になったとしても人族に見つかれば、討伐される対象になるのは変わらないのでそこは慎重に進めるつもりだ。

 人族にユグホウラの関係者かどうかを見分けることなどできるはずもないので、そこは慎重になって攻略を進めるしかないだろう。

 もっとも、話を聞く限りでは子眷属の中級クラスでも人族の冒険者で対等に戦える者は中々いないということらしいので、そこまで心配はしていないのだが。

 

 そうこうしているうちに深く降り積もった雪が解け始めてもう少しで短い春本番――といったところで、ツガル家がユグホウラの存在を明らかにした。

 同時に互恵関係にあることも示したわけだが、少なくともツガル領内では多少の反発だけで済んでいるようだった。

 これは宗重の統治が領民にまで生き渡っているからというのもあるのだろうが、ユグホウラのトップにいるのが世界樹だと公表したのも大きかったらしい。

 世界樹に従っている魔物ならばまだ安心できると考えているのかはわからないが、反発が思った以上に起こらなくて拍子抜けしたくらいだった。

 

 とはいえ反発が少なかったのはツガル家領内に限った話で、そのほかの地域では当然ながら大きい反応を示したところもある。

 特に大きかったのは、春になれば間違いなく攻め込まれると分かっているイトウ家の領内で、これは次に行われる戦を見越して敢えて領民を焚きつけているようだった。

 ある意味では真っ当な戦略のため、なるほどと思うだけで特にそれ以外に思うところはない。

 ユグホウラの構成員が魔物であることは紛れもない事実なので、今更それに対してどうこう言われたところでわざわざ反応してやるつもりもない。

 

 イトウ家に次いでトウドウ家も連動するような動きを見せていたが、これに関しても予想の範囲内なので改めて何かをするつもりはなかった。

 それよりもその二家以外の反応が、思ったよりも鈍かったほうが予想外だったといえる。

 勿論ユグホウラの構成員が魔物ということで領民たちが騒めくことになっているのは間違いないのだが、それを知っていながら統治者たちは黙認するだけで特に何かをする様子がないようなのだ。

 もしユグホウラという存在に対して警戒しているのであれば、イトウ家やトウドウ家のように焚きつけるようなことがあってもいいと思うのだがそれすらもなかった。

 

 既に存在を明らかにしているサダ家はともかくとして、そのほかの家が沈黙を貫いていることに多少の不気味さを感じる。

 出る杭は打たれるではないが、魔物の集団ということで真っ先に目の敵にしてくると考えていたため各当主どういうつもりなのかが気になるところだ。

 まずは情報収集のためにそれぞれの家に偵察部隊を送ってはいるが、それぞれ少数しか張り付けていないので順調に情報が集まっているとは言い難い。

 それでもやらないよりはましなので送ってはいるのだが、効果的に情報が集められるようになるにはもう少し時間がかかるだろう。

 

 そして、周辺豪族の情報を集めている間に時は過ぎ、ついにイトウ家とツガル家の停戦協定期間が終える時が来た。

 協定期間が終わればツガル家が攻め込んでくるということを予想していたのか、イトウ家も準備は万端といったところだ。

 それでも直前のユグホウラとの連携に関する発表は予想していなかったのか、多少混乱している様子は見受けられるが。

 とにかくお互いの準備は終わったということで、ユグホウラが関与するツガル家とイトウ家の二回目の戦が始まったのである。




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