第10章
(1)眷属周りとユリア
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道央地域を領土化した後は、いつものようにハウスへ戻って報告をした。
といっても今回は目立った報告はなく、敢えて上げるとすれば『灼熱の因子』を手に入れたことになるだろうか。
前回の報告でマナと魔力の関係について報告しようとしたときには見事に規制がかかったのだが、今回はそんなこともなくさらりとした報告で終わった。
そういえば、人外のプレイヤーでついに因子を手に入れた者が出てきたそうだ。
それ自体はあり得ることだろうと以前から考えていたので特に驚きはしなかったのだが、問題なのは俺のように領土化しなくても手に入ったということだ。
当然そのことについて他のプレイヤーから質問が集まっていて、そのプレイヤーは対応に追われていた。
……というと掲示板にはりつけになっていたようなイメージになってしまうが、実際にはそのプレイヤー自身が積極的に話をしていたので聞かれている質問自体はさほど多くはなかった。
質問に答えることよりも、その後にあった様々なプレイヤーの考察に混じって色々な意見を言っていたのではりついていたようなイメージになっていたというところだろう。
いずれにしても『○○の因子』は、領土を得る以外にも取得する方法があることはわかった。
今のところ一人しか手に入れていないので詳細は不明だが、領土化する以外の方法が見つかったことで取得者が増えてくるだろう。
さらにいえば、人外系以外のプレイヤーも取得できる可能性も出てきた。
人外系以外のプレイヤーが因子を手に入れた場合、どのような効果が得られるのかがとても興味深いところではある。
今回手に入った『灼熱の因子』に関しては、一つやってみたいことがある。
その名前からも分かる通りに、以前やったマグマダイブの続きだ。
以前はマグマのある空間に突っ込むだけで燃えてしまったが、今ならいきなり燃えるなんてことにはならない……はずだ。
できることならマグマ自体に突っ込めるようになっていればなおいいのだが、それはやってみないと分からないというのが正直なところだろう。
――というわけで早速以前のようにアンネに案内してもらってマグマの場所へ……と考えていたのだが、その前に足止めを食らうことになった。
その理由は、新たな領土ボスを倒したからなのか新しい因子を手に入れたからなのかは不明だが、例によって眷属たちの進化ラッシュが始まったのだ。
もしかすると新しい因子を手に入れたことによって、それを元にした新しい魔石を作れるようになったからという可能性もあるが、詳しいことは分からない。
どちらにしても進化ラッシュが始まったことで、新しいチャレンジはお預けになってしまったわけだ。
今回の進化は眷属全員が対象になったのだが、当然ながらアンネもその中に含まれている。
他の眷属に比べれば進化のタイミングが早いのだが、新しい魔石が原因となっているのであればタイミングが揃うのも納得できる。
この辺りのことも掲示板に投げて検証してもらったほうがいいかも知れない。
他のプレイヤーに比べれば眷属を抱えている分調べるチャンスは多いのだが、人外系プレイヤーに確認してもらったほうが検証数が増えることは間違いないだろう。
いつものように順番で進化を行ったわけだが、以前のように大きく姿かたちが変わるというようなことはなかった。
敢えて上げるとすれば体の一部の色が変わっていたりするくらいだったのだが、眷属たちに言わせれば中身(?)は大きく変わっているらしい。
やはり灼熱の因子の効果が混じっているようで、予想通りに熱に対する色々な効果が加わっているらしい。
一番大きく変わったのはアンネで、姿かたちが既に二十歳くらいの女性になっている。
これだけの短期間で一気に成長されるとこちら側に戸惑いも生まれてくるのだが、当人はいたって普通に接してくる。
ただその言動は以前のような幼さは残っておらず、どちらかといえば妖艶ささえ身に着けているようにさえ見えた。
それが良いことなのか悪いことなのかは、今のところ判断がつかないのだが。
時折魅力たっぷりの体を使って色気方面で揶揄ったりしてくることもあるのだが、残念ながら俺自身がそちら方面での欲が薄いままなので何となく微笑ましい姿を見ているという感情くらいしか沸いてこない。
眷属たちの進化はそんな感じで、それが終わってから早速アンネに案内してもらって例のマグマがある空間へと向かった。
その結果、当初の目論見が見事に当たりマグマのある空間に根を伸ばすことに成功した。
残念ながらマグマに直ダイブすることはできなかったが、さすがにそれは望みすぎだろう。
それでもマグマが存在する空間の熱に耐えられるようになったというのは、あからさまに火が弱点である世界樹にとっては大きな成果だといえる。
さらに眷属関係で、もう一つ大きな変化があった。
それが何かといえば、相方を求めて各地へ散っていたルフ&ミアの子供たちがそれぞれの相方を連れて続々と帰ってきたのだ。
それぞれの番のメスは既に子供を身ごもっているので、春に向けての出産準備をするために来たということになる。
ちなみにミアもルフの子供を身ごもっているようで、来春は狼の子供たちでにぎやかになることが予想されている。
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眷属周りが着実に変化している一方で、巫女になると決断したユリアはそこまで大きな進展は起きていない。
世界樹の巫女としての役割はわかっていても、まだまだ気軽に旅に出れるような年ではないので、結局本体の傍にいることが仕事になってしまうからだ。
――というわけで、ユリアからこんな質問をされてもこちらとしても困ってしまうわけだ。
「あのー。結局私は、ここで何をすればいいのでしょうか?」
「それなんだよねー。本体の近くにいてもらうことが一番の仕事なんだけれどねぇ……」
まだまだ子供といってもいいユリアから真剣な表情で問いかけられても、俺としてもそう答えるしかできない。
ユリアが今いるのは、世界樹の麓に作られた社務所といった感じの作りの建物の中だ。
この社務所(仮)は、ユリアが巫女になってから作られたわけではなく、いずれは必要になるかも知れないとアイがドールたちを使って建てた建物になる。
こんな和風(?)な建物をいつの間に建てられるようになったのかという疑問はあるのだが、ドール一族(?)の生産能力は既にすべてを把握できないところまで来ているので、そういうこともあるのかと流している。
アイ曰く、この建物はドールの訓練用に作らせたということらしいのだが、普通にアイが一人で暮らしていけるくらいには設備が充実している。
「とりあえず一人暮らしに慣れてもらうことが一番で、それ以外は……思ったままのことをやってみたらどうかな?」
「思ってみたまま……ですか」
「そう。正直なところ巫女を迎えるのはこちらも初めてのことだからね。どういうことをすればいいのか皆目見当がつかないんだよ。だから世界樹の傍にいれば、いつか何かわかることもあるんじゃないかって思ってね」
「傍にいることが修行の一つ?」
「そうそう。そう考えてもらえればいいよ。多分」
いまいちはっきりしないのだが、こればかりは俺自身も答えられることがない。
お互いに手探りで、色々と経験を積んでいくしかないと考えている。
親元を離れて一人暮らしさせているということもあるので出来る限りのことをしてあげたいところなのだが、こればかりはどうしようもないのであった。
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