(5)いつも通りの結果といつも通りじゃない結果
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イェフを挟んでの話し合いが進んだ結果、ドワーフたちが来るのは一月後から遅くとも二月後の間ということになった。
いくら帆船で来るとはいえ、現代ほどの技術がない中でそれほどの速さで来ることができるというのは、サダ家もそれだけの見返りを期待していることの裏返しでもある。
ドワーフたちが作った質のいい武器を送るくらいのことはやってもいいのだが、そもそもそのための販路を作れるかどうかは疑問が残る。
正直なところセプトで現在も行われている年に数回の取引というのが精いっぱいだと考えている。
造船技術と操船技術の両方が一気に上がれば取引回数も増やせるだろうが、そこまで極端には増えて行かないだろうというのが今のところの考えである。
勿論、造船に関してアイ辺りが関与すれば一気にその性能を向上させる可能性はあるのだが、今はそこまで手を出すつもりはない。
アイも俺からの指示がなければ、造船に関して研究を始めようとはしないだろう。
ただ、人のいない樺太方面を領域化することを考えれば、新しい船の開発も視野に入れる可能性は残っているのだが。
ドワーフの一族が来る期限が決まったことで、それまでにやっておきたいことが一つできた。
それがなにかといえば、道南方面の領土化だ。
幸いにして人の町(村)を巻き込んで領土化しても、人の暮らしに大きな影響を与えることは無いということがわかった。
正確にいえば、政治的な支配をしなくても領土化は可能だということだ。
このことさえわかってしまえば、あとは領土内で適度に人の数をコントロールしさえすれば、面倒な政治は回避することができる。
人の数の調整は魔物を使って容易にできるので、積極的に活用していくつもりだ。
人によってはなんて残酷的なと考えるかもしれないが、そもそも人だけを優遇していくつもりはない。
もっといえば人の営みを邪魔しない程度に領土化していくと決めている時点で、既に人族を優遇しているとさえ考えているくらいだ。
人の扱いについてはともかく、道南方面を領土化すること自体は決定している。
そのことを伝えるために、既に眷属たちには集まってもらっていた。
「――というわけで、皆には早速南方面を攻める準備をしてもらいたい」
「わかりました。……と、言いたいところですが、すでに準備のほとんどは終えていますが?」
「まあ、その通りなんだけれどね」
少し確認するように言ってきたクインに、俺も苦笑を返した。
道央方面の領土化が終われば道南方面に行くことは決まっていたので、事前に準備は進めていたのだ。
最初の頃と違って眷属たちの強さも上がっていて、さほど凝った準備が必要なくなっているということも大きい。
もっと言ってしまえば、当初使っていた罠なんかも必要なくなっているのだが、それらの準備を怠ってしまうと何か起こった場合に対処できなくなる可能性もある。
――ということを言い訳にして、子眷属たちの経験を積まそうとしているのだ。
特に魔道具系統を作っているアイの子眷属は、物を作ることによって経験を積んでいる。
それは糸などを用意しているシルクの子眷属も同じことで、それらを使った武器や罠の効果を確かめておきたいという理由もあったりする。
すでに眷属たちにとっては、領土ボスは経験を積むための糧でしかなくなっているのだ。
油断するつもりは微塵もないのだが、既に俺自身が領土ボス相手に勝てるようになっているので、緊張感が欠けているのは否めない。
だからといって、もっと緊張感のある相手が出てきてほしいなんてことは全く考えていないのだが。
「準備が出来上がっているのはわかっているから、あとは皆で予定地に向かって倒すだけになるか」
「そうですわね。こちらには誰を残しますか?」
「うーん……。今回は敢えて男性組に残ってもらうか」
「ガウ!?(なんとっ!?)」
領土ボス戦から外されたファイは、驚いた様子でこちらを見てきた。
ファイは見た目は完全に熊なのだが、そのくらいの感情の変化は見分けることができるようになっている。
ラックはいつも通りだったが、ルフやミアも驚いていた。
「いや。今回は子眷属の経験を積ませるのがメインだって、前にも言っておいただろう? ファイたちが行っても過剰戦力だよ」
「それは確かにそう」
「ガガウ。(アイ様、それはないぜ)」
ガクリと肩を落としたファイだが、残念ながらこの場に俺の決定を覆すだけの提案をしてくる者はいなかった。
でっかいどーを攻略し終えた後は、今まで以上に特別な攻略方法になってくるということは、既に眷属たちも理解している。
だからこそ今のうちに子眷属に経験を積ませておきたいというのは、皆がわかっていることなのだ。
そうした事情を知っているからこそ、俺の提案を覆すだけの意見は出てこなかった。
ファイはファイでそんなことは理解しているのだが、ついいつものノリで話しているのだ。
そんな感じで恐らくでっかいどー最後の領土ボス戦への話し合いは終わり、あとはその時を待つだけになった。
場所は道南地域に移動したとある地域――というよりも転移装置を置いてある場所のほど近くにしてある。
決戦の時は一週間後と決まったので、その時に向けて各々転移装置を使って移動したり自前の転移で移動をして戦いの場所に向かうのであった。
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結論から言ってしまえば、道南地域の領土ボス戦も特に問題なく終えることができた。
これまでの戦いから領土ボスの強さが変わることは無いと分かっていたので、戦力の分析ができていたのも大きかった。
実際に戦ったのは子眷属だけで、眷属たちは遠くから見守るだけになっていた。
結果としては目論見通りになったので、子眷属も満足が行っただろう。
それだけ今眷属の質も上がっているということで、こちらとしても十分すぎる結果にだった。
ちなみに道南方面の領土ボスとして出てきたのは、熊がメイン系統である魔物でどちらかといえば腕力を前面に出して戦ってくる相手だった。
勿論魔物である以上は力押しだけで終わったわけではなく、色々なスキルやら魔法やらを使っていたのだが、子眷属側にそこまで大きな損害は出ていない。
子眷属といっても強さの質は様々なので一概には言えないが、それでもメインでその熊を相手にしていた子眷属は十分すぎる経験を積むことができたはずだ。
それ以外にも外側から遠距離攻撃をしたり、罠にはめようとしたりと色々な方向から相手を追いつめることができたのも大きな成果といえる。
目論見通りに領土ボスを倒すことができた後は、いつもの通りのお楽しみタイムとなった。
ボスを倒したことによる領土化は勿論のこと、狙いどおりに新しい因子も手に入れることができた。
その名も『塩水の因子』で、どう考えても今後のためにも必要そうな因子だということがわかった。
名前からも塩水に対しての耐性が強くなることはわかるので、すぐにでも海水に耐えられるのかどうかを試してみたくなった。
というわけで早速海岸に行って試してみたのだが、残念ながらそうそう都合よくはことは進まなかった。
海面から大体二百メートルくらいまでの海面表層までであれば根を出すことはできた。
ただしそこからさらに下になると、途端に伸ばすことができなくなってしまったのだ。
恐らくだが、海水の濃度だったり圧力の関係でダメになったのだと予想している。
いずれにしてもそれ以上に根を伸ばしたいのであれば、塩水の因子以外の因子を手に入れる必要があるということだろう。
塩水の因子の効果が微妙だったことはともかくとして、目標だったでっかいどーの全領域化は無事に終わった。
このあとは本土方面と樺太方面に向けての準備を進めることになる――と思っていたのだが、一つだけ大きな誤算がここで発生した。
というのも、これまでになかった新しいメッセージが届いたのだ。
『○○の全領土化が終了しました。これにより新たなボスが出現します』
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