(10)マツシリ
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宗重との初対面から戻ると、待っていたかのように雪が降り始めた。
眷属たちにとっては雪が降っても特にやることに変わりはなく、ツガル領から戻ってきたファイはすぐに樺太地域へと出かけて行った。
その樺太地域は既に三体の領土ボスを倒していて、広さ的にあと一体を残すところとなっている。
ファイとしてはイトウ家との戦の前に決着をつけたいらしく、張り切って攻略に励んでいるはずだ。
ちなみに樺太地域の攻略にはファイだけではなく、他の眷属も討伐に出かけている。
基本的には研究室のこもっているアイでさえ忘れたころに領域ボスの討伐に出かけているので、魔物にとっては戦闘という要素は非常に重要だということがわかる。
勿論アイだけではなく、今年生まれてきたレオやランカも樺太地域やツガル領の攻略に出向いている。
レオは俺の足として動いていることもあってランカほどではないのだが、それでも最低限の戦闘はこなしているようだ。
そんな感じで順調に進んでいった樺太攻略だが、冬の半ばという頃になって島全域のボス攻略が終わっていた。
あとは予想通りに公領ボスを倒すだけとなったのだが、ここで一つの問題が持ち上がることになる。
それが何かといえば、イトウ家との戦の前に公領ボスを倒すかどうかという問題だ。
戦が起こる前に公領ボスとの戦闘を行って支障が出てしまうと、今後に多大な影響を及ぼしかねない。
ところが、俺がそんなことを考えていたのを見抜いたのか、ラックがこちらが何かを言う前にまずは公領ボスと倒すべきだと言ってきた。
その理由としては、まずファイがやる気になっているということと以前公領ボスを倒した時とは比べても眷属は勿論、子眷属の質が上がっているからというものだった。
エゾの公領ボスだったドラゴンを倒した時に比べて子眷属の質や量が上がっていることは確かだが、それでも不安はぬぐえなかった。
そのためラックの進言だけではなく、他の公領ボスの討伐に加わっていた眷属たちにも確認をしたのだが、そのすべてが「今のうちに倒しておくべき」という意見で一致していた。
普段戦闘からは離れていて冷静に分析できるはずのアイまでもが同じことを言ったことで、俺の気持ちも討伐してしまう方に傾いていった。
ちなみにいつでも公領ボスの討伐ができるように、道具類の準備は既に済んでいることも気持ちが傾いた原因の一つだ。
しかも単に使用することになるであろう道具を作っているだけでなく、しっかりと設置の準備も終わっているというのだからこちらとしてはいつの間にという思いだった。
アイを含めたドールたちはここ最近精錬所の建築で忙しくしていたはずなのだが、その裏でしっかりと攻略準備を進めていたことに驚くやら呆れるやらで何とも言えない感じになってしまった。
そんな俺自身の感情はともかく、そこまでお膳立てが済んでいるのであれば躊躇する必要もない。
というよりも春に行われるはずの戦よりも出来るだけ前に公領ボスとの戦闘を終わらせて、多少なりとも休養期間を多く設けておきたい。
果たして眷属たちに休養期間など必要なのかという疑問はあるが、あくまでも俺自身の気分的な問題だ。
それらの理由に加えて、あとは俺の「Go」のサインを待つだけだと言われてしまえば、もはやためらう気持ちはなくなっていた。
――というわけでいつものように皆を集めて、会議を開いてから数日後には二度目の公領ボスとの戦闘になった。
……のだが、結果からいえば一度目の時と比べれば、比較的余裕をもって討伐することができた。
出てきた公領ボスは虎を基本としたネコ科の魔物だったのだが、大きな体に似合わずというべきか、ネコ科らしいというべきか、その素早い足を生かした攻撃を繰り出してくる敵だった。
そのやっかいな足をいつものように精霊樹の根やシルクたち蜘蛛の糸を使って足止めしてしまえば、あとは楽にしとめることができたという流れだ。
さらに今回に関しては、ファイに加えてランカという空を飛べる眷属が増えていたのも楽に感じることになった要員の一つとなっていた。
以前のドラゴン戦の時にもいてくれたらもう少し楽に倒せたのではないかと思わなくもなかったが、すでに終わってしまったことを嘆いていても仕方ない。
どちらにしても無事に公領ボスを倒すことはできたので、ホッと一安心といったところだろうか。
それに今回の戦闘に関しては、眷属たちが成長していたということもあって、俺自身が参加することはほとんどなかった。
ちなみに相手を縛るのに使った根が世界樹のものではなく精霊樹だったのは、樺太の島に世界樹の根を這わせることができないためだ。
精霊樹の根を使えることは事前に確認していたので、そちらを使って相手の足を止めたというわけだ。
今回の様子を見ている限りでは、俺自身が公領ボス戦に出る必要はないような気もするが、忙しいという理由がない限りは今後も出続けるつもりだ。
そうしないと戦闘の勘が鈍るからという理由もあるが、すべてを眷属に任せるのはどうも――という個人的な感情もある。
いずれは個人で公領ボスと対等に戦えるようになればいいという思いもあるが、子眷属を含めた連携を確認する意味では公領ボスとの戦いも必要になってくるのでバランスが重要になるだろうか。
ただ連携を磨いていくのは各ボス戦だけではなく、今後増えてくるであろう人族との戦闘でも鍛えることが出来るので、敢えて公領ボスとの戦闘に限る必要はなくなってくるだろう。
もっとも人族との戦闘がどれくらい発生するのかは未知数なので何とも言えないのだが。
というわけで、今後も領土ボスはともかく公領ボスに関しては個人で討伐する予定はない。
そんなこんなで公領ボスを倒した後は、いつものようにお楽しみタイムとなる。
樺太地域の攻略で氷結、高圧、低圧、暴風の因子は既に手に入っていたが、公領ボスを倒したことによりそれらがそれぞれ上位版に変化している。
さらにエゾの時と同じように、樺太地域の公爵位も手に入れることができた。
公爵位が手に入ったということは、事前に決めていた公領の名前を決めていたということで、樺太地域は今後こちらの世界では「マツシリ」と呼ぶことにした。
これで得られた公爵位はエゾとマツシリの二つ。
数が増えたからといって何かがあるわけではなさそうだが、マナを吸収できる領域が増えたお陰か以前以上に魔石を作れる量が増えている。
このままいけばどんな魔石が作れるようになるのか、多少怖い気もしなくもないが出来るのだから多少開き直って作っていく方がいいだろう。
それに今はまだ出来ていないが、いずれはプレイヤー同士の交流もできるようになるはずだ。
そうなったときには、こちらが提出できる魔石が増えているのに越したことはない。
プレイヤー同士の交流がどんな化学反応を起こすかは今のところ不明だが、悪いことにはならないと考えている。
こんな感じで樺太地域に関する攻略は全て終わったわけだが、今後については今のところまだはっきりとした方針は決めていない。
もし船ができているのであればユーラシア大陸を通り越してアメリカ大陸に行くのもありかと考えていたのだが、船の準備はさすがにまだできていないのでアメリカ方面に行くのは無理だろう。
となるとやはりユーラシア大陸へ向かうべきだと思うが、その前に日本列島を終わらせてしまうということも考えられる。
まず地盤を固めてしまうという意味では後者を優先したほうがいいとは思うが、そもそも無理に領土を広げる意味があるのかという問題もある。
それらを含めていずれじっくりと考えなければならないなと、目の前でちらつく雪を見ながら思考を巡らせるのであった。
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