(6)方針決定

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 クインからの報告を聞いた数日後、各地に散っていた眷属たちが全員集まり会議が開かれた。

 一番時間がかかったのは樺太を攻略中のファイ……ではなく、絶賛精錬所を建設中のアイとアンネだった。

 樺太は今のところ転移門から近いところを攻略しているのだが、精錬所は人に見つからないような山中作っているということで単純に距離があったのだ。

 それでもたった数日で全員が集まれるというのは、さすが魔物の集団といったところだろうか。

 とにかく会議が開かれてすぐに、ツガル家からの参戦要請についての話を切り出した。

「――というわけで、ツガル家からの参戦要請が来た。これについて判断する前に、皆の忌憚のない意見が聞きたい。別に、人族に使われるようで気に入らないという意見でもいいから」

 敢えて茶化すように言うと、場を和ませるためか、ファイが乗っかってきた。

「ガウ? (それは俺に言っているのかい?)」

「いや。そんなつもりはない……くはないか。ある程度は含んでいる」

「ガウ……(そんなはっきり言わなくても……)」

 そう言いながら分かりやすく頭をカクンと落としたファイに、苦笑交じりの小笑いが起こった。

 何となく決められたようなやり取りのようではあるが、一応皆が乗っかってくれたという感じだ。

 

「まあ、冗談はともかく。本当に言いたいことを言ってもらってくれて構わない。色んな方面から意見を聞かないと、間違った判断をしそうだからね。ただし最終的に決めるのは俺だ」

 一々言わなくても分かっているとは思ったが一応最後にそう締めくくると、周りからは当然だという視線が返ってきた。

 普通であれば纏まるはずのない魔物の手段を、世界樹である俺が纏めているということは皆がよくわかっているのだ。

 眷属だからという見方もできるのだが、すべてにおいて従順というわけでもない。

 今彼らがこういう態度を取ってくれているのは、やはり今までの関係性があるからだと考えている。

 

 いつまでも冗談を言っていても仕方ないと、ここでクインが区切るように話し出した。

「主様は冗談のように仰っていますが、確かに『使われている』という風に見られるという懸念はあります。それについては皆はどう思いますか?」

「面白くないという感情が沸いてくるのは仕方ありませんわ。ただそれ以上にメリットがあることは分かっております。どちらを取るかと言われれば、わたくしは後者を取ります」

「同じく」

 クインの話に乗るように、シルクとアイが自分の主張を表明してきた。

 それ以外にも言葉には出していないが、他の眷属たちも同じような雰囲気になっている。

 ちなみにこの場に体が大きいゴレムはいないのだが、ドールと共同開発した遠隔端末のような球体で意思を示すことができるようになっている。

 

「うん。何というか予想できた自体ではあるんだけれど、本当にいいんだね?」

「ピッピ(デメリットよりもメリットを取るというのもありますが、折角の機会ということもありますね)」

「うん? どういうこと?」

「ピピ(人族に我らの存在を示すチャンスでもあるわけですから)」

「ガウ(さすがラックだ。俺もそう思うぜ)」

「バフ!(人族の戦に参加できる!)」


 ラック、ファイ、ルフの三人は、人族に侮られるかどうかは戦の結果で示せばいいという考えのようだ。

 確かに戦で結果さえ出せば、ツガル家に使われているだけの存在だという話は吹き飛ぶ可能性は高い。

 そのことが眷属たちに理解されているのであれば、特にこちらから言うことはなかった。

 ちなみにアンネやランカは、人族にどう見られても構わないという態度で一貫している。

 

「ツガル家がどこまでの規模を想定しているかはわからないけれど、一応の方針を決めておこうか」

 まずクインはツガル家との繋ぎになるので絶対参加になる。

 逆にゴレムはそもそも移動が難しいので、ホーム周辺の護衛になるのは確実だ。

 それ以外のメンバーに関してはその時の状況によっても変わってくるが、今のうちにある程度は決めておいても問題はないだろう。

 

 というわけで一応の方針で決めたのは、ファイ、ラックは参加組。

 シルクとアンネは後方支援兼子眷属への指示出し。

 ルフ&ミアはエゾ内の領域の見回りで普段と変わらず、空を自由に移動できるランカは基本的には遊撃として活躍してもらうことになった。

 残っているレオは、当然のように俺の移動手段として一緒に行動することになった。

 

 具体的な規模によっても役割は変わってくるだろうが、基本的にはこの方針で変わることはないだろう。

 たとえ戦力を最大限出すことになったとしても、そもそも子眷属に指示を出す眷属が決まっている以上はそこまで大きく変更になることは無いはずだ。

 一応今回の方針は最大限出撃することを見越してのものなので、基本的には縮小することを前提に考えている。

 その場合でもシルクやアンネの直接参加が加わるかどうかの違いくらいで、大きな変更は起きないだろう。

 

 そんなこんなで多少先走って眷属の役割分担まで決めてしまったが、まずはツガル家へ戦への参加要請を受け入れることを報告することになった。

 これに関してはわざわざクインが直接行く必要もないだろうということで、前回一緒に会議に出向いた子眷属が出向くことになった。

 細かい話を詰めなければならないが、実際に事が起こるのは来年の春以降なのでまだ時間的な余裕はあるだろう。

 それに合わせて転移装置を使って、各子眷属をある程度順番に移動していくことも決定した。

 

 当たり前だが、エゾの管理や樺太の攻略スピードが落ちるようなことにならないようにしなければならない。

 それでもどうにかできるくらいの戦力は、今のところ保持できている。

 あとは実際に決められた数に従って戦力を投入していけばいいだろう。

 

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< side:宗重 >


「――加わる戦力は直接対決用なのか、それとも本城攻略用なのか、あるいはその両方か。――という問いを主より預かっております」

 ユグホウラからの使者の伝言を聞いた我は、思わずその場で大きく笑ってしまった。

 その答えは、期待した以上のものであったからだ。

 その証拠に、我と共に話を聞いていた重鎮どもも笑みを浮かべている者がほとんどだ。

 中には警戒感を浮かべるような者もいたが……あやつは少し修行が足りないな。

 今度誰かに申し付けて、修行でもさせた方が良いだろうか。

 

 次の戦に対するユグホウラの賛成要請は、彼の集団がどのような対応を見せてくれるのかという試金石でもあった。

 それを見事に食い破るどころか、期待以上の答えを貰う事ができたのだ。

 満足を通り越して、安堵感のようなものさえ浮かんでいた。

 こちらの思惑を呼んだ上で、それ以上の答えを出してきてくれたのだから返す答えなど決まっている。

 

 戦は水物だと言われることが多いが、今回に限って言えばほぼ間違いなく勝つことができるだろうと確信している。

 それほどの結果を先の戦で出してくれているからだが、今の言葉でさらに確信を深めることができた。

 わざわざ「両方か」と聞いてくるということは、確実に実行できるからこそ提案しているのだということがわかる。

 それであるならば、ユグホウラの提案に乗らないわけにはいかないだろう。

 こちらから提案したこととはいえ、確実に勝つと分かっている戦に乗らないほど我も甘くはない。

 これで重鎮以外の部下も、魔物の集団と歩みを共にすることに対する嫌悪感が多少なりとも減ることになればいい。

 あとは実際に戦が起こってから結果が分かることだが……何故だが悪い予感は微塵も沸いてこなかった。

 

 ――おおっと。使者殿。交易に関しての話も忘れてもらっては困るぞ。




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