(4)今後の行方

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 植物生成を使って作れる謎の種は、何も冬の植物だけではない。

 ステータス上で持っている属性を持たせることが可能なので、作ろうと思えば火属性に強い植物も作れるはずだ。

 世界樹自体がマグマの閉じ込められた空間に足(根)を突っ込むことができるようになっているのだから、ある意味当然ともいえるかもしれないが。

 問題なのはそれらの属性を追加した種を生みだしても育てる場所がないということで、ほとんど実験することができていないだけである。

 暗所でも育つ火属性系の種を作って、地下にあるマグマ部屋で植物を育ててみるというのも手の一つだろうか。

 それで作った植物が何の役に立つかはわからないが、今後なにかの役に立つこともあるかもしれない。

 ――と、言いたいところだが、残念ながらそこまで手を出せるほど時間的余裕がないことも確かだ。

 少なくとも今はツガル家の戦が控えているので、後回しに出来るよなことは出来る限り手を出さないようにしている。

 

 今は冬の種を使って色々とやっているところだが、別に地球全体を冬の星にするつもりはまったくない。

 冬の植物をこれから先も繫栄させていくかは決めかねているところで、もしかすると樺太地域と極地だけで終わらせる可能性の方が高い。

 あとは不毛の大地であるはずの南極大陸で植物を永続的に育てることが出来るのか、ということくらいだろうか。

 もとある動植物がー、ということに関しては、そもそもが魔物のいる世界なので元の世界と比べても意味がないことだと考えている。

 

 謎の種関係についてはこれからもじっくり時間をかけてやっていくつもりなので、いろいろな意味で今この段階で結論を出すつもりはない。

 その時その時で思い付いたことをやっていくので、眷属たちには不思議がられることもあるだろう。

 勿論だからといって止めるつもりはないのだが。

 これから先、領域が増えるにつれて周辺環境などが変わってくるのに合わせて、それぞれの地域で育てられる種を作ってみるのも面白いかもしれない。

 

 ――そんなことを考えながら日々を過ごしていると、ついにクインからツガル家の戦に動きがあったという報告があった。

 予想したとおりにツガル家の南にあるイトウ家とトウドウ家が軍勢を率いて北上してきたのだ。

 軍勢の数はそれぞれ三千ずつで、感想としては思ったよりも少ないなというものだった。

 どちらの家も領内に魔物がいて、さらに北ばかりに目を向けていられいないという理由があるのか、あるいは両面作戦だということに気を大きくしているのか分からないが、全軍を投入してこなかったのは少し拍子抜けともいえる状況だ。

 

 もっともそんなことを考えていられるのは、半分だけの当事者でしかないからだろうか。

 こちらはイトウ家の動きを止めるべく眷属たちをちらつかせるだけのお仕事なので、そこまで重々しい雰囲気は感じていない。

 初めての大軍(?)をぶつける戦になるので、何が起こるか分からないという点では怖いというところはある。

 それでも今回の作戦のトップに立っているクインがいつも通りでいるのは、想定以内のことしか起こっていないということを示している。

 

「――以前から人里にちょっかいをかける訓練はしてみたいだけれど、状況はどんな感じ?」

「そうですね。冒険者と正規の軍では動きも違うでしょうが、ある程度の引き際は分かるようになっています」

「なるほどね。あまり押しすぎるとこちらの被害も大きくなるから、あまり無理はしないようにね。実際に戦いに出るのは子眷属たちだから、その辺はわかっていると思うけれど」

「承知しております。今回はあくまでも突如現れた魔物の集団ということで徹底しています」

「これまでの期間があったお陰でツガル家の領地の領域化も進んでいるからね。こちらとしては既に想定した結果は得ているから」

「はい。出来ることならもう少し進めておきたかったのですが……」

いくさ前だからそこまで無理をされて結果に影響が出たら意味がないからね。あとはツガル家を勝たすことができれば万々歳。勝利が無理だとしてもツガル家が存続できればそれで構わないよ」

 

 戦の勝敗云々に関わらず、既にツガル家とは関係性ができている。

 ツガル家が領地のいくらかを失ったとしても、今の土地の半分以上を失うなんてことにならなければ再起は可能だろうと考えている。

 その際にユグホウラが表立って戦うことになるかは、ツガル家の判断次第だろう。

 同盟を破って攻めてきたトウドウ家に対して、魔物と手を組んで復讐戦に打って出てきたというストーリがあっても面白いことになるかも知れない。

 もっともツガル家の上層部にはユグホウラのトップが世界樹だということは知られているので、悪の大魔王と手を組むという意識にはならないだろうが。

 こちらの存在をいつ明かすかは完全にツガル家に任せているので、ユグホウラが一般的にどう認識されるのかは今のところ不透明なままなのだ。

 

「……正直なところツガル家が負ける未来が見えないのですが」

 周囲にいる子眷属に聞こえないような大きさの声で言ってきたクインに、俺も声を落して答えた。

「それは俺も同じ。だからといって余裕があるとも思えないからね。その辺りはツガル家の方がよくわかっているんじゃない?」

「確かにそうですね。こちらがどのくらい役に立つのか不明ということで、きちんと籠城戦の用意もしているみたいですし」

「最初から守りが硬いところにこちらの戦力をぶつけることにしたのはさすが……というか当たり前の判断かな」

「そうでしょう。少なくとも半年以上籠っていられるようにしているということは、そういうことでしょうから」


 今回のツガル家の戦い方は、日本海側のイトウ家には子眷属をぶつけて時間を稼いでもらう。

 それが無理な場合は、たびたび小競り合いが起こっていて守りとして活用していた城を使って籠城戦をこれまた時間を稼ぐというものだ。

 ここで数か月以上の時間を稼げれば、トウドウ家との戦いを終えて援軍として駆けつけることが出来るという目論見だ。

 その目論見だとトウドウ家との戦いはひと月も続かないとみているということになるが、そもそもこの世界では長期戦になることが珍しいらしいのでそんなものなのかもしれない。

 そもそもそこまで長く戦い続けると肝心の人材が激減してしまうので、長期戦は避ける傾向にあるらしい。

 

「疑似的な魔物の氾濫が起きたと見せかける部隊には気を付けてもらうとして……それ以外にはなにか注意点はあるかな?」

「今のところ特にはありません。本格的に戦争に参加するとなれば、もっと色々と手を打たなければならないのでしょうが……」

「もしツガル家が負けてこちらが参戦するように要請してくるとしても、立て直すには時間がかかる……いや。相手の二家が態勢を立て直す前に出陣を要請してくる可能性もあるかな?」

「あるでしょう。その場合は、完全にこちらに下ることになりますが」

「ツガル家としてその判断ができるかどうか、かな? いくら巨木神話があるとはいえ、魔物の集団に下るということの忌避感はあるだろうし」

「その辺りはどこまでツガル家が領民を掌握しているかにかかっているかでしょうが……それを考えるは当主と側近の役目でしょう」

「確かにね。一応こちらとしては、援軍要請が来ることも考えて動いておこうか」

「畏まりました」


 以前からも直接的な援軍要請が来ることを想定して動いてはいたが、実際に戦が始まったことで改めていつでも動けるように準備を進めておくことにする。

 このツガル家の戦いが今後のユグホウラの人族に対する方針を決定することになるのは間違いないので、まずはしっかりと戦いの趨勢を見定めるのがトップにいる俺の役目だろう。




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