(5)まだ続く準備
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シルクに頼んだ新しい眷属用の卵の入手と準眷属の候補選びは、その日のうちに行われたようだった。
今は新しい領域の拡張も行っていないので、眷属全員が集まりやすいというのもすぐに行えた理由になっているようだ。
それでもいきなり決めるということはせずに、時間をかけてまずは全員の希望を募ることになっていた。
そもそもこのタイミングで眷属や準眷属を増やそうと考えたのは、進化したことによって新しく使えるようになった精霊樹生成のスキルの存在が大きい。
精霊樹生成のスキルが生えていたことで、前回の時のように領域化がされないという状況にはならないのではないかと考えた。
さらに進化する前のタイミングでドワーフが来るという『イベント』が起こったというのも大きい。
どう考えてもドワーフと協力して船を作るといい――そんな風に言われているような気がしたのだ。
勿論ただの勘違いという可能性の方が大きいだろうが、それでも一連の流れが繋がっているように思える。
掲示板上でよくやり取りされている『ストーリー』とは思っていないが、何らかの干渉があるのではないかと思えるくらいだ。
一部の人はこれを「ご都合主義」と呼ぶのだろうが、どう呼ばれようが利用できるものは利用して行く方針だ。
今後は精霊樹を使って新しい土地を領域化できるようになったと仮定して動くことになる。
まずは人里がないと報告されている樺太方面から試しに行くつもりだ。
そのために、ラックとファイを呼んで今後の打ち合わせを行っていた。
「――というわけで、まずはラックたちにもう一度領域ボスを倒してもらって領域化するか確認してもらう。そのあとはファイたちに乗り込んでもらうつもりだから準備をしておくように」
「ガウ?(それは願ったりだが、海は泳いで渡るのか?)」
「ピ。ピッピ(ファイ。何のために転移装置があると思っているのですか)」
「ガウ、ガウ?(いや。それはわかっているが、数は増やせたのか?)」
「進化したお陰で属性魔石もたくさん作れるようになったからね。素材もそこそこ貯まっているみたいだから一つ二つ増やすくらいは問題ないそうだよ。まあ、公領ボスのドラゴンから素材が得られたのが大きいみたいだけれど」
生きていた間は巨大な魔力の塊といっても過言ではなかったドラゴンだが、死してもなお素材として大いに活用できるらしい。
この辺りはアイからの情報なのだが、あの戦いを経験した身からすれば「さもありなん」という思いだ。
あれだけ苦労して倒したドラゴンから得られる素材が雀の涙だと、割に合わないどころではない。
公領化した上に進化までついてきたのだからいいじゃないかと言われそうだが、そこはそれだ。
「ガウ?(今すぐでいいのか?)」
「こらこら。逸る気持ちはわかるけれど、まずやることがあるよね? 眷属と準眷属選びはどうなった? あとラックたちの準備もあるだろう?」
「ガウ」
「大きな図体を縮こませても駄目なものは駄目。楽しみはやることをやってから」
「ピッピ(そもそも鳥種の準眷属の都合もありますから、あなたは最低一週間は動けませんよ)」
「だそうだ」
俺とラックから諫められて、ファイはますます縮こまってしまった。
別に怒っているわけではないのだが、その姿を見ていると遊びに行く前に宿題をしなさいと言われている小学生のようにも見える。
今はこんな姿になっているが数時間後にはいつも通りの復活するとわかっているので、俺もラックも慰めるような言葉は言わなかった。
「――とにかく今は、眷属と準眷属選びが優先。北の島の領域化はその次で動いてほしいかな。転移装置についてはアイと話をしておくように」
「ピ(畏まりました)」
「ガウ(わかった)」
これで北の島(樺太)の領域化が進むことになる。
とはいっても精霊樹が想像通りの働きをしてくれればの話にはなるのだが。
北の島の領域化がきちんとできて、領土化ができれば次は大陸への上陸も見えてくる。
そこまで進めるかどうかはこれまた気分次第といったところだが、まずはそのための橋を掛ける準備といったところっだろうか。
もっとも樺太もそれなりの広さがあるので、一筋縄ではいかないことはわかっている。
あとはラックとファイ次第だが、最初の領域化は上手くやってくれるだろうと確信している。
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ラックとファイと話し合ったあとは、転移で準眷属のゴブリンがいるところへ向かった。
現在のゴブリンの集落は、既に数百体を超える規模になっている。
これから迎える冬を越すことができれば千体超えも見えてくるだろう。
これだけ順調に規模が大きくなっているのは、ゴブリンが農業を取り入れたからだ。
農業といっても人族が行っているようなものではなく、種を植えたら生えてくる、あとは雑草なんかをとる、といった簡単なものでしかないのだが。
現代日本の農家の方々からすればそれを農業というなと怒られそうだが、それでもゴブリンにとっては革命的な出来事だったらしい。
それまで狩猟が基本で生活していた彼らにすれば、安定的に栄養が得られるというのは爆発的に数を増やす要因の一つになっていた。
それだけ数が増えれば脅威度も増すということになるのだが、これまでの態度からそこまで心配する必要がないからこそ増えるのを黙認してきたというのもある。
それから進化をしてから分かったことなのだが、準眷属は眷属と違って反抗心のようなものを持つこともあるが、普通にテイマーが飼いならしている時よりも低い。
よほどのことが無ければその反抗心が大きくなることもなさそうなので、数を増やしても問題ないと今では考えてる。
それもこれも進化をしたおかげで分かったことなのだが、その前からなんとなく感じていたことではある。
さらにもう一つゴブリンの数に関して重要なのが、いかに栄養を増やしたとしてもこれ以上に集落は築けないということだ。
それはリーダーであるゴブリンナイトの能力が低いからというわけではなく、ゴブリンの習性としてそうなっているらしい。
簡単にいえばそこまで増えた集落にいても、それまでのようにそういった行為をしなくなってしまうようなのだ。
それがゴブリンとしての習性なのか、この里の特徴なのかはわからないが、とにかくそれ以上の集団にするためには新しい場所に集落を作らないといけなくなる。
というわけで千に近い数でウロチョロとしているゴブリンだが、今回はその状況を変えるためにあるものを渡しに来たのだ。
「――ゴレ、ワ?」
進化もしていないのにぎこちないながらも話せるようになっているゴブリンナイトが、渡した物と俺を交互に見ながら首を傾げていた。
「見ての通り魔石だね。ちょっと特殊なものだけれど問題なく使えるはずだよ。――それを使えば、多分進化もできるだろう?」
「シン、カ……!」
さすがにゴブリンナイトだけあって進化の知識はあるようだ。
目の前にいるゴブリンは独自の力でナイトにまでなっていたが、それ以上には中々なれないでいた。
そのきっかけが格上の魔石を得ていないからだと考えた俺は、進化したお陰で余裕が出てきた魔石を持ってきたのだ。
恐らくこれで、滞っていた進化ができるはずだ。
ちなみに眷属、子眷属以外も魔石を使えば進化できるのかを確認するためでもあるのだが、そこは言う必要はないだろう。
とにかく魔石を渡されたゴブリンナイトは、何やら恭しくそれを掲げつつ頭を下げてきた。
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