(4)魔物の卵(入手準備)
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討伐した親から卵を奪い取るのが非人道的だという感情を持っているのはどうやら俺だけだったようで、一応同意してくれたアイはともかく他の眷属は「そんなものですか」という態度だった。
まずは力がくる魔物にとっては、倒された時点で生んだ子供のことをどうこういう権利はないという感覚らしい。
なるほどと理解できなくもないが、それでも一応人としての感情が残っている俺としては子を産んだばかりの親を倒してこいという命令は出したくはない。
というわけで、新しい眷属はお預け――と考えていたのだが、ふと思いついたことがあった。
「――そういえば、魔物同士で戦って親が負けて、卵だけが取り残されるなんてこともあるよね?」
「それは勿論ありますわ。卵だけが残される場合は珍しいですが、興味を示さない場合もありますから」
ちょっとしたタイミングで呟いた思い付きに反応したのは、その時たまたま近くにいたシルクだ。
シルク曰く、大人との戦いだけに興味を持って卵に全く興味を示さないこともあるそうだ。
当たり前だが残された卵は独力では生きていけないために、そのまま自然消滅することになる。
であれば、そうして残された「生きている」卵を孵せばいいのではないかと思い至ったのだ。
その思い付きをシルクに話すと、軽い調子で返してきた。
「そういうことでしたら子供たちに探させますわ。数日もせずに見つかるでしょう」
「え? そんな簡単に見つかるの?」
「それだけこの地で魔物が発生していて、多くの縄張り争いが起こっている証拠でもありますわね」
「なるほどねー。狩りもほどほどにするように言っているからそんなこともあり得るのか」
「そうですわね。それで眷属候補として希望の種はいますの?」
「いやー、どうだろう? あまりすぐには思いつかないな。……スライムなんかは育ててみたいと思うかもしれないけれど」
最弱の種を最強の種に育て上げる! ――そんなゲームも昔、手を出していたことがある。
……のだが、さすがに今は魔物の育成に手を出すつもりはない。
あるとすれば次の転生時の時に、なんて考えたりもするのだが、そもそも今世(?)がどこまで続くかもわからないので今はそんなことを考えても仕方ない。
それよりも今は眷属、子眷属たちのことを考えることの方が大事だったりする。
「スライム……ですか。それでしたらすぐにでも手に入ると思いますが?」
「いやいや。さすがに今はそこまで手が出せないからいいよ。スライムを眷属化したとして、きちんと動いてくれるかも分からないしね」
「確かにそうですわね。眷属になったからと手を出すのを控えて、勝手に増えていってコントロールできなくなっては目も当てられませんから」
「確かに、そういう問題もあったか。というわけで、さっき言った通り卵を見つけたら適当に拾ってきて」
「畏まりましたわ。それで、数はどれくらいにされますか?」
「そうだねぇ……今のところ眷属の限度は十二だからあと四種は大丈夫か」
「四種……ですか。主様にふさわしい種となると……」
「いや、あの。最初はそこまで強さにこだわらなくてもいいからね」
なにやら真面目な表情になって考え込むシルクに、少しだけ慌てて付け加えた。
シルクが本気を出すと、手に負えないような種を無理やり持ってきそうな気がした。
だがそんな俺に、シルクはニコリと笑って言った。
「主様でしたら大丈夫ですわ」
「いや。何が大丈夫か分からないんだけれど……? はあ。まあ、いいか。それからちょっと別件で、馬系の卵も手に入るかな?」
「それは大丈夫だと思いますが、乗られるのですか?」
「いや。俺じゃなくてね。……いや、今後を考えるといた方がいいのか? まあ、それは置いておくとして、ちょっとあっちの世界の仲間に送ろうと思ってね」
「なるほど。そういうことですの。でしたらそれも併せて探しておきますわ」
「よろしく頼むね」
既に眷属たちには、ハウスのことは話してある。
アイが研究している新しい金属も俺と同じような存在(プレイヤーと言っていない)から手に入れたと説明してある。
そんなプレイヤーに対して馬系の魔物の卵が売れると言えば、すぐにシルクも納得してくれた。
この島にも普通の馬に近い姿をした魔物の馬種もいるので、探せば見つかるのだろう。
ちなみにシルクの子眷属はこの後見事に馬系の魔物の卵を探し出して来てくる。
それを早速売りに出すことになるのだが、最初はどのプレイヤーも躊躇して買わなかった。
ただテイム系のプレイヤーが買って見事に狙い通り馬系の魔物の孵化に成功させて、その後は便利な相方として重宝することになる。
その結果、馬系の魔物の卵は狙い通りに人気商品になるのだが、それはまだ今よりも先の話だ。
「それで新しい眷属としての卵ですが、主様は希望がないとのことですので皆の意見を聞いてみます」
「ああ、そうだね。そうしてくれると嬉しいかな。アンネの時はともかく、今回は狙って仲間にするわけだからね。相性とかもあるだろうし」
「そうですわ。といっても、そこまで相性を気にする必要もないとは思いますが」
「そうなの?」
「私たち眷属は、主様の魔力で繋がっておりますから。逆を言えばそうでなければ眷属ではないということになりますわ。主様が卵を孵しても魔力的な繋がりが生まれていなければ、それは眷属とはいえません」
「なるほどね。そういう検証も含めて、やっぱり一度は卵を入手しておきたいね」
「お任せください」
シルクがそう言いながら頭を下げたところで、新しい卵の入手については話が終わった。
どの種の卵を手に入れるかはこの後眷属同士で話をするそうだが、その話の席には同席するつもりはない。
眷属は眷属で話しておくべきこともあるだろうと考えて、敢えて出席することは断っておいた。
それとは別に、もう一つ決めておいてほしいことがあることを告げた。
「――それからその話し合いの席で、準眷属のことについても話しておいてくれないかな?」
「準眷属……? 増やされるのですか?」
「子眷属も増えているから管理もできるだろうし、ゴブリンも鳥種も変なことをするような気配がないからね。それなら増やしたほうが良いだろうと思ってね」
「……確かに仰る通りですわ。私たちで話し合いを、ということはある程度の候補に絞るということでよろしいですか?」
「だね。それこそ監視しやすいとか色々あるだろうからね。ラックみたいに同種でも構わないし、全く別の種でも構わないよ」
「畏まりました。数は……こちらである程度までにしておいて、後は主様に決めてもらいますわ」
「それでいいよ。――ああ、そうだ。一つだけ希望……というか、もしいたらという種類があったな」
「なんでしょう?」
「海の魔物だね。今後、必ず海を渡ることになるだろうから、その時に役に立ってもらえると良いと思ってね」
「確かに仰る通りですわね。それでは、そのことも伝えておきます」
「お願い。無理とか無茶はしたら駄目だからね」
いつものように最後に念を押しておくと、シルクも真面目な表情のまま頷いていた。
繰り返し言っていることなので聞きなれているのだろうが、それでも毎回念を押すのは自分への戒めの気持ちもある。
端からはどう見ても魔王と言われても仕方ないような陣営になっているのだが、言動まで魔王といわれるようなことをするつもりはない。
眷属たちを乱雑に扱うことでそうした気持ちが薄れていくこともあり得るので、毎回毎回自分に言い聞かせているのだ。
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