(5)ツガル家とのやりとり

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 ツガル家の領内で新たに見つかったダンジョンについては、すぐさま報告されることになった。

 その報告を行ったのは予定通りにクインだったが、その席には子眷属も数名同席することになった。

 今後何かあるたびにクインが会談に向かうと本来の役目(俺の護衛)が果たせなくなることを危惧したために、顔合わせと訓練を兼ねて一緒に会うことにしたのだ。

 ツガル家側もそうなることは予想していたのか、当然という態度で今回の会談に臨んでいたようである。

 そもそも国同士の関係で大臣クラスが何度も何度も顔を合わせること事態珍しいのだから当然のだろう。

 今後は事務方レベルの話し合いは、クインや宗重以外で行っていくことになるはずだ。

 ただしその前に、ツガル家側でユグホウラとの関係を明らかにしなければならないのだが、それはあちら側が決めることと考えているので変にせっつくつもりはない。

 

 ――と、そんなことを考えていると、その席で宗重からツガル家の主だった関係者には既に伝えたということが報告されたそうだ。

 なんでも次の戦では大々的に手を貸してほしいと考えているそうで、そのためにもまずは関係構築を進めて行くことに決めたとのこと。

 ユグホウラの返答を待たずに勝手にことを進めたともとれるが、次の戦云々は話し合いすらしていない段階なので決定事項ではないらしい。

 それも含めてこの席で確認をしておきたいということだったそうだ。

 さすがに人族の戦に参戦となると自らの一存では決められないとクインが言ったそうだが、ツガル家側もその答えを予想していたのか、それ以上突っ込んだ話はしなかったそうだ。

 

 それからこちら側の話のメインであるダンジョンのことについては、ツガル家側も驚いてすぐに対応を取るとしていた。

 というよりも、話を聞くや否や宗重がすぐに指示を出して信頼できる冒険者に確認に向かわせたそうだ。

 この辺りはさすが一国一城の主といったところだが、この程度のことができなければこの世界で領地を治めることなどできないのかもしれない。

 ちなみに報告したダンジョンを残すかどうかは、冒険者からの報告を待って決めるようだ。

 

「――ダンジョンのことは勿論ですが、やはり持ち込んだ商品にも興味を示しているようでした」

「へえ、そうなんだ。やっぱりスパイダーシルクが人気あるのかな?」

「そちらもですが、普通に蜂蜜にも興味を示されていましたよ? やはり養蜂は難しいようですね」

「あ~。魔物がいる世界だからなあ……。ただの蜂を飼ってもやられるか」

「そうですね。やるなら大きな囲いで覆ったうえで、その中で育てることくらいですが……」

「そんな規模の囲いを用意したら、簡単に魔物に狙われると」

「そうなります。というよりも、地中から狙われるとどうしようもありません」

「確かに。蟻以外にもたくさんいるだろうからなあ」

「モグラ系、ワーム系、蟻系……上げればきりがありませんから。今は失敗覚悟で野生内で勝手に育ってくれるのを待つだけのようです」


 確かにそれだと失敗も多いだろうと納得したところで、クインが別の話題に変えてきた。

「それよりもツガル領内だけだと塩の生産がギリギリなようですが、こちらから出しますか?」

「え? ギリギリってことは、余剰分は輸入で賄っているってこと?」

「そうなります。ツガル家には海路があるので塩の道を寸断されるようなことにはなっていないようですが、そこを狙われると弱点になるかと」

「それは確かに、そうだよなあ。それでユグホウラからの輸出か。……言いたいことは分かるけれど、いっそのこと例の魔法を教えてしまおうか」

「よろしいのですか?」

「構わないよ。塩がないと人は生きていけないからね。そこを握られると反発も大きくなる――というよりも、こちらで生産できる量にも限りがあるし、何よりも発想自体は簡単な魔法だからね。誰かに見つけられるよりも先に、製法を高く売ってしまったほうがいい」

「そうですか。それでしたらサダ家にも?」

「そうだね。ツガル家で受け入れられたら売ってもいいんじゃないかな? ――その前にちゃんとコンタクトを取るほうが先だけれど」

 未だにサダ家とはイェフを通しての関係だけなので、まずはそこを改善しなければならない。

 ――のだが、サダ家はツガル家と違ってユグホウラとの関係を明確にする予定がなさそうなので、こちらとしてもはっきりとした動きは取りづらい。

 

 サダ家に関しては本島の領域化が進んでからでも遅くはないので、まずはそちらを進めてから考えることにしている。

 何とも行き当たりばったりな対応だとも言えなくはないが、そもそも本島の攻略は人里から離れた場所しか進めていくつもりがないので関係性が進まなかったとしても全く問題ない。

 それにツガル家が次の戦に勝つと、他家もユグホウラ事態に注目せざるを得なくなるだろう。

 そうなったときに、サダ家がどういう方針で来るのかを見定めればいいと皆で話し合って決めていた。

 

「まあサダ家についてはいいや。今はとにかくツガル家だね。それで、戦への参戦要請だっけ?」

「はい。どうやらツガル家は、圧倒的な戦力で踏みつぶすようですね」

「狙いはわからなくはないけれど……そこまでユグホウラに頼っていいのかね? ……って一番のトップがそんなことを言ったら駄目なんだろうけれど」

「いいのではありませんか? ここには眷属しかおりませんから。それよりもツガル家ですが、むしろユグホウラの方が格上だと示す機会を狙っているようですね」

「なんでまた?」

「恐らくですが、そちらの方が世界樹主様の特異性――というか神秘性を示せるからかと」

「あ~。なるほどね。そっちの意味があるのか。……うーん」


 ツガル家の目的を知った今となっては、確かに次の戦の本格参戦も有りかと考えざるをえない。

 どう考えてもツガル家の思惑に乗せられている感はあるのだが、確かにこちらにとってのメリットが大きいのも確かだ。

 今までの調べで、宗重は拡張主義よりも領土開発の方を重視する傾向があることがわかっている。

 その方針から考えれば、次の戦でユグホウラの圧倒的な戦力を見せれば、イトウ家以外の他家も手を出しにくくなるだろうという狙いもあるはずだ。

 

 その狙いがどこまで効果を及ぼすかはわからないが、できれば東日本辺りまでは落ち着いた情勢になってくれるといいという感じか。

 逆にそのあたりの豪族が一致団結して向かって来るとも考えられなくはないが……正直なところ、前回とは比べものにならないくらいの犠牲は出るだろうが、負ける気は全くしない。

 それほど大掛かりな戦になれば間違いなく眷属たちの本格参戦があるので、相対的には前よりも被害は押されられる可能性のほうが高いだろう。

 その結果は、どう考えても豪族連合がこちら以上の被害を受けて敗北している……はずだ。

 

 あくまでもこちらにとっての都合のいい予想でしかないが、増え続けている領域に合わせて今もなお子眷属の数は増え続けているのだ。

 特にそれぞれの数が一万を超えてからは、質の方を重視するようになっているらしい。

 できればそれらの大軍を一気に移動できるくらいに船の開発をしてから――と思わなくもないが、確かにタイミングとしてはちょうどいいともいえる。

 もし来年の戦でユグホウラの本格参戦がされるのであれば、今から一部の子眷属を移動させてしまったほうがいいだろう。

 

 色々な意味で確かにこのタイミングで決めるほうがいいと理解できたのだが、この辺りのやり取りはさすがに豪族の一つといったところだろうか。

 政治的は思惑ややり取りに関してはまだまだ未熟なユグホウラなので、今回の件も色々と参考に出来ることが多々ある。

 とにかくツガル家の参戦要請については、きちんと眷属たちと話し合っておく必要があるので一度集まってもらうべく久しぶりの集合をかけるのであった。




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