(8)樺太攻略開始と卵

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 今後についての話し合いを終えた後は、予定通りに樺太方面の攻略を進めることにした。

 最初は海を越えて行かなければならないために鳥種たちに頑張ってもらわなければならないが、それ以降はファイを加えて攻略を進めることになる。

 そのためにも初戦が大事になるのだが、既に何度も戦っていることがあるためか特に問題が発生することなく討伐することができたようだ。

 ようだ――というのは、鳥種たちが北の島樺太へと向かって翌日には、メッセージから攻略が終えたことを知ることができたために直接話を聞くことがなかったためだ。

 さらにそのメッセージから精霊樹を植えるかどうかの選択もあったため、ラックへ確認することなくそのまま植えてしまった。

 精霊樹がどのようなものかは既にラックに教えているので、間違っても刈ってしまうなんてことはないだろう。

 そもそも精霊樹からは世界樹の魔力を感じることができると他の眷属も言っていたので、ラックがそれを間違えるはずがない。

 今回はシステム上から植えることになった精霊樹だが、次は敢えて自ら作り出したうえで植えたらどうなるのかを確認してみたいところだ。

 

 最初の攻略を終えて戻ってきたラックから聞いた話によると、領域ボスを倒すことよりも転移装置を壊さないように運び込むことの方に気を使ったようだ。

 転移装置は精密機械ともいえるので、変な衝撃を与えてしまうと使えなくなってしまう。

 そのため領土ボスの討伐前はエゾの地に置いておいて、ボスを倒してから運び込むという方法を取ったようである。

 どの方法を取ったとしても無事に運び込んでくれたようなので、こちらとしては注意するようなことはない。

 

 ちなみに進化以前のように領域化しないということもあり得たのだが、きちんとそのことも考えて動いていた。

 眷属であるラックは、その土地が領域化しているかしていないかは世界樹の魔力の有無で判別が出来るので、こちらに直接確認することなくわかる。

 領域ボス討伐後に辺りが世界樹の魔力で満たされるのを確認できたので、確認のために一度戻ることはせずにそのまま転移装置の設置作業に入ったというわけだ。

 さらに転移装置の設置については、初期のころから何度もアップデートしているおかげもあってか、そこまで複雑な作業をしなくても起動できるようになっているので問題は起きなかったようである。

 

 転移装置さえ設置できれば、あとは子眷属を送って拠点の構築を済ませば予定のほとんどが完了したことになる。

 とはいっても転移装置で一度に送れる人数には限りがあるので、第一陣として五十人ほどが現地へと送り込まれることになった。

 今のところの予定では、数日かけて数百人単位で送ることになっている。

 あとは現地の様子を見ながらと出現する魔物の割合などによってどの程度の規模にするかを決めるつもりだ。

 

 転移装置が設置されたということはいつでも現地に行けるのだが、そもそも俺自身は転移魔法が使えるのでそちらを使うことはないだろう。

 海を挟んでいるのでもしかすると使えないかもと考えたが、そんなことはなかった。

 魔力的な繋がりがなければ使えないという可能性もあったのだが、そのあたりの条件はよくわかっていない。

 エゾと樺太以上に距離が離れている場所で検証する必要があるかも知れないが、今はそんな場所はないので調べるのはお預けとなっている。

 

 地球と縮尺などが変わっていなければ、樺太の面積は北海道とほぼ同じ。

 であれば全域を領域化するのに同じくらいの時間がかかるかといえば、そういうわけではない。

 最初の頃は眷属たちも今と比べてはるかに弱かったし、何よりも数で押すという作戦が取れなかった。

 それが今では軍団単位で戦力を送ることも可能になっているのだ。

 そうしたことを鑑みれば、早ければ一年、遅くても二年以内には全域を領域化できると考えている。

 

 そして樺太地域を統一できれば、やってみたいこともある。

 それが何かといえば、例の氷の種を使って全域を永久凍土化した場合にどうなるのかという実験だ。

 島一つすべてが雪と氷の世界になった場合、魔物を含めた動物の生態がどう変わるのかを見てみたい。

 島の外には繁殖しないように『命令』をすれば、他の地域の生態が大きく変わるということもないだろう。

 変わったら変わったで構わないのだが、先々を考えればやはり多種多様な種族は残しておきたい。

 

 いずれにしても橋頭保を築くことはできたので、これからはできる限り素早く全域の領域化に向けて動いていくことになる。

 本島との兼ね合いもあるので全軍を投入してというわけにはいかないが、全種合わせて千単位での投入を考えている。

 それが結果にどう結びつくかは不明だが、悪いことにはならないはずだ。

 あとは全域を領域化できた時に、どの程度の魔力を得ることができるようになるのか楽しみにしておく。

 得られる魔力(マナ?)が多くなればそれだけ質の高い魔力を作ることが出来るようになり、眷属たちの質も上がっていく。

 眷属たちがどのくらいの進化をするかはわからないが、人族というある意味厄介な存在がいない大きな島があるのだから利用しない手はない。

 そんなことを考えながら、ラックからの報告を聞くのであった。

 

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 樺太地域の攻略が始まって数日が経った頃、もう一つの事柄がシルクとクインから報告された。

 それが何かといえば、以前から頼んでいた眷属用の卵の入手である。

「――とりあえず今回は二つみたいだけれど、種族はわかっているの?」

「採取してきた者によれば、一つは馬系でもう一つはドラゴン系で間違いないようです」

「え。ドラゴン?」

「ドラゴンはドラゴンでもパピィのようですが」

「ドラゴンパピィね。納得」

 ドラゴンほどの強者が卵の状態で子供を放置していることが考えられずに驚いたが、ドラゴンの中でも一番弱いとされているドラゴンパピィならあり得るかと納得できる。

 そもそも親から無理やり強奪するようなことはしないようにときつく言っているので、あまり心配はしていなかったが。

 

「それにしてもこの島にドラゴンパピィなんていたんだね」

「火山地帯によく出現するようですから火属性のパピィなのかもしれませんね」

「へー。いや待てよ。公領ボスのことを考えれば、ドラゴン種がいること自体は不思議じゃないのか」

「確かにそうですね」


 つい先日というには短くはないが、昔というほどには時間が経っていないボス戦のことを思い出した。

 あのドラゴンは低温高温なんでもござれだったが、パピィだと複数属性を持つこと自体珍しいので火属性だけである可能性が高いのだろう。

 それはそれで特に問題はないので、気合を入れて育てることにする。

 

 さらにもう一つの卵は馬系ということだが、一つ疑問が浮かんでいた。

「馬系の方は……卵なんだ」

「魔物ですから卵で残すこともあります。馬系に限らず卵と幼体両方で生み分ける魔物も多いですよ」

「え。そうなんだ」

「縄張りの環境を考えてどちらが安全に生まれてくるかを考えて分ける場合が多いですね」

「なるほどね」

「……そもそも私たちも産み分けられるのですが」

「え? ……って、考えてみればそうか」


 シルク、クイン、アンネは、魔石を使って魔力のみで子眷属を生み出しているが、普通に出産という形態で子を生むことができるらしい。

 どちらの方法をとるかは当人が決めることらしいが、幼体を生み出す場合には『相手』が必要になるので、今は卵状態で生み出しているそうだ。

 魔物の『出産』に関してちょっとした知識を仕入れることができたわけだが、その知識が今後役に立つのかは今のところ分からないのであった。




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