(3)冬の植物
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魔石を利用した投資については、運営から公式に発表があった。
どうやらもともとダンジョンマスター強化以外にも使えるようにする予定だったらしい。
要するに運営公認の貸金業というか銀行業務ができるようになったと考えればいいだろう。
この発表は俺が所属しているサーバだけではなく、他のサーバーでも同時に発表となったことも伝えられた。
剣と魔法の世界なら分かるのだが、近未来だったり未来の世界にいるプレイヤーは魔石なんてあるのだろうか?
そんなことを疑問に思いつつもこちらにはあまり関係がないことなので、一瞬思い浮かんだだけでそのままスルーした。
とにかくダンジョンマスターのブートキャンプは始まったばかりなので、「龍の人」さんが広場が作れるまではまだ時間がかかる。
ちなみに運営から投資機能の追加が発表されたことで、他のプレイヤーにも「龍の人」さんのブートキャンプ計画は明らかにされている。
既に予定の量が集まっていて募集が締め切られているということもあるが、そもそも希望者もあまりいなさそうだった。
こればかりは仕方ないのかもしれないが、やはり規制解除まで行っているプレイヤーだと一回り以上稼ぎが違うようだった。
「龍の人」さんが広場を作れるようになるまでには、まだまだ時間がかかる。
それまではハウスでも大きな変化は起きないだろうということで、しばらく落ち着いてユグホウラの対応をすることができるようになった。
といってもハウスで対応をしていた時間は、それほど長い時間ではない。
ホームに戻ってツガルの状況を確認してみれば、実際に動きが出るまではもう少し時間がかかるということだった。
そもそもハウスにいた間の時間経過が数日も経っていなかったので、それも当然かもしれない。
エゾでは雪が解け始めたばかりだが、ツガル辺りでも雪解け水で道がぐちゃぐちゃという状況が続いている。
そんな悪路の中で行軍すると披露ばかりがたまっていいことが無いということも起こりえる。
完全に奇襲になるのであれば多少の疲労があってもいいのだろうが、相手のイトウ家やトウドウ家にはツガル家が対応を始めているという情報が行っているのか、既に奇襲は諦めているようだ。
クロダ家の当主(当時)が処分されたことから、その情報が推測されたと思われる。
それでも二家同時の作戦には自信があるようで、ばれていたとしても攻撃を止めるという選択肢はないようだった。
ツガル家がユグホウラと手を組んでいるという情報は、上層部で完全にストップしているので今のところはまだツガル家が両面作戦をすると考えているらしい。
というわけでツガル家の戦が始まるまで少しだけ時間ができたので、攻略が順調に進んでいる樺太に向かった。
こちらは領土一つ分の攻略が既に終わってもう一つ分の領土までもう少しというところまで手が届いている。
各ボス攻略はファイを中心に進んでいるので、こちらが細かく指示を出すようなことはほとんどなくなっていて結果報告を受けるだけだ。
その状況で何故直接ここまで来たのかといえば、樺太攻略を始める理由の一つとなっている冬の種の効果を確認するためだった。
「――随分と順調に進んでいる……というか思った以上に繁殖力が強いのかな?」
「わたくしにはわかりませんが、主様が仰るのであればそうなのでしょうか」
領土の半分以上が冬の植物に覆われている状況を見ての感想に、クインがそう答えてきた。
クインはツガル家方面の攻略のメインも担っているので、戦になる直前のこのタイミングしかなかったのだ。
ちなみに冬の種から咲く冬の花の管理は、蜂の子眷属が行っている。
「もしかしたら好きに繁殖していいと伝えているからのスピードなのかもしれないけれどね」
「繁殖力が強いのであれば少し抑えますか?」
「いや。このままでもう少し様子を見ようか。人も住んでいないから迷惑をかけることもないだろうしね。他の植物は……それこそ生存競争に負けたということで」
人族のことは気にするのに植物は大丈夫なんかい、という突っ込みを受けそうだが、そもそも俺自身も世界樹という立派な植物の一種なのでそこは気付かなかったことにしておく。
冬の植物が世界樹の魔力に影響を受けているかどうかはまだまだ不明なところがあるからこそ実験を進めているのだが、今のところはよくわかっていない。
このままだと冬の植物の繁殖力よりも攻略スピードのほうが速いので、すこし押さえてもらう必要があるかも知れない。
かといって折角勢いに乗っている今の状態に水を差すのもためらわれる。
「……というか、別に悩む必要なかったか」
考えている途中で思いついたことに、つい自分自身で落ち込んでしまった。
「何か思いつかれましたか?」
「いや。思いつくというか、普通に領域化していないところに埋めてみれば良いだけかなと」
「それはそうですが、芽吹くところまで行きますか? このままだと冬が来る前に全域領土化しそうですが」
「それは確かに。でもまあやってみて損はないからやってみることにしよう」
どうやら以前の領域から外に出れないという意識が未だに残っているようで、領域外に冬の種を植えるという発想に至らなかった。
というか領域の外に出られるようになってからもエゾを公領化してからは領域外に出る必要性も感じなかったので、実験で領域外に出れるとわかってから外に出ることもほとんどなかった。
――という言い訳を心の中でしつつ、早速樺太の北に転移で向かう。
転移が使えるのは領域内だけなので、そこから先は空を飛んでの移動になる。
ちなみに一緒に着いてきてくれているクインは、いつの間にか自前で転移ができるようになっている。
「この辺りでいいかな?」
「場所は特に問題ないでしょうが、本当によろしいのですか? ここまで来ると子供たちの手入れはできませんが」
「それを含めての検証だからね。いいと思うよ」
樺太の島はもともとすべてを冬の植物で埋める予定だったので、勝手に繁殖してしまっても問題ない。
あくまでも知りたいのは、世界樹の魔力で満ちている領域とそれ以外の場所での繁殖能力の違いだ。
いずれ領域化するときに雪で埋まってしまっている可能性はあるが、それはこの辺りを支配している領域ボスも同じ条件で戦うことになるので構わないだはずだ。
何となくの予想だけで動いている感じだが、こればかりは実際にやってみないとどうなるのか分からないのでどうしようもない。
もっとも眷属や子眷属だけではなく、そもそもこの辺りに住んでいる魔物が冬に強いので一年中雪に覆われているだけでどうにかなるとも思えないのだが。
今までいた動植物がいなくなりそうという懸念については、そもそも島全体を冬の植物で埋め尽くすと決めた時から諦めている。
どちらかといえば、冬の植物で埋まった島で生存可能な動植物が新しく出てくることを期待しているくらいだ。
地球であればどこかの○物愛○団体辺りが騒ぎ出しそうな大雑把な計画だが、こちらの世界にはそんなものは存在していないので気にする必要もない。
もしいたとしても、完全に無視して実験自体は進めているだろうが。
いずれにしても既に冬の種は植えてしまったので、あとは結果がどうなるかを確認するだけだ。
これでこの場所で繁殖が進まなかった場合には、冬の植物の繁殖には世界樹の魔力が必要だということがわかるはずだ。
例によって結果が出るまでには最低でもひと月以上に時間がかかるだろうが、それくらいは大した時間ではない。
それにそれまでにはツガル家の結果も出ているはずなので、ちょうどいいだろう。
ツガル家の状況は希望も多分に入っているが、できることならそれくらいまでには決着がついていて欲しい……というのはあくまでも今のところは俺自身の甘すぎる希望でしかない。
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