(2)ユリアの現状とイェフからの提案
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こちらからユリア教えられることは何もないが、完全放置したというわけではない。
とりあえず「まずはユリアが思いついたことからやってみたらどうか」と助言をしたら、なにやら考え込むような表情になっていた。
その顔を見て何かを思いついたことでもあるのだろうと考えたので、ひとまずこちらから余計なことを言うのを控えたということもある。
ユリアが思いついたことが何かといえば、分体である俺ではなく、本体に触れてみたりその周辺を歩き回ってみたりと世界樹の近くで動き回るということを始めていた。
それが何かの役に立つのかはわからないが、世界樹から巫女として認められていることは間違いないので、その直感を信じて見守ることにしている。
そして世界樹周辺で行動しているユリアを一人のまま放置しているわけではなく、護衛になるような子眷属をつけている。
今のところの子眷属は蜂か蜘蛛か蟻かという選択になってしまうのだが、既に子眷属の中には人型に近い姿を取れるような者もいる。
その中から選びだした者をつけていて、ユリア自身もまだ子供としての柔軟性が残っているのか、つけて数日でその護衛たちを受け入れていた。
彼女があっさりと子眷属を受け入れたのは子供としての柔軟さだけではなく、巫女になったことによるものもあると考えている。
世界樹にとっても子眷属は大切な仲間であり、本体を周辺にいる魔物から守ってくれている重要な存在であることは間違いない。
その世界樹の感情のようなものをユリアは敏感に感じ取っているのではないか、というのが俺の推測だ。
実際にユリアに直接確認したわけではないが、その推測は大きく外れてはいないはずだ。
いずれにしても、ユリアの世界樹周辺での行動は毎日のように見られることになる。
一々確認を取ってはいないので、その成果があったのかどうかはわからないが、めげずに続けていることから確信めいたものがあるのかもしれない。
もしくは、なかったとしても何かを信じてやっているということか。
巫女と俺では役目が違っているので、口出しをすること自体間違っているというのが今のところの考えだった。
そんな感じでホーム周辺にある建物で暮らし始めているユリアだが、育ての親であるイェフとイザベラはダークエルフの里へと居を移している。
彼らが転移装置を使って移動することは禁止していないので、わざわざ移ってもらうこともないとは思ったのだが二人が希望してきたのだ。
巫女になったユリアの修行の邪魔をするつもりはないのか、できる限り会わないようにするつもりではあるのかホーム周辺にいることを拒否した彼らだが、出来る限り近くにはいたいらしい。
その結果がダークエルフの里にいること、ということになったらしい。
ちなみにこの辺りのことは、俺自身はまったく口を挟んでいない。
巫女であっても一緒に暮らしていてもいいと思っていたし、何だったらホーム周辺にいてもらっても構わなかった。
それらのことは一応伝えてはいたのだが、彼らが最終的に決定したのが今の形というわけだ。
ユリアの意向が一番重視されているようだが、最終的には三人が納得しているようだ。
イェフ一家がダークエルフの里にいることは、セプトの村の住人たちにも周知の事実となっている。
正確にいえばユリアは里にはいないのだが、そこまで丁寧に伝えるつもりはないようだった。
そもそもこの地に世界樹があること自体を話していないようなので、さらにユリアがその巫女になっていることも村の住人たちは知らないのだ。
世界樹の巫女ともなれば注目度は段違いで、どんな扱いを受けるかもわからないので敢えてそうしているらしい。
もっともイェフやイザベラは、
だからこそ潔くダークエルフの里に引っ越すことを決めたのだ。
ダークエルフの里ではユリアが巫女であることを知っているのは一部でしかないが、それでも俺たちの対応を見て何かがあることは分かっているらしい。
それでもしつこく聞いてこないのは、長老の抑えがきちんと効いていることを意味している。
そんなイェフに呼ばれた俺は、ダークエルフの里にある夫婦が住んでいる家で話を聞いていた。
家に入って話を聞く姿勢になった俺に、イェフはいきなりの提案をしてきた。
その意味が分からずに思わず首を傾げて問いかける。
「――ええと、どういうことでしょうか?」
「ふむ、済まない。唐突過ぎたか。ユリアが俺たちの実の子ではないことはわかっているのだろう?」
そう問いかけてきたイェフに、俺は素直に頷いた。
イェフは、こちらが情報収集を済ませていることは既に把握しているので、敢えて隠す必要はないと判断してのことだ。
「育ての親である私から見れば主家からでな。ドワーフの一族を迎え入れることはできないかと言われた」
「ドワーフ……ということは、やはり鍛冶をするということで?」
「そういうことだな。彼らが最近まで住んでいた場所は既に主な金属が枯渇してしまったようで、新たな場所を探しているようだ」
「なるほど。理屈としては確かに通りますね。その主家――豪族の一つだと思いますが、そちらで囲うつもりはないのですか?」
ドワーフが鍛冶師として一流なのはこちらの世界でも変わらないようで、抱えることができればそれだけでも周囲に対して有利になる。
それを考えれば、このような辺境にいるイェフに誘いを掛けること自体、あり得ない自体ともいえる。
そんな俺の考えを見抜いたのか、イェフは少しばかり困ったような表情になっていた。
「そうか。キラ殿は、ドワーフの性質についてまでは知らなかったか」
「ドワーフの性質? 酒好きということではなく?」
「ハハハ。それは勿論だ。というよりも、当たり前すぎて言葉にするようなことでもないな。――そうではなく、彼らの生き様と言ったほうがよかったか」
「生き様……ですか。さすがにそこまでは存じ上げませんね」
「でしたらこの際ですからお教えいたします。――まずドワーフですが、町や鉱山にいつくことはあってもどこかの家に仕えるといったことはまずありません」
「それは……豪族にとっては厄介ですね」
「まさしく。過去には無理やり仕えさせようとした家もあったようですが、手痛い反撃にあってえらいことになったようですな」
「手痛い反撃……ですか?」
イェフがわざわざこんな話をしているということは、具体的に何かがあったのだろうと判断して敢えて先を促すように問いかけた。
「うむ。ドワーフは氏族単位で暮らしているのですが、それぞれが独立しているわけではなく、独自のネットワークを持っているようでしてな。無茶をした家に対して禁止リスト入りをしたのです」
「禁止リスト……というと、まさか作った物の売買を禁止とか……?」
「そのまさかでしてな。ドワーフといえば武具の生産でも有名だ。そのドワーフから武具の仕入れができなくなった家は……というわけでしてな。豪族やそれに使える家にとって、ドワーフは気持ちよく仕事をさせておいたほうが良い存在という認識なのですよ」
「それはまた……何とも扱いずらい存在ですね」
「本当にその通りでして。というわけで私の主家にとっては、手元において置きたいのはやまやまだが、無理をさせるわけにも行かないというわけでして。繋がりさえ保って置ければそれでよしと考えておるようでしてな」
「なるほど。言いたいことは理解できました」
とりあえずイェフがこんな話をした理由については、これまでの話で理解できた。
ただこれだけを聞いて、おいそれと頷くわけにはいかない事情というものがある。
今度はそれについて問いかけるべく、俺は再びイェフに問いかけるのであった。
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