(2)広場
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『ダンジョンマスターブートキャンプ計画』は、簡単にいえばプレイヤーで初のダンジョンマスターになった「龍の人」を投資によって強化していこうという話だ。
プレイヤー同士が使える共通の空間を作るためにダンジョンマスターの能力が必要になるが、そのためにはダンジョンマスターの能力を上げなければいけない。
ダンジョンマスターの能力を上げるためにはダンジョンそのものの能力を上げる必要があり、それには大量の魔石(というかマナ)が必要になるというわけだ。
世界樹の場合は領域を広げて世界樹の能力を上げてマナの吸収量を増やして行くが、ダンジョンは領域に寄らず直接マナを吸収することによって能力を大きくしていくらしい。
ちなみにダンジョンにとってのマナの吸収は二種類あるらしく、一つは周辺地域から自動的に吸うもので、もう一つは侵入した生物を倒して吸収する。
どちらの方法を取ったとしても今すぐに別世界同士をつなげる空間を作ることなどできるはずもなく、それが出来るようになるためには大量のマナ(魔力)が必要になる。
そのためにどうにかして「龍の人」さんに対して魔石を大量に渡す方法を探っていたのだが、それが運営によって解決することになった。
一言で言ってしまえば「龍の人」に、投資という形で魔石を渡すことができるようになったのである。
ただそこは「プレイヤーの生き様を観察するのが目的」と言い切っている運営(というか上司)が関わっているだけあって、単純に投資すればいいということにはならなかった。
投資は投資なので、「龍の人」がただただリスクを負わずに恩恵を受けるのは面白くないと上司が言い出したらしい。
もし投資システムができた場合には出す側になるだろうと予想していたので、リスクなしで出しても構わないと考えていたのだがそうは問屋が卸さなかった。
運営が提示してきたリスクを確認した規制解除組は、揃って「さすが上司」と声を揃えることになる。
その運営が提示したリスクとは、次のようなものだった。
まず投資の方法については、一人からすべて受けるものと複数人から受けるものに別れる。
どちらの場合も投資を受けた側はリスク――借金という形で投資を受けた分、しっかりと返済する必要がある。
返済時に利子を設定するかどうかはお互いの話し合いで決定するが、利子(利息)をゼロとすることはできない。
この支払は、投資を受けた側が異世界で死亡して第二の人生が始まっても続く。
ただし投資を受けた側が輪廻の輪に戻った場合は、すべてのリスクはなくなってしまう。
――要するに、プレイヤーがこのゲームから退場した場合は、投資をした側が不利益を被るということだ。
これを見た時には投資というよりも借金と呼んだ方が良いのではないかと思ったのだが、そんな細かいことを気にしても仕方ない。
どんな形であれ「龍の人」に対するブートキャンプができるようになったことは確かだからだ。
問題は「借金」という形を「龍の人」がどう受け止めるかにかかってくるのだが、これは割とあっさりと結論を出していた。
たとえ借金という形であってもちまちまと時間をかけて能力を上げるよりは、一気に上げてしまったほうがいいと。
ダンジョンマスターの能力が上がれば、あちらの世界で死ぬ確率も低くなるはずなので第二の人生のことは考えないそうだ。
「龍の人」が攻略できたダンジョンは割と人里から離れていて見つかりにくい場所にあるらしく、いつくるか分からない人族を待つよりもリスク(借金)を負った方がいいとのことだった。
というわけで「龍の人」に対する投資は決まったわけだが、問題はダンジョンマスターの能力を上げるだけでは終わらなかった。
そもそもの目的はプレイヤーが利用できる空間を作るということで、できた空間が「龍の人」がダンジョンマスターではなくなった時点で消えてしまっては意味がない。
「龍の人」が第二の人生を歩むことになった後も空間が残るのかどうかを運営に問いかけたところ、返ってきた答えは「残る」だった。
もともとプレイヤー用にダンジョンマスターが作る空間は、作られた時点で運営側が固定をするそうだ。
その空間を固定するのに必要な経費は運営持ち……では勿論なく、それぞれのプレイヤーとその空間を繋ぐときに経費として取られることになる。
さらにその空間とつなぐときに一定の広さの「土地」が与えられるらしく、その地代として定期的に徴収もされる。
ある意味では公平なその仕組みに、規制解除したプレイヤーたちはなるほどと納得していた。
一応取られることになる経費を確認してみたが、そこまで暴利をむさぼられるような設定にはなっていなかった。
ちなみにこのプレイヤー同士が直接対面できる空間――話し合いの途中で『広場』と名付けられた――は、ダンジョンマスターしか作ることができない。
プレイヤーに作ることができるということは運営にも作ることができるだろうが、そこまでの関与をするつもりがないということだろう。
それはともかく、ダンジョンマスターしか作れないということは、新規で作成を希望するプレイヤーが現れた時にダンジョンマスターがいないと意味がないということになる。
日本と違ってとにかく不安定な世界に生きているので、絶対に死なずにいられるという保証はどこにもないのだ。
となれば新規希望者が出た時にダンジョンマスターがいなくなる問題をどうにかしなければならないという議論が起こったが、これも運営があっさりと解決した。
解決というよりも仕様の確認といった方がいいだろうが、そもそも広場ができれば別に規制解除がされていなくてもどのプレイヤーでも空間を繋ぐことができるようになるらしい。
掲示板で案内人さんが話していたことと若干内容が変わっているが、この辺りは運営で話し合って――というよりも上司の介入があって変更があったようだ。
ただ空間を繋ぐためにはそれなりのマナ(魔力)が必要になるらしく、あまり稼げていないプレイヤーにとっては払うのは難しいだろうということだった。
ただこの場合でも先ほどの投資(借金)は適用することができるようで、解決策はしっかりと用意されていた。
広場で起こったプレイヤー同士の諍いについては、運営が介入することは基本的にない。
ただし当事者同士が運営の介入を望んだ場合は動くこともあるそうで、この辺りは前の世界の警察とほとんど変わらない。
プレイヤー同士で争って最悪の自体が起きた場合は、それこそ本当に死に戻りと変わらない状態になるらしい。
要するに広場に戻ってくることが可能なので、別プレイヤーに理不尽なことをされたとしてもすぐに周りに訴えることができるそうだ。
プレイヤーの生き様を観察するのが目的と断言している運営だけあって、その場で何が起こったのかは常に監視されているので嘘を吐くことはできない。
ある意味、最強の監視システムといえるかもしれない。
これまでの掲示板でのやり取りを見ている限りでは、そこまでぶっ飛んだプレイヤーはいなさそうなので大丈夫だとは思うが、前もってこの辺りを知れたことは重要だろう。
この辺りのことを知った他の規制解除されたプレイヤーたちも納得していたので、その後は問題なく広場を解禁する方向で動き始めた。
となると後の問題は「龍の人」にどの程度の投資をする必要があるのかということになるのだが、それなり以上の魔石を要求されることが分かった。
規制解除されたプレイヤーはこぞって投資する希望を出していたのだが、それでも半分にも満たない魔石しか集まらなかったそうだ。
というわけで残りの分は俺が払うことにしたのだが、これまでため込んでいた分の半分以上を投資に使うことになってしまった。
さすがにダンジョンの能力を上げるという目的だけあって、眷属たちの進化と同等に扱うことはできなかった。
もっともその額をあっさり払ったことに他のプレイヤーが若干引いていたような気がするが、気のせいだと思いたい。
ともかく「龍の人」ブートキャンプは無事に発動することになり、あとは能力が上がって空間が解放されるのを待つことになるのであった。
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