(4)外交問題と戦力強化
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ドワーフを迎え入れるというサダ家からの提案は、順調に話が進んでいる。
本当なら人が使うような武器をさほど必要としていないので、ドワーフの持つ技術はもったいないとも言えるのだが、当人たちがそれを受け入れるのであれば特に問題ない。
こちらが必要なのはドワーフとその彼らが持っている技術なので、宝の持ち腐れになっても構わない。
それに武器関係が必要になるのは当面のところダークエルフとゴブリン一家ということになるだろうが、今後どうなるかはわからない。
場合によっては、農具関係はセプトの村やノースの町に卸してもいいだろう。
そもそも来ることになっているドワーフがどれくらいの生産量を持っているかも分からないので、下手に見積もりをしても仕方ない。
それにアイたちの活躍によっていくつも鉱脈を発見しているが、それらがどう役に立てられるかは未知数でしかない。
鉄や銅が必須資源だということはわかるのだが、それ以外の資源がどれくらい必要でどれくらいの価値があるかはよくわかっていないのだ。
そういう意味では、ドワーフたちにはこの島に眠っている鉱物資源の目利きに期待しているところもある。
今のところ大量に掘り出して荒らすつもりはないが、そのまま塩漬けにしておくのももったいない。
もしかするとサダ家辺りが資源を欲しがるかもしれないが、その時はその時に考えることにする。
今はまだ交渉が始まったばかりの段階で信頼関係も無いに等しいので、戦略資源を安易に輸出するつもりはない。
こんな風に対外的なことをこれほどのんびり考えることができているのは、巫女を得たお陰で知れた知識と道央地域の領土化ができたお陰だ。
世界樹がやっている領域化、領土化はあくまでも魔力的なものであって、必ずしも人の領域を侵す必要はない。
それが知れたことで、今後の道外の攻略についても目途を立てることができた。
簡単に言ってしまえば、人里は無視しながらエリアボスだけを倒してしまえば良いのだ。
ただし領土化に関しては範囲内の八割以上を領域化するという制約があるので、すべてを行うことができないかもしれない。
それはそれで構わないので、今は本島をできる限り領土化していくことを目標とすることにした。
その過程でサダ家のような豪族と関わっていくこともあるかも知れないが、武力的に制圧していくつもりはない。
勿論こちらの存在が知られて変な絡まれ方をすれば手を出すこともあるだろうが、今のところは安全策を取っていくつもりだ。
世界樹にとって必要なのは魔力的なものであって、必ずしも土地そのものではないということが分かったことも大きい。
土地そのものが必要なのであれば、人が活動しているだけでも邪魔だと考えることもあっただろう。
人の活動が魔力にどう影響を与えているのかわからないので、必ずしも全滅させる必要な無い――というよりも残しておいたほうがいい可能性もあっただろう。
いずれにしても今となっては関係のない話なので、無駄に血の流れるようなことは考えなくてもよくなって多少安心している。
マナ関係の知識が手に入ったことで、無駄な戦争を吹っ掛けなくてもよくなったことは本当に大きい。
……大きいのだが、だからといって戦力を拡充しなくてもいいというわけでもない。
いずれは俺たちの勢力が知られるのは確定している……というよりもサダ家から周辺国に伝わっていくことは間違いないだろう。
それにノースの町がある道南地域を領土化すれば、その背後にいるツガル家の存在を無視するというわけにもいかなくなるはずだ。
出来ることなら平穏な関係で済ませておきたいが、ダークエルフが厳しい冬を難なく過ごしていることが分かれば、道内により拡張してくることもあるだろう。
さすがにそれは許容できないので、敵対関係になる可能性は大いにある。
となれば無手のままでいるというわけにもいかないので、見せるための戦力は必要になるわけだ。
俺の感覚からすれば各豪族の持っている戦力はさほどでもないので、実際にぶつかるまでは見せるだけで牽制しておきたい。
ということで、領土拡張に伴って自然に得られる魔力も増えたことからクインとシルク、そしてアンネに子眷属の増強について話をしていた。
「――やっぱり思ったよりも多くなりそう?」
「そうですね。どういう理屈かはわかりませんが、六千まで増やせそうです」
「確かに割合でいえば以前と違っているね」
道央地域を領域化する前は、中央値としてそれぞれ三千くらいが適切という話だった。
それが今回道央地域を領域・領土化したことによって、その値が六千にまで増やせるということになった。
見積もりでは五千くらいだろうと考えていたので、結構な数を増やせることになる。
単純に土地の面積ということだけで見れば他の二つよりも狭いのに、増強できる子眷属の数が増えているということになるのだ。
クインたちが生み出している子眷属の数は、土地の広さというよりも周囲から得られる世界樹の魔力に影響する。
となれば世界樹が周囲に拡散している魔力は、単純な土地の広さで決定しているわけではないということになる。
例の知識から考えれば、それぞれの土地から得ているマナの量に関係しているのではないか、というのが今のところの推測だ。
残念ながら肝心のマナは目視することができないので、どの土地にどのくらいの濃度で漂っているのかというのは分からない。
「……マナ濃度が測定できる道具があればいいんだけれどなあ……」
「アイ様に頼みましょうか?」
「いや。アイは色々と忙しいからなあ。これ以上は余計な手間は増やしてほしくない」
「そうですか。アイ様も子眷属を増やせばどうにかできると思いますが」
「アイのことだから増やせるなら増やしていると思うよ。それをやっていないのであれば、なにか理由があるのだろうさ」
「確かにそうですね。……少し気になったので、後で理由を聞いてみます」
「無理やり聞くことはしないようにな」
「わかっております」
「そうか。それならいいや」
マナに関しては今のところ知識として知っているだけで、何か実感を伴っているわけではない。
そのため研究するとなってもなかなか難しいところがあるはずだ。
それでもどうにかしてしまいそうだと思わせるところがアイのアイたる所以だろうか。
だからといって、忙しく動き回っている彼女に余計な仕事を押し付けるつもりはないのだが。
マナ濃度云々はともかくとして、世界樹が拡散している魔力が増えたことによって子眷属をさらに増やすことができるようになった。
このまま道南地域を領土化するとどれほど増やせるようになるのか、期待したいところだ。
ただ単純に数を増やせるのは喜ばしいところなのだが、戦力を急拡大することによる問題も発生する。
それが何かといえば、質の問題だ。
ただ単に弱い戦力を数だけ増やしても意味はない。
『戦争は数だ』という理屈もよくわかっているのだが、やはり質にもこだわっておきたい。
そのためには訓練や実戦も含めて、やはり時間が必要になる。
それらのことを鑑みれば、でっかいどーを制圧したところで一度は落ち着いて戦力を整えるべきだろう。
その前にまず道南地域の領土化を早めに済ませておきたいところだ。
そう結論付けた俺は、クインたちに子眷属を増やすことよりも、まずは領土ボス戦に向けての準備を進めておくように伝えるのであった。
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