(3)相手の思惑
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「ところで、こちらでドワーフを受け入れたとして、どうやってここまで来るのでしょう?」
「さて。恐らく海を予定していると思うが、まだ詳しくは決まっていないと思う」
「なるほど。確かサダ家は本島にある大陸側の海に面している家でしたか。船を持っていても当然でしたね」
「そうだが……やはり私の主家がサダ家だと知っておったか」
「それはそうでしょう。ユリアが村にいると分かった時点で、きちんと調べています」
「さすがだ……と、言っておくべきか?」
「どうでしょう? そこは自分が決めることではなく、他人の評価で決まるのではありませんか?」
「そう……なのかもしれんな」
軽い調子で話をしてはいても、その内容は濃いものとなっている。
特に豪族の一つであるサダ家の名前を出したのは、今回が初めてのことだ。
その上で、少なくとも表面上は驚きを見せることなく対応して見せたイェフはさすがだと言うべきだろう。
さすがに主君から娘の一人を任せられるほどの信認を得ているだけのことはある。
「それでは、ドワーフはこちらで受け入れるという方向で調整を進めてもらってもいいですか?」
敢えて唐突に言ってみた俺に、イェフは僅かに目を見開いて驚きを示した。
「よろしいのか?」
「こちらとしてはメリットしかないので、拒否する必要もないのですが、何かありましたか?」
「いや。それならいいのだが……」
少し戸惑った様子になっているイェフに、俺は笑顔を見せる。
イェフの戸惑いも理解できるだけに、ここは少しだけ助言をしておくことにした。
「イェフさん。サダ家に裏があろうがなかろうが、今回は最初に話を聞いた時から受ける気でいたのですよ」
「……そうなのか?」
「ええ。そもそもこちらの土地には、未開発の鉱山がたくさんありますからね。それを放置しておくのはもったいないではありませんか」
「未開発の……それは鉄だけではなく?」
「さて、どうでしょう? さすがにそこまでは言いませんよ。それに言ったところでどうしようもないでしょう。何しろ人は未だに、沿岸部に二つの町しか作れていないのですから」
「二つしか……か」
「ええ。二つしか、ですね」
自分であればそれ以上の町を作ることができる――そういう意味を含めた言葉は、しっかりとイェフにも伝わったようだ。
何しろダークエルフの里という実例があるので、それが口だけではないことは理解しているだろう。
町を作るにあたって一番の問題となりえる魔物のことを気にしなくていいということは、この世界ではそれだけでかなりのアドバンテージとなる。
それに加えて寒さのせいで得ることができない食料関係についても解決しつつあるのだから、これで町を作れないというほうがおかしい。
正確にいえば人がいなければ町は作れないのだが、そこは敢えて触れずにおく。
ここでそれを言って大量の人員が送られて来たとしても、こちらにとっては何のメリットもない。
逆に、内乱(規模的には一揆?)でも起こされたらたまったものではない。
いずれにしても相手に出来ないことをこちらができるというのは、それだけで相手にとっては舐めてかかれないと認識すべき存在になるはずだ。
そこまでの意図が通じたのかどうかはともかくとして、イェフは納得した顔で頷いていた。
こちらがドワーフを受け入れると言った以上は、彼が提案した内容はきちんと話が進んでいくはずだ。
それにいきなり反故にされたところで、こちらとしては損害があるわけでもない。
もしあるとすれば、折角今まで築いてきたイェフとの信頼関係が落ちるくらいだろうか。
サダ家がユリアを使って何かをしてくる可能性は今のところ見られないが、当然ながらそこも頭に入れている。
恐らくだがユリア自身もそのことは理解しているはずだ。
その上で彼女がどういう態度をとるのかは、今のところ未知数でしかない。
それはそれで構わないと、今はそう考えている。
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< Side:イェフ >
『――そうか。世界樹の精霊はそんなことを言ったか』
「はっ。たとえ武を使ったとしても態度は変わらないかと」
目の前にある魔道具――通信具から聞こえてきた声に、俺は最大限の敬意を払って答えた。
それもそのはずで、今魔道具を介して話している相手は、サダ家の当主であるミチナリ様だ。
今使っている魔道具はサダ領内にあるダンジョンで見つかったものだが、本来国宝として扱われてもおかしくはないその魔道具を家臣である私に使わせているのもひとえにユリア様のことがあるからだ。
『まあよい。期待したほどの効果はなさそうだが、それでも派遣する価値はある』
「それでは、このまま話を進めてもよろしいでしょうか?」
『ああ。かまわない』
「畏まりました。それでは予定通りに進めていきます」
ドワーフをキラ殿の領内へと送るとお館様から言われた時は、どういうつもりかと一瞬考えた。
確かに領内にある一つの鉱山では、既に鉄が取れなくなったと聞いていた。
それでもドワーフの腕は鉱山がなくなったくらいで失われるわけではなく、もっといえば領内の鉱山全てが枯渇したわけではない。
枯渇した鉱山であぶれたドワーフは、別の鉱山に送ると考えるのはごく普通のことだろう。
そのドワーフを敢えて領外に送るというのは、ドワーフたちに問題があるのか、それ以上のメリットをこの地に見出しているということになる。
お館様にとこの地の繋がりは私としかないはずなので、そこまで多くのメリットがあるとは思えなかった。
となるとドワーフに問題があるということになり、今度はその問題児たちをキラ殿に預けていいのかという疑問がわいてくる。
もっとも、だからと言ってお館様の決定に口を挟むことなどできないのだが。
私自身の考えはともかくとして、二つの勢力のトップが既に決めたことを今更覆すわけにはいかない。
ただそのうちの片方を『勢力』といっていいのか、微妙なところではあるのだが。
キラ殿から聞いた話では魔力的な観点から土地を制圧しているようだが、人の町については今のところほとんど干渉をしていない。
セプトの村の者たちは、未だにキラ殿のような存在がいることなど全くわかっていないだろう。
その後、お館様と今後についての話を打ち合わせた後、私はふと思い出したように付け加えた。
「そういえばお館様。かの者から伝えておいてほしいという言葉を頂いているのですが……」
『なに……? 言ってみよ』
「『上手く行っているときには、足元を見ることも大切ですよ』ということらしいですが……」
『……………………』
「……お館様?」
『いや、そうか。かの者はそのようなことを言っておったか。――助言助かる、と伝えておいてくれ』
「は……? ……はっ」
お館様の言った言葉の意味は分らなかったが、どうやら二人の間で通じるものがあったらしい。
そのことを深く聞く立場にはないので、素直に了承することしかできなかった。
『――そなたが以前に言った意味がよくわかった。今回の件は絶対に成功させるように』
「畏まりました」
君主という絶対者からの命令なので、違えるわけにはいかない。
それ故に、こちらの姿は相手に見えていないと分かっていても、深々と頭を下げるのであった。
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