(9)9体目

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 今回得られた卵は、早速世界樹の麓で育て始めることにした。

 アンネの時と同じようにこれから雪が降ることを考えて、最初から根っこを使って保護をすることにした。

 これなら根の上に雪が積もっても卵は守られるはずである。

 最初から建物を作っておけばいいのではと思われるかもしれないが、魔物を卵を育てるのであれば自然のままの状態で置いたほうがいいと考えている。

 といっても眷属から助言があったというわけではなく、単に自分の勝手な思い込みに過ぎないのだが。

 アンネの前例を考えれば自然環境のままで育てても特に問題があるわけではなさそうなので、自分の趣味にしたがって育てることにする。

 

 二つの卵を手に入れてからさらに数日後には、また新たな眷属(候補)についての話が来た。

「ご主人様、眷属候補が見つかったわよ」

「あれ? アンネが言ってくるんだ」

「そうよ。……何か文句があるの?」

 ジト目で少しだけ頬を膨らませる様子は、小さかった頃を思い出させるような仕草だ。

 進化を終えて色々と成長しているアンネだが、こういうところは全く変わっていないんだと妙に安心できる。

 

「いやいや、文句なんかないよ。それにアンネのことだから、クインやシルクにも報告しているんだろう?」

「むー。間違っていないけれど、何か期待していた答えと違う気がする」

「ははは。まあ、まあ。それはともかくその候補はどこに?」

「地下通路。今は何もしないで大人しくしているんじゃないかしら」

「あれ? 大人しく……ってことは卵じゃないんだ」


 手ぶらで来ている時点でそのことは予想していたが、どうやら既に生まれた状態でいるらしい。

 ということは、今回は相手が願っての眷属入りということになる。

 ミアの前例があるので特に心配はしていないが、まだ二例目なので珍しいことには違いない。

 

「――既に生まれている状態なのは良いとして、何の種族?」

「ゴーレム」

「……え?」

「だからゴーレムよ。岩とか金属の体で動いている大きい魔物」

「いや。それはわかるけれど……そっちじゃなくて、そんなのよく見つけたね。どこにいたの?」

「地下通路を掘っている時に見つけたちょっとした空洞の中ね。空洞に自然発生したのはいいけれど、抜け出せなくて困っていたみたいよ?」

「それはまた。どれくらいの間、そこにいたんだろう?」

「さすがにそこまでは、わからないわね」

「だよねー」


 はっきりとした答えが返ってくることを期待していたわけじゃないので、アンネのあっさりとした返しに軽く返した。

 それよりも、そんな状態でゴーレムが発生していたことの方が驚きだ。

 地下に生まれて抜け出せなくなるとか、自力でどうにかしようとはしなかったのだろうか。

 そんな疑問が沸いてきたが、そこは当人に確認しないと分からないところだろう。

 

「それでここまで報告しに来たということは、これから会いに行くということでいいのかな?」

「そう。ダメなら駄目で閉じ込めたまま倒してしまうわ」

「それはまた。折角外に出られるチャンスだったのに、可哀そうだな」

「何を言っているのよ。外で生まれていたとしてもそうなっていたんだから変わらないでしょうに」

「仰る通り」


 現在は最初の頃と違って生まれてきたすべての魔物を倒しているわけではないが、それでも邪魔になりそうな魔物は討伐している。

 進化を続ければ厄介な存在になると確定しているゴーレムは、発見後即討伐という決まりになっていた。

 通常の岩でできたゴーレムであれば、ある程度進化している子眷属であれば討伐できるので何の問題もない。

 

「そういえばそのゴーレム、種類は?」

「アイアンゴーレムね。周りに鉄鉱脈がある場所だったから、それを元にして生まれたのでしょう」

「なるほどね。――しかしアイアンゴーレムね。別の鉱石与えたりしたら進化先が変わったりするのかな?」

「さすがにそれは、私じゃわからないわ」


 当たり前だが、魔物といえども全ても種族の進化を把握しているわけではない。

 自分自身の種族のことですらわからないことがあるらしいので、当然といえば当然なのだが。

 アンネたちのように最初から意図した方向で子供を作れる種族も、ある程度の方向性を決められるだけで狙った種を生めるわけではない。

 といっても確率的な問題なので、きちんと環境を整えればその確率を高めることは出来るそうだ。

 

 魔物の発生確率はともかくとして、今はゴーレムの問題を解決することが先だろう。

 眷属になるならそれでよし、ならなかったとしてもアンネが言ったとおりに討伐することになる。

 一度は仲間にと望んだ相手をすぐに倒してしまう可能性もあるのだが、そのくらいドライにならないと魔物を相手にして統治することなど出来ない。

 

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 相変わらずの不思議物質で作られている地下通路を歩き続けていると、目的地に着いたとアンネが教えてくれた。

 この先はゴーレムがいるので、まだきちんと整地がされていないらしい。

 普通に考えればそれが当たり前なので、特に気にすることなく先の部屋に進んだ。

 

「――おお。確かにゴーレムがいるな」

「そんなことで嘘はつかないわよ」

「いや。嘘をついていると思ったわけじゃなくて、初めてまともに見たゴーレムに感動しただけ」

「そんなことで感動するの?」


 不思議そうな顔で見てきたアンネだが、この感情ばかりは上手く説明できる気がしないので曖昧に笑って誤魔化した。

 そんなことをしている間も目の前にいるゴーレムはこちらに気付いているようだが、特に何もしてこなかった。

 その体は確かに鉄でできているようで、暗い地下にいるはずなのに何故か淡く金属光沢を放っている。

 大きさは確実に三メートルは越えていて、これまで眷属の中で一番大きかったファイをも超える大きさだ。

 

「やあ。君が眷属入りを希望しているということで間違いないかな?」

 ある程度まで近づいてそう問いかけたが、当たり前だが言葉による答えはなかった。

 その代わりというべきか、頭の方から「ゴ」という音が聞こえてきた。

 人が頷くように頭を動かしたのだが、金属同士がこすれるときに音を発したらしい。

 

「こちらとしては君を迎え入れることに、何の問題もない。君がよければすぐにでも迎え入れるんだけれど、よければ右手を上げてくれるかな?」

 その言葉に従って目の前にいるゴーレムは、右腕を動かして手に当たる部分を上に持ち上げた。

 それだけでもかなり質量のあるものが動いているという感じがするので、実際に戦闘になった場合にはどんな威力になるのか、想像するだけで身震いがする。

 もっとも実際に戦闘になれば、躱したり防御したりして実際に当たることはほとんどないのだろうが。

 

 とにかくゴーレムが右手を上げたことで眷属としての契約は完了した。

 ステータス画面からもゴーレムが仲間になったことは確認できたので、間違いなく無事に契約されたことがわかる。

 契約後、付けた名前を教えたが特に怒るようなこともなく了承されていた。

 そもそも契約された時点で不満があるはずもないのだが。

 

 ちなみにつけた名前は「ゴレム」で、それを言ったときにはアンネから若干呆れたような視線を向けられたが気にしないことにした。

 この名前にしたのは別に考えるのが面倒だから安易なものにしたというわけではなく、昔から某ゲームでゴーレム系に必ずつけていた愛着のある名前だったからだ。

 その意図が通じているのかはわからないが、ゴレムからはどことなく喜びのような感情を感じるのであった。




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