(9)予定外
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クインからの報告を受け取ったさらに数日後、ラックたち遠征組が帰ってきた。
実はその数日前にとあるメッセージを受け取っていて、ラックたちが無事にエリアボスの討伐をしたことは知っていた。
そのメッセージというのは、次のようなものだった。
『権限外の領域ボスの討伐を確認いたしました。爵位が足りないために当該地域の領域化は行われませんでした』
このメッセージを見る限りでは、今の爵位よりも上の爵位を得ないと樺太地域のエリアボスは討伐しても領域化できないらしい。
領域化すると世界樹の魔力で満たされることが分かるラックもそのことを理解しているのか、報告しに来た時は何となく残念そうな感じになっていた。
「ピッピ(ただいま戻りました)」
「ご苦労様。どうやら領域化はされなかったみたいだけれど、あまり気を落さないようにね」
「……ピ?(……ご存じだったので?)」
「まあね。メッセージで流れてきたからね。原因もちゃんとわかっているからそこまで気にする必要はないよ」
「ピピ。ピ?(原因まで。それをうかがっても構わないでしょうか?)」
「勿論。といっても簡単な理由で、爵位が足りないみたいだね。恐らくこの島を完全統一しないと他にはいけないんじゃないかな」
「ピ(なんと)」
「そういうわけで、ラックたちのせいじゃないから心配しないように。それに領域化しないならしないで、利用方法はあるからね」
「ピピ?(利用方法ですか?)」
「うん。といっても簡単な使い方なんだけれどね。どうやら領域化しなかった場所のボスは復活するみたいだから、訓練なんかも兼ねて狩場にしてしまえばいい」
「ピ(なるほど)」
「ただ問題があるとすれば、領域化が一方向にしか行かない場合だね。領域化のルートが完全に決まっているとすると、考えていた方法が一つのルート使えなくなる」
実のところ領域化をしていくうえで幾つかのルートを考えていたのだが、通常ルートらしい本州方面への攻略と合わせて北から大陸に上陸していくルートといきなりアメリカ大陸を攻略するルートを考えていた。
ところが今回の攻略で、まずは北海道を攻略するように指定されてしまった。
ということは、運営が決めたルート以外の攻略はできないということになってしまう。
これだけ自由度が高い世界で、いきなりそんな一本道を作るだろうかというのが疑問になるが、その可能性があることも考えておかなければならないだろう。
もっとも今のところ、そんな面倒なことにはならないと考えている。
あれだけ好き勝手に動き回ってほしいと言っている運営(特に上司)が、こんなところで固定ルートを作るとは思えないからだ。
恐らくチュートリアルの時と同じように、北海道を攻略した後は自由に領域化ができるようになる可能性が高いと思いたい。
どちらにしてもやることはあまり変わらないので、自由度がないと分かったとしてもそれはそれで構わないのだが、できれば好きなように攻略していきたいという欲はある。
「ピピピ?(ルートが絞られると問題がありますか?)」
「いやー。どうだろう。正直なところ大陸の状況が良くわかっていないから何ともいえないんだよね」
「ピ(なるほど)」
「船とかがあればファイとかを送って確認してもらってもいいんだろうけれど、残念ながらそこまでの開発力はないからね」
「ピピ(アイ様に期待しますか)」
「そうなってしまうねえ。今でも押し付け気味だからあまり無茶ぶりはしたくないんだけれどね」
「ピ。ピピピ(何。アイ様も順調に子眷属を増やしているようですから、人手の問題もいずれは解決するでしょう)」
アイはクインやシルクほどの繁殖(?)力はないが、それでも順調に子眷属の数を増やしていて、今では
中にはアイと同じように流暢に言葉を話す者も出てきているので、ラックの言うとおりに生産者の人手の問題は時が解決するだろう。
北海道の攻略を終えてしまえば、今までのような速度での領域化も行わないつもりなので、丁度いいといえば丁度いいのかもしれない。
北海道の全域を領域化さえできれば、あとは時間もできるはずなので船の開発に関わることもできるだろう。
そんな皮算用は行っているのだが、実際のところはどうなるのかは今のところ全く分かっていない。
今回のように北海道外の領域化ができなかったのと同じように、何かの仕様で阻まれる可能性もあるだろうし、何よりも本州方面にいるはずの人族がどういう動きをするのかも分からない。
結局はその時その時の判断で動くしかないのだが、それはこちらではどうすることもできないので、流れに身を任せるしかないだろう。
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ラックからの報告を受け取った数日後には、地下空間で進化をしていたアンネが地上に姿を見せていた。
以前の進化の時も幼女から少女へと大幅な変化を遂げていたのだが、今回は完全に
種族名だと蟻女子から氷熱女王蟻に変わっているのだが、その変化に合わせるように雰囲気も大人のそれに変わってしまっていた。
「――ご主人様、どうですか? すっかり大人の女性になったでしょう?」
地下空間から上がってきたときの第一声がこれだったので、すっかり以前の幼さはなくなっていることはすぐに理解できた。
「本当にね。でもあの子が成長すればこうなるんだという納得もあるかな?」
「あら。あっさりと躱されてしまいましたね」
いたずらを仕掛けた子供のようにクスクスと笑うアンネに、俺は肩をすくめてみせた。
「それはそうだろう。アンネが初めての近くにいる女性だったとかならともかく、アイやらシルクやらクインがいるんだぞ?」
「あらあら。確かにお姉さま方には勝てる気がしませんね」
「ついでに言うと
「ご主人様はご自分で種を作られて増やせるようですからね。確かにそうなのかもしれません。……だからといって諦めるつもりはありませんが」
「ん? 何?」
「なんでもありません」
最後にポツリと呟かれた言葉が聞こえなかったので聞き返したのだが、アンネはニコリと笑うだけで教えてもらうことはできなかった。
「ところで、ご主人様」
「何だい?」
「進化をして女王種になったことで、私も子眷属を生み出せるようになりました。ご指示を頂ければすぐにでも数を増やしますが、どうされますか?」
「おっと。それは重要な話だな。やっぱり魔石は使うのかな?」
「そうなります」
「なるほどね。あとシルクやクインの子眷属と生活圏がかぶって問題が起こると困るから、きちんと二人とも話をするようにね」
「それは勿論です。たださほど心配はしていませんが」
「そうなの? それならまあ、いいや。どちらにしても、きちんと二人から話を聞いておくように」
「はーい」
恐らくわざとなのだろうが、大人びた態度からそんな返事をされるとやはり以前のアンネと変わらない部分もあるのだろうなと実感できる。
その後アンネは、傍で話を聞いていたシルクやクインに引きずられるように連れられて行った。
何故かシルクやクインがどこか怒っているプラス呆れているようにも見えたが、最後のおどけた態度に何か思うところでもあったのだろうか。
いずれにしても新しい子眷属たちが生まれてきそうなので、これでまた今後の展開が楽しみになったといえるだろう。
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