(5)接触
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歪みの検証については今後もやっていくことになるのだが、それに関してちょっとした問題がある。
それが何かといえば、世界樹の巫女がそれにどう関係していくのかということだ。
これまでのユリアの努力で、巫女が歪みを発見できることはわかった。
ただそれ以外にどんな役目を果たせるのか、それがほとんど分かっていない。
正確にいえば巫女には歪みを浄化する能力があることは確定しているのだが、その能力をどうやって発現させればいいのかが分からないのだ。
まさか自分と同じように、いきなり歪みに触れてみてどうなるのかを確認するという方法はとれない。
歪みに関して何の能力も持たない普通の人族と巫女として覚醒(?)しているユリアで、歪みの反応が違ってくる可能性もあるからだ。
そんなことを考えながらホーム周辺に戻ったのだが、すぐ後でシルクから驚く話を聞くことになる。
なんとユリアが、ホームに戻ってくる途中で自ら歪みに触れてみるということをしたらしい。
結果からすれば何も起きずに素通りしてしまったらしいが、その話を聞いた時には無茶をするなと怒るべきかどうか真剣に悩んでしまった。
さすがに怒るのはやりすぎだろうということで止めておいたが、釘を刺すことだけはしておいた。
イェフとイザベラにはユリアがいてもいなくても変わらないと言ってはいるが、今のところ世界樹の巫女がユリア一人であることは間違いない。
その身に何かが起これば心配するくらいの感情は、当たり前のように持っている。
……のだが、ユリアに釘を刺しながら少し甘やかしすぎかとも考えていた。
いつかどこかでやらなければならないのは間違いなかったことなので、それについてはきちんと褒めておくことも忘れなかった。
自分の行った行動で褒められて怒られたユリアだが、どちらも素直に受け取っていたようだ。
今回のユリアの行動で駄目だった点は、事前に言わずに勝手に行動に移したことだろう。
ただ巫女の行動一つ一つをこちらに報告してもらうのも違うような気がするので、それが間違いだったと指摘するのも違っている気がする。
というわけで、心配をさせたということだけに絞って怒ったわけだが。
ユリアを怒ったといっても、それは時間にすればほんの数秒のことでしかない。
それでもユリアにしてみれば初めてに近いことだったので、十分すぎるほどに反省していた。
反省が終わった後になると俺から心配されてたことに喜んでいるそぶりも見せていたので、怒ったことによる悪影響はほとんどない――と信じたい。
さすがにこの辺りの人族の心情の変化は、眷属たちにはわかりづらいはずなので俺自身が見守っていかなければならないだろう。
――そんなこんなで歪み周りの検証を進めていると、クインからとある報告を貰った。
その報告が何かといえば、こちらから接触して情報を投げておいた宗重から改めて話をしたいという打診があったそうだ。
打診といっても情報部隊の蜘蛛と蜂が潜んでいるところに、宗重が独り言のように言ってきたそうだ。
その呟きは、確実にこちらの情報部隊が入り込んでいることを確信しているようなものだったらしい。
宗重が知らないような情報をこちらが掴んでいてさらにその情報が正しいと知ったからこその行動だろうが、その豪胆さはさすが一国一城の主といったところだろう。
こちらの情報部隊が潜んでいると分かっているにも関わらず、それを気にした様子も見せずに話をしたいという打診をしてきたのだ。
普通の感覚でできることではないだろう。
それだけで宗重がこちらの情報部隊を排除できないと考えているのかどうかは分からないが、少なくとも放置しておく度量があることだけは確実だ。
ちなみに蜂や蜘蛛の情報部隊だが、人族の力で完全に排除しようとしてもかなり難しい作業になる。
何しろ入り込んでいる子眷属は普通の蜂や蜘蛛と同じような大きさなので、まず見つけることからしなければならない。
床下や屋根裏に潜んでいる子眷属を見つけることができたとしても、それですべてかどうかも確認できないのだからどうしようもない。
子眷属たちには普通の殺虫剤的なものは効かないので、害虫を駆除するように排除することも不可能となっている。
子眷属の排除方法はともかくとして、今は宗重から直接打診があったことの方が重要だ。
「――前回と同じようにクインに行ってもらうのは確定として、どんな話をするかだろうなあ……」
「やはり私が行くことになりますか」
「前回も会っているからというのもあるし、やっぱり一番適任だからねえ。何か問題でもあった?」
「問題というか、あまり主様の傍から眷属を減らすのは……。今はアイ様も忙しく動いていらっしゃいますし」
「アイは製錬所の建築で忙しいからね。そうはいっても、今後のことを考えれば重要なことだからやっぱりクインに行ってもらうよ。こっちはシルクやルフたちもいるから大丈夫」
「それはそうですが……」
出来るだけ明るめに大丈夫といったが、それでもクインは心配そうにこちらを見てきた。
今現在の眷属は、ラックとファイは樺太方面も攻略で忙しくしており、アイとアンネは精錬所の建設でホーム周辺を離れることが多くなっている。
ルフは普段からエゾ内を駆け回っているので留守がちであり、奥様であるミアは絶賛身ごもり中なので激しく動き回ることはできない。
ホーム周辺の警備という点でいれば新しく入ったゴレムがいるが、それだけでは心もとないと言いたいのだろう。
とはいえさすがに宗重の要請を断るわけにはいかないので、クインにはどうしても行ってもらう必要がある。
「言いたいことはわかるけれど、今回ばかりはどうしようもないかな。あと数か月もすれば二つの卵から新しい子も生まれてくるだろうから人員不足も解決するよ」
「……確かにそれもそうですね」
そう言いながらも心配そうにしていたクインだったが、数秒後には頭を切り替えたのかいつものキリッとした表情になってこちらを見てきた。
「それで、今回はどこまで話をしましょうか?」
「それが問題なんだよね。結局、宗重次第になってしまうからなあ……」
今のところ、宗重が何の目的で接触しようとしているのかが分からない。
それによってこちらの動きも変わってくるのだ。
例の情報を提供した以上、恐らく次の春以降に行われるであろう戦のことに関してだと思う。
それが物理的に手を貸してほしいなのか、単に情報を欲しがっているのか、はたまた別の何かが欲しいのか、全く持って想像がつかない。
「――まあ、ここで悩んでいても仕方ないから、以前話をしていた通りに進める方向でお願い」
「では武力を貸してほしいと願ってきた場合は、構わないのですね?」
「いいよ。ただ出来る限りこちらの犠牲が無いようにしてほしいかな? 別にこっちが下手に出る必要はない……というか、最悪ツガル家がなくなってしまっても構わないしね」
「畏まりました。では出来る限り絞ってみます」
「ハハハ。あまり無理は言わないようにね。このことで変に恨みを持たれても後々困るし。ちょっと恩を貸せるくらいでちょうどいいんじゃないかな?」
「恩を感じるような人物であればいいのですが……」
「そのことを含めて今回はっきりさせるくらいの認識でいいんじゃない?」
「確かにそうですね。――わかりました。ではその方針で話を進めてきます」
「うん。お願いね」
話し合いがツガル家で行われる以上は、俺自身が向かうわけにはいかない。
以前そのことを提案したら全眷属から反対にあってしまったので、どうしようもできない。
無茶を通せば行けなくはないだろうが、こんなことでそんなことをする必要もない。
ということで、今回はクインにすべてを任せてこちらは報告を待つことになるのであった。
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唐突ですが、ここ最近キラ(昭)の二週目の話を書きたい欲が非常に強くなってきています。
(時間がないので書き(け)ませんが)
実は一週目の「終わり」と二週目の「始まり」は既にイメージの中にあったりします。(今後変わる可能性は多分にありますが)
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