(2)カミングアウト
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ツガル家やサダ家との関係は、これからじっくり時間をかけて築いていくつもりだ。
こちら側は
上層部はそれで納得できたとしても、農地を切り開いて暮らしている民にとっては魔物は敵でしかないのだ。
いくら上から仲間だと言われても納得できないところは出てくるはずだ。
それを埋めるためにはやはり時間をかけていくしかないわけで、そこはじっくりと意識改善をしていくつもりだ。
ただ今のままの状態でいてもあまり成果は得られない可能性が高いので、魔物の卵孵化作戦をしていくことも考えている。
プレイヤーを相手に売っている魔物の卵は思った以上の成果を得られているので、こちらの世界の住人にも通用するかもしれない。
そうやって人になじみのある魔物を増やしていけば、魔物の全部が敵対的ではないと理解してくれる民も増えていくはずだ。
人族と魔物の関係を高めていく第一弾としては、やはり馬系の魔物がいいだろうと思われる。
そのためにもまずはレオとの関係性を高めて行こうということで、俺自身が乗馬の訓練を始めていた。
……のだが、はっきりいってしまうとその必要性はなかった。
世界樹の精霊となっているからなのか、レオの能力が高いのか、あるいはその両方のお陰なのか、普通に乗っているだけなら訓練らしい訓練をしなくても乗れてしまったのだ。
正直なところ空を飛んで移動ができる精霊である今は、馬に乗る必要性がないのだが何かの時のために必要となるかも知れない。
そう思っての訓練だったのだが、まったく必要なくなってしまった。
ただし地上を移動する分にはレオに乗っていた方が速く長距離を移動できるので、完全に無駄だったというわけではない。
山中もほとんど関係なく動けるので、特に早駆けをした場合は以前とは比べ物にならないくらいに早く移動できる。
ちなみにこの春に生まれたレオとランカは、既に一段階目の進化をしている。
そのお陰なのか以前のようにぴったりくっついて回るということは無くなっているが、それでも以前の名残なのか出来る限り近くにいようとする傾向にある。
特に大きく変わったのはランカで、以前はドラゴンパピィだったのがパピィが取れてドラゴンになっている。
大きさも頭から尻尾の先まで入れると全長三メートルほどになっているので、以前のように頭の上に乗られることはなくなっている。
もっとも当人は頭の上に乗れなくなっているのが寂しいのか、時々頭上を飛んでいる時がある。
ただそれ以上に変わっているのが、人型への変化ができるようになっていることだろう。
こちらは以前のアンネと同じように少女の姿なのだが、それでもたどたどしく言葉を操っている。
いずれはしっかりとした言葉を話せるようになるのだろう。
「――それにしても女性に限って人型に近い姿になっているのは何か意味があるのかな?」
世界樹の近くで駆け回っている人型の欄かを見ながら何気なくそんなことを呟くと、何故かシルクからジト目を向けられてしまった。
「えっ……!? あれ? 何か変なことでも言った?」
「はぁー。これですから、主様は。わたくしたちが人族に近い姿になっているのは、主様が男性だからではありませか」
「…………はい?」
全く想像していなかった答えに、思わず目をパチクリさせた。
「今の主様が性に関してどうこう感じなくなっているのは存じておりますわ。それでも出来る限り近い姿でいたいと思うのが女心ですわ」
「え、えー……そうなの? あ。もしかするとミアが人化しないのは、そういう種族だからではなくて……」
「勿論、ルフという存在がいるからでしょう。それに人に近い姿で仕えるよりも、狼のままの方がいいと考えているからでもあります。男性陣は……それこそ人の姿になる必要性がありませんわね」
これまで全く気にすることのなかった事実に、思わず惚けてしまった。
いくらそういった欲から遠くなっているとはいえ、さすがにこれまで全く気付けなかったのは間抜けにもほどがある。
……と思ってみたものの、正直にいえばその事実を知ったからといってこれから何かが変わるわけではない。
今の俺にとっては、言葉で会話ができるという便利さはあるが、人の姿であろうと魔物の姿であろうと同じ眷属という認識でしかない。
そんなことを呟いていると、何故かシルクが真顔のまま頷いていた。
「――ちなみに、今のわたくしだとこんなこともできますわよ?」
そう言ったシルクの姿が、これまでのものと違って大きく変わった。
その変化がどんなものかといえば、アラクネらしい下半身蜘蛛だった姿が完全に人の足になっていた。
「ええ……? いつのまに?」
「ひとつ前の進化辺りからでしょうか。特に必要性は感じなかったので、これまで見せる機会もありませんでしたわ」
「なるほどねー。でもこれからは必要になることもあるので、今のうちに教えてくれた……と?」
「その通りですわ。これから先、ユグホウラはどう考えても人族との対応が増えて行きますから」
もっと前に言ってくれればよかったのにと思わなくもないが、そもそもツガル家との交渉にクインを向かわせたのは人に近い姿であるということもあるが、それ以上に子眷属たちにもそれが多いからだった。
では蜘蛛の子眷属たちはどうなのかと思えば、やはり蜂ほどには多くはないそうだ。
そのこともあってシルクは今まで黙っていたようだが、折角そういう話の流れになったので話すことにしたとのことだった。
別に怒ってはいないので、そこまで申し訳なさそうな表情をする必要もないのだが。
「そうか。シルクがね。……でも確かに言う通り、あまり人の姿になられても変わりない気もするか……」
そもそも子眷属がいるシルクたちは、メインの仕事が子供たちへの指示になっている。
クインの場合は特例中の特例であったし、今後については子眷属が人族とやり取りする場面も出てくるだろう。
そういう意味では、シルクが人の姿を取れるということに、今のところあまり意義を見出すことはできない。
そんなことを考えていると、先ほどまで空を飛び回っていたランカがいつの間にか女の子の姿になってシルクに抱き着いていた。
「シルクお姉ちゃーん」
「ハイハイ。甘えたくなったのはわかりますが、主様との会話を邪魔しないでくださいな」
「いやいや。それは別にいいじゃないか。――というか、ランカもしっかりとシルクだと認識しているんだな。まあ、シルクの場合は下半身が変わっただけだからそこまで違和感はない……のか?」
「それもありますが、わたくしたちの場合は相手を魔力によって認識しているところもありますわ。ですから姿かたちは二の次になりますわね」
「なるほどー。そこも人族とは相いれない感覚なのかね。……いや、そうでもないか?」
例えばヒューマンよりも魔法的な感覚に優れているエルフ種などは、魔力によって区別をしている場合があるかも知れない。
だとするとやっぱりヒューマンとエルフでは違った感覚で接しなければならなくなる……のだが、少なくとも今までそこまで大きな齟齬は感じなかった。
となるとやはりエルフ種は、魔物ほどには魔力的な感覚が強いというわけではないということになる。
意外な話の流れで種族的な差異が分かって可能性があるが、シルクのカミングアウト(?)で考えていたことが大きくずれてしまった。
まずは人族との交流を増やすためにも、できる限り馬系の魔物を増やしていきたいという話だった。
そのことをシルクに改めて伝えると、子眷属たちの卵探索の機会をもう少し増やしてみるということで話が落ち着いたのであった。
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<おまけ>
キラ「も、もしかして、性別が男の眷属が人型になった時には……」
シルク「フフフ。そういうことですわ」
キラ「( ゚Д゚)」
シルク「勿論、冗談ですわ。人族と会話するのに人型が便利だからと変化の能力を得る者もいるでしょう」
キラ「(´∇`) 」
シルク「(でもやっぱり、そっちの確率のほうが高い気もしますが、言わないでおきましょうか)」
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