(10)新しい能力と不満
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アンネの子眷属に関してはシルクとクインに任せて、俺自身は大まかな数だけを指示しておいた。
ただ大まかな数といっても、今すぐに数を増やせるわけではないので、今は出来る限り増やすように言ってある。
どうやら蟻の子眷属は、蜂や蜘蛛とは違って数が増やしやすいらしい。
といっても数が増やしやすい分、能力の高さという意味では一段落ちるとのことだ。
最初の頃の蜂や蜘蛛に比べて、今の両子眷属は生まれた時から能力が高めで誕生してくる。
それを考えれば、むしろアンネの子眷属が一段低めで生まれてくること自体が嬉しいことと言える。
アンネの子眷属が能力高めに生まれてくるのは、親になるアンネ自体の能力が高いからだということだ。
それらのことは、アンネが中心になってシルクやクインが色々と調べて分かったことだ。
蟻の子眷属が多く生まれてくるというのは、それが種族としての特性なのだと思われる。
それなら蜂とあまり変わらないのではないかと思うのだが、現実世界でも種類によって変わることはあるだろうから気にしても仕方ない。
あるいはクインやアンネが進化をすればそのあたりの法則も変わってくる可能性もあるので、一概には言えないだろう。
それに、そもそもクインやシルクは質を重視しているということもあるので、アンネも今後は同じようなことになっていくこともあり得るだろう。
蟻の子眷属については、どうなっていくのか未知数なところがあるので今後の変化も楽しみなところだ。
――と、クインたちから報告を受けてそんなことを考えている時に、予想外の方向で蟻たちの能力を知らされることになる。
それが何かといえば、なんと地下空間を作っている蟻たちが、金属鉱脈を見つけた上に加工までしたのだ。
その知らせをアイから受けた俺は、思わず惚けて二度聞き返してしまった。
「――えーと。つまり、蟻たちが加工して持ってきた鉱石は、質が高いということ?」
「それもあるのですが、きちんとそれぞれインゴットの状態に加工されて持ってきます」
「え、えーと? アンネ、その辺はどうなの」
「巣を作っている時に邪魔になっている物を纏めて加工しているだけなんですが、駄目でした?」
「いやいや。ダメってことはないけれど……そうか。蟻ってそんな能力があったのか」
「ご主人様。騙されてはいけません。普通の蟻にはそんな能力はありません」
「だ、だよね? でもまあ、アンネが出来るって言うことはそういうことなんだろう」
「……確かに、現実に物を持ってきていることを考えると否定しても仕方ない……ですか」
「そうそう。そういうことにしておこう」
にこやかな笑顔のままこちらを見てくるアンネを見ながら、俺とアイは無理やり納得することにした。
本当なのかと思わなくもないのだが、実際に持ってきている以上は否定しても仕方ない。
こんなことでアンネが嘘を吐くとも思えないので、疑っても仕方がない。
何よりも金属鉱石を加工した状態にできることは、今後の運営にもいい方向に影響があるので、当たり前だが文句などをを言うつもりもない。
「アンネたちがインゴットを作ってくれるのはいいとして、今後はそれを使って色々作れると考えていいかな?」
「勿論。むしろ私たちが一から加工するよりも質が良いから、今後は任せてしまった方がいい」
「ああ。なるほどね。質が良いというのはそういう意味も含まれているのか」
これまで作ってきた魔道具で金属が関係しているところは、アイやアイの子眷属が作っていた。
それをインゴット加工とはいえ、質がいいものを蟻たちが加工してくれるようになるだけでも十分に助かるのだろう。
「そう。今後、インゴット加工に関しては、アンネたちに任せてしまったほうがいいです」
「だって。アンネ。これからも必要になる可能性は高いから任せるよ」
「わかった! 作った物は直接アイお姉さまに預けてしまった方がいいですか?」
「そうだね。こっちで必要になったら都度アイからもらうようにするよ」
どう考えても金属を使う機会が多いのはアイになりそうなので、最初から渡してしまったほうがいいだろう。
アイたちが使って余った分を交易なりプレイヤーへ卸すなりすればいいので、そちらのほうが管理が楽である。
こうしてアンネとアンネの子眷属の新しい能力が発覚したわけだが、今後の運営に大いに役立ってくれそうな能力なので改めて感謝を示すのであった。
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アンネの進化と共に子眷属たちも増えてきたが、その間も当然のように北海道内の領域化は順調に進んでいた。
そして短い夏が終わって秋が来るころには、道央地域と道南地域が八割の領域化に成功していた。
そのほとんどがファイによる成果なのだが、ファイ自身はあまり納得のいっていない様子だった。
「こっちとしては素晴らしい成果だと思うんだけれど、どこか不満そうだね?」
「ガウガウ(そう言ってくれるのはありがたいんだが、どうにも手ごたえがなくてな)」
「なるほどねー。こればかりはどうしようもないからねえ」
「ガウ(わかってはいるんだがね)」
どうやらファイは、領域化をするために倒してきたボスがそこまで歯ごたえがなかったことに不満を持っているようだった。
こちらとしては怪我もなしに領域化が済んでいるのでありがたい限りなのだが、強さを求める魔物らしい不満と言えるだろうか。
ただし不満をこちらに向けられると困ったことになるのだが、今のところそんな気配もないので一応のフォローとしてなだめるくらいのことはしておいた。
「今後はもっと歯ごたえのある相手も出てくる……と言いたいところだけれど、正直なところ約束はできないかな」
「ガウガ?(領土ボスは出てくるだろう?)」
「二体は確実だろうけれどね。その先は全く分からないよ?」
「ガウ。ガウガウ(それは仕方ない。主がこの島を上手く攻略できたということだからな)」
「あら。それで納得してくれるんだ」
「ガウ(無いものを求めても仕方ないからな)」
「そう言ってくれるのはありがたいけれど……いっそのこと泳ぎでも覚えてみる?」
「ガウ? ……ガウガウ(泳ぎ? ……ああ。北の方にある新しい島のことか。少し考えてみよう)」
「今はまだこの島の攻略が終わったわけじゃないから、まずはこっちが先だけれどね」
「ガウ(わかっている)」
強い敵と戦えない不満はあるようだが、それよりもこちらの指示を優先してくれているのはさすがの眷属といったところだろうか。
ファイの不満がたまるようであれば、敢えて魔物を倒さずに置いておいてそこそこの強さになってから倒させるということも必要になるかもしれない。
今のファイを見ている限りではそこまでする必要はなさそうだが、検討する余地はあるだろう。
そこまで行く前に、何か新しい趣味になるようなものを見つけてくれればいいのだが、そうそう上手く行くかはわからない。
ファイのことはさておいて、でっかいどー内の目標としていた領域化はこれで終わったことになる。
あとは二つの町の周辺が残っているだけだが、それについては来年以降にお預けとなる。
セプトの村についてはダークエルフが交易を始めたことによって情報も集まってきているが、決定的なことが起こるような情報は今のところ掴んでいない。
以前から何かの後ろ盾が増えているのではないかという推測は立っているのだが、ダークエルフとの交易が始まっても表立って動くような組織や国の影は今のところ見つかっていないのだ。
このままいくと冬になって交易が止まることも伝えているので、あるとすれば来春以降ということになるだろう。
今までの交易でもほとんどありきたりな商品しか持って行っていないので、特に気にするような存在ではないと思われているのかもしれない。
これらのことから残った二つの町に関しては大きく動き出すのは来春以降ということにして、今は内政の充実に努めることを優先するのであった。
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第8章の閑話は全部で3話あります。
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