(8)一つの結果
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
こちらの世界の宗教に関しては、魔法という存在があるためか伝達の速度は元の世界とは比べ物にはならないくらいに早い。
それでもまだ一神教に当たる宗教が入ってきていないのは、いい意味でも悪い意味でも幸いといったところだろう。
というよりも四大(地水火風)を中心に考えた魔法という
もっともそれらすべてを超えた偉大なる存在を作り出すことは、人族、特にヒューマンにとっては容易なことだろう。
今はなかったとしてもいずれは一神教に相当する宗教が生まれてくるか、あるいは既に生まれていてもおかしくはないと考えている。
ちなみに俺自身の宗教観は、既に運営という存在に出会っていることもあるためか、神かそれに近い存在はいてもおかしくはないと考えている。
ただし、一神教のようなただ一つの神だけを中心とする信仰は信じるつもりはない。
とはいえその考え方を他人に押し付けるつもりもないのだが。
それぞれの宗教を真面目に信仰している信徒の方々はともかくとして、神々を利用して戦を仕掛けるというのはどの世界でもあり得ることだ。
それゆえに今回のツガル家もまた、ユグホウラを味方につけるという方針を決定したのだから、否定することもおかしい。
もっとも宗教の力を利用したとしても、それが暴走してしまう可能性も多分にある。
だからこそツガル家は、今回の戦では上層部にのみ限って知らせるという方針にしているのだろう。
あまりにユグホウラに頼るようになっては今後のためにならないということもしっかりと考えられてはいるだろうが……そこはこちらが考えるべきことではない。
ツガル家がユグホウラを象徴として利用するのであれば、それはそれで構わない。
ただし都合よく動く存在ではないということは、これからもしっかりと釘を刺しておく必要はある。
あくまでもお互いに利があるときのみ動くという適度に近しい関係であればいい――というのが今のところの都合のいい考え方だ。
そしてそんなツガル家は、数日前予定通りにトウドウ家との戦闘に突入していた。
相手方のトウドウ家としては、ツガル家とにらみ合いさえ続けていればいずれイトウ家が決着をつけてくれるという心づもりがあったらしい。
ツガル家の七割近い戦力を自分たちが引き付けておけば、数に勝るイトウ家が陸の反対側を制して、その報告がツガル家を混乱させる。
――そんな考えの元、数で劣るトウドウ家はある程度の場所でとどまって、そのまま膠着状態にするという布陣をしいていた。
とはいえ、そうなることを予想していたツガル家はそれを許さずに、真正面からぶつかる……だけではなく山中に隠していた部隊を後ろからぶつけるという作戦を取った。
真正面にいた部隊以外はイトウ家に向かっていると考えていたトウドウ家は、この奇襲をまともに喰らって最初に取っていた布陣は見事に崩された。
ただ相手もそうそう簡単に敗走するということにはならず、完全包囲が完成する前にどうにか逃げ出すことに成功したようだ。
これをツガル家の采配ミスとみるか、トウドウ家がうまかったとみるかは微妙なところだろう。
最初の情報戦で負けていたトウドウ家が駄目すぎるというのは、ユグホウラという存在すらほとんど広まっていないこの状況では厳しすぎる意見だろう。
それくらいに、今回の戦では徹底的にこちらの存在を隠していた。
数日前にイェフを通してサダ家に知らせたことは除いて、だが。
いずれにしてもツガル家の挟み撃ち作戦は見事にはまり、半包囲網のような状態で戦いが始まってしまったトウドウ家は初手としては手痛すぎるほどの被害を受けることになった。
この一手だけでトウドウ家が引いてくれれば、ツガル家としては構わなかったのだったが、残念ながらそうはいかなかった。
イトウ家との密約がそれほどまでに強いのかはわからないが、トウドウ家は減ってしまった軍を立て直して再び向かってきたのだ。
ただし向かってきたといっても、最初の時と同じようにむやみに仕掛けてくるようなことはせずにその場でにらみ合いのような形をとっていた。
トウドウ家としてはあくまでも太平洋側にツガル家の軍を引き付けて置けばいいだけなので、とにかく時間稼ぎをしておきたかったのだろう。
そんなことはツガル家も理解しているので、二回目の戦闘は数の多さを利用した作戦に切り替えて数日後には二度目の戦闘になった。
一度目に失われた数を補うことも十分ではなかったためか、もともと数で不利に経たされていたトウドウ家は、この戦いで完全に敗北という結果に終わった。
正確にいえばトウドウ家からの降伏の使者が送られて、それをツガル家が受け入れたという形になる。
細かい条件は今後打ち合わせることになったが、少なくとも一年間の休戦協定だけは確実に結ばれることになる。
トウドウ家もまだまだ戦えるだけの数は残っている段階でも休戦となったが、さすがにこれ以上消耗すれば家自体が消滅する可能性もあった。
それを考えれば、トウドウ家が降伏の使者を送ってきたのは素晴らしい判断だったともいえる。
このまま続けていれば完勝できていたのだが――と宗重が言っていたらしいが、そこまで甘くはなかったということだろう。
いずれにしても、これでツガル家対トウドウ家の戦はここで終わりということになった。
時間にすれば接敵してから半月ほどでの決着だったが、トウドウ家にとっては完全に手痛い敗北だったといえる。
時間稼ぎが主な目的だったことを考えれば、半月しか稼げなかったのは予想外だったと思われる。
停戦協定の話し合いでもそのことが感じられたというが、その話し合いには宗重は参加しておらず重鎮の一人から話を聞くだけだったらしい。
その話し合いでも出来る限り時間をかけるという意気込みをトウドウ家側から感じたらしいが、ツガル家はそれを一蹴していた。
事実その話し合いでトウドウ家側はのらりくらりと躱そうとしていたらしいが、ツガル家はすぐに席を立ってしまうという場面があったらしい。
その日のうちに再度の話し合いの場が持たれたが、それによってトウドウ家にもツガル家の本気が伝わったようだった。
このまま誤魔化し合いを続けるのは不可能だと。
これにより始まって半月という短期間での決着となったが、ツガル家にとってはそこまで実入りが多い戦だったというわけではない。
話し合いもそこそこに終わらせる必要があったので、多くの報酬を求めるというわけにはいかなかったようだ。
それでもトウドウ家側の町一つと周辺にある村の所有権は得ることができたので、一度の戦いの結果としてはまずまずだったといえる。
それらの結果を得て、両家はお互いに軍を引いてそれぞれのいるべき場所へと戻っていった。
といってもツガル家にとっては一つの戦が終わっただけで、続いて日本海側での戦いが待っているわけだが。
その状況はトウドウ家も分かっているが、さすがに協定を破って再度攻め入ってくるような真似はしてこなかった。
それをしてしまうとツガル家だけではなく他家に対しても申し開きができない状況になるので、休戦協定を破るという選択肢は無い。
トウドウ家にとっては苦い結果になったわけだが、休戦協定が切れた時に当主がどの選択肢を選んでくるかは今のところ分かっていない。
それもこれも対イトウ家の結果次第だということは宗重にもよくわかっているはずだ。
だからこそツガル家の軍は、一つの勝利を収めたにも関わらず、すぐさま比較的緩やかな奥羽の山中をひた走っているのだ。
彼らにとっては、戦いはまだまだ終わっていないのである。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます