(3)発見

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 レオで乗馬訓練をしながら日々を過ごしていると、ある情報が蜂の子眷属からもたらされることになった。

 その情報を聞いた俺は、敢えてレオに乗って歪みの調査をしているはずのユリアのいる場所へと向かった。

 エゾ内で旅をしているユリアがどこにいるかは、蟻の子眷属たちが日々仮拠点づくりをしているのでわかっている。

 ユリアは、自身の居場所が逐一報告に上がっていることを最初は不満に思っていたようだが、ひと月以上たっている今となっては忘れているようだった。

 ちなみに馬系の魔物であるレオだが、移動に関してはやはり競走馬とは比べ物にならないくらいの能力を持っていた。

 瞬間的に走るスピードでいえば競走馬のほうが早いのだろうが、持っている持久力があり得ないほどに高かったのだ。

 競走馬の場合はトップスピードが出せる時間は長くても数分とかになるはずだったが、レオの場合は原付くらいのスピードだと時間単位で走り続けることができる。

 しかも森の中という悪路を走ることがでいるのだから、移動手段としてはとんでもなく優秀な部類に入る。

 

 そんなレオに乗ってユリアのいる場所に着いたのだが、尋ね人は不思議そうな顔をして聞いてきた。

「レオ様、どうされたのですか? 私のところまで来るのは珍しいと思うのですが?」

「うん。ちょっと報告があってね。子眷属からの情報で、例のダンジョン発生前のような異変を見つけたって」

「そ、それは……確かに大事ですね」


 そもそもユリアがエゾ内を旅しているのは、色々な歪みを見てみたいという目標があったからだ。

 それでも以前ダークエルフの里の傍で見つけることができたような変化する歪みは、今のところ見つけることができていない。

 その歪みをもしかしたら見つけることができたかもしれない。

 ――その話を聞いたユリアが、見たいと言い出さないはずがないという確信があったので、ここまで教えに来たのだ。

 

「ちなみに場所はどちらになるのでしょうか?」

「今度はツガル家のとある村にほど近い場所だって」

「それは……私が行っても大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫じゃない? そもそもちゃんと船を使っていくつもりはないし」


 ――「はい?」と不思議そうな顔をして首を傾げるユリアだったが、それを気にすることなく彼女の右肩に触れて近くにいた蟻の子眷属に言った。

「そこまで時間をかけずに戻ってくるから、この拠点は維持しておいて。レオもここで待っていてね」

 俺のその言葉に、声を掛けられた蟻の子眷属(身長一メートルほど)が一番上にある右腕を胸らしき場所に当てて頭を下げてきた。

 どうやらそれが蟻の魔物にとっての敬礼らしい。

 レオも当然のように言葉は理解しているので、その場で「ヒヒン」とだけ返してきた。

 

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 ユリアの右肩に触れた俺は、転移魔法を使って一度ツガル領内に植えた精霊樹のところまで移動した。

 転移装置の存在を知っていたユリアだが、俺自身が魔法を使えることは知らなかったらしく目を丸くして驚いている。

 いきなり報告のあった場所へ転移しなかったのは、一度精霊樹を経由したほうが分かりやすかったからだ。

 どういう理屈なのかはわからないが、精霊樹がある範囲内ではいきなり目的地に転移するよりも一度経由したほうが転移しやすいということが分かっている。

 もしかすると世界樹と精霊樹では魔力の質のようなものの違いがあるのかもしれない。

 そこはまだ詳しく調べてないのでわからないのだが、とにかく経験則で精霊樹を経由したほうがいいとわかっているのでそうしている。

 

 それに加えて、ユリアは未だに精霊樹を見たことがない。

 折角の機会なので精霊樹を見せておこうと考えて、一度そこで休憩をとることにした。

 転移魔法でいきなり連れてきたので、心を落ち着かせるという意味もある。

 その甲斐があったのかはわからないが、ユリアは初めて見る精霊樹を真剣に観察していた。

 

 ユリアが満足するまで精霊樹を見たあとは、再び転移魔法を使って目的地へと向かった。

 目的の歪みが大体どの位置にあるのかだけは事前に聞いていたので、適当な位置に定めて転移をした。

 こうして考えると転移魔法便利すぎと思わなくもないが、世界樹(精霊樹)の魔力の範囲内だけに限られるのでいつでもどこへでも使える万能魔法というわけでもない。

 ちなみに今回はユリアと一緒に転移しているが、同行できる人数は俺自身が触れることができる人数となっていたりする。

 

 ――というわけで早速別の子眷属の案内の元、歪みのある場所へと向かう。

 そこは人族が住む村に近いということで、人に見つかってしまうと討伐される可能性もある。

 それでも監視の子眷属がいるのは、俺が行くことを伝えてあったことといつダンジョンが発生してもおかしくはないためだ。

 人族には見つからないように十分に警戒しているためか、今のところは見つかってはいないようだった。

 

 子眷属にはは歪みは見えていないが、ダンジョン発生の直前の違和感のようなものは感じ取れるという話だった。

 今回はそれが間違いないかどうかを確認する目的も含まれている。

 そしてその結果がどうかといえば――、

「これは……間違いなさそうですね」

「だね。大きさも以前見たのと比べて大きいし、何よりも呼吸しているみたいに動いているのが……」

「本当ですね。こうして見ると生きているみたいです」

 時折小さくなったり大きくなったりしているのを見ると、心臓が動いているような感じにも見えてくる。

 それを言ってもユリアには通じないと分かっているので、敢えて呼吸していると言い変えてみた。

 とにかく今目の前にある歪みが、以前ダークエルフの里の傍で見つけた歪みと似ていることだけは確信できた。

 

「後の問題は、これが本当にダンジョンになるのか、だけれど……」

「このまま放置して観察するのでしょうか?」

「観察するといっても場所が場所だからなあ……。ダークエルフの里みたいに気楽に見られる場所でもないし……」

 ダークエルフの里の近くであれば、長に伝えてさえおけばまかり間違っても子眷属が討伐されるなんて事故は起きなかっただろう。

 だが今いる場所は、上層部を除いてユグホウラの存在が明らかになっていないので、そうそう簡単に経過を見守っておくなんてことは言えない。

「子眷属たちの安全には変えられないから、数日おきくらいに見てもらうことにしようか。あとは実際にダンジョンが発生したら教えてもらうってことで」

「そうですね。それが良いでしょう」

 ある程度の結論を出したところで、周囲を子眷属たちに警戒してもらいながら歪みを観察することにした。

 俺はともかくユリアは村人に見つかったからといって何があるというわけではないのだが、子眷属たちと一緒にいるというだけで疑われる要因にはなる。

 

 一応精霊樹の領域内ではあるのだが、全く安全とは言えない場所なので出来る限り手早く観察することにした。

 といっても俺やユリアが触れてしまうと折角の歪みが消えてしまう可能性があるので、出来ることは周囲から見ることだけである。

 出来ることならどの程度の大きさになれば変化が起きるのかなど知りたいところだが、安心して見守ることができない以上はどうすることもできない。

 いっそのことツガル家に伝えて堂々と観察しようかとも考えたが、ダンジョンが発生する前に見つけることが出来るかもしれないなどと知られると大騒ぎになることは目に見えている。

 

 この歪みが本当にダンジョン発生の前兆なのか、それが確信できるまでは迂闊に動くこともできないのだ。

 というわけで、今は数日ごとの様子見で我慢することしかできないのである。



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