(3)魔物の進化
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
魔石に余裕が出てきたことで、できることが増えたことは間違いない。
一番大きかったのは、必要な物をハウス経由で仕入れることができるようになったことだろうか。
そこで仕入れたものは、基本的にゴブリンたちに分け与えるようになってきた。
人――というよりも生き物にとって大事なことは、食料という存在だ。
ゴブリンにとって強くなるということは、個体が強くなっていくことも重要なのだが、それよりは集団として強くなることの方が大切である。
簡単に言ってしまえば、ゴブリンにとっては数こそが力で個々の強さは二の次だということである。
勿論、今後のことを考えれば個の強さも必要にはなるだろうが、まずは数が増えないことには動きようもない。
その辺のことをゴブリンナイトと話をしながら調整を進めて、配給という形で俺から渡した食料を配布することにしている。
その結果として食料に多少なりとも余裕が出てきたゴブリンたちは、これまで狩りに使っていた時間を数を増やすことのために使い始めるようになった。
ただそのことによってゴブリンたちが快楽に溺れるようになってしまっては意味がないので、こちらから与える食料の量はほどほどにしてある。
それでも常に飢えに近い状態だったゴブリンたちにとっては十分すぎる量だったようで、今ゴブリンの集落ではベビーブーム真っ盛りという状態になっている。
ちなみにゴブリンたちに食料を与えることを決めたのは、それまでの観察によってそれなりに信用が置けると判断したためだ。
さらに食料を与えてからは、ゴブリンナイト以上の存在として認めてくれているようになっている。
ゴブリンも一応魔物であるため強さが基準になっているところはあるのだが、多くの食料を与えてくれる=強さという基準もあるらしい。
それはそれで別に悪いことではないので、しばらくはそのままの認識でいさせるつもりでいる。
ただしその認識によって、より多くの食料を与えられるとそっちに流れる可能性もあるわけだが、その辺は準眷属がどういう存在であるかを確認するためのちょうどいい材料と考えることにしている。
ここでゴブリン以外に準眷属となる種はいないのかという問題が出てくるのだが、既にゴブリン以外にも準眷属となり得そうな魔物は幾つか確認されている。
ただ未だに準眷属が世界樹にとってどういう存在になるのかわからないため、今のところは仲間に加えることを控えている。
その幾つかの種と接触はしているが、あくまでも敵対せずに存在を認める程度にとどめている。
それでもそれらの種にとってはありがたいらしく、認められている範囲内でそれぞれの活動を行っているようだ。
準眷属と準眷属になり得る存在はともかくとして、今後は今まで以上に子眷属の強化に力を入れておきたいところだ。
というわけで今も子眷属を生み出し続けているシルクとクインを相手に、今までの情報を整理することにした。
その場にラックも加わっているが、あくまでも彼自身の知的好奇心を満たすという目的があるのだろう。
子眷属の存在を考える上でどうしても外せないのが、進化というものの考え方だ。
一般的に魔物が進化すれば、それまでと比べて大幅に能力が上昇すると考えられている。
そのこと自体は間違いないのだが、その一方で進化と一括りにしてしまっては見過ごせないような問題も出てきている。
その問題というのは、掲示板でもたびたび話題に上がっている『縦の進化』と『横の進化』という考え方だろう。
簡単にいえば種を飛び越えて大きな変化をするのが縦の進化で、同じ種族内で役割を変えて進化することが横の進化になる。
これを一昔前に流行ったジョブシステムに当てはめれば、一次職内(ファイターやメイジなど)で転職をするのが横の進化で、二次職や上位職に転職することを縦の進化と呼んでいるようなものだ。
とはいえ縦の進化と横の進化では、そのたとえで説明しきれない能力変化が起こることもありえる。
それをゴブリンで例えると、ゴブリンからゴブリン○○と進化することが横の進化になるわけだが、ゴブリンキングやらゴブリンエリート辺りまでくると縦の進化先よりも強くなることもある。
ゴブリンの縦の進化先で一番の代表例を挙げるとただの鬼に進化することになるだろうが、その場合は明らかにキングやエリートのほうが単純な能力で見ても強くなる。
そう考えると横の進化を進めても強くなれないとは一概に言えず、単純に縦の進化だけを進めていけばいいとはならないのである。
「うーん。やっぱり進化を考えるとややこしくなりすぎるよなあ……」
「それはそうですが、必要な役目に応じて進化させるだけでは駄目なのでしょうか?」
「いや。勿論それが一番なんだけれどね。いざという時に必要な進化先があるかどうかはわからないじゃない?」
何気なく俺がそう言うと、シルクとクインが顔を見合わせた。
「……あれ? 何か間違っていた?」
「間違っているというか……恐らく認識の違いですわ。わたくしたちにとっては、どの進化先でどの役目を負わせられるかというのは普通に分かるものですわ」
「えっ……そうなの!?」
「勿論完全に当てはまるというわけではありませんが、九割以上は分かった上で進化させておりますね」
「おおう。こんなところで認識の違いが出てきたか」
シルクとクインからの意外な情報に、思わず頭を抱えてしまう。
最初から狙った進化ができるのであれば、それに合わせたチーム編成ができるということになる。
ただただ自然に任せた進化をするよりは、はるかに効率的な運用ができるというわけだ。
……と、ここまで考えたところで、ふと自分の間違いに気が付いた。
「あー……。一つ確認だけれど、進化先でどういった能力がつくのかわかるだけで、狙った先に進化できるというわけではない?」
「進化は基本的にそれまでの経験や行動によって決まりますから、ある程度狙った進化をさせることはできますわ」
「そうですね。ただ経験や行動には当然時間がかかるわけですが」
「時間がかかるのは当然だと思うけれど…………え? もしかして時間をかけずに狙った種を生み出せたり?」
「すべての種を生み出せるわけではありませんが、ある程度はそうなります」
「わたくしも同じですわ」
子眷属に関してのほとんどを二人に任せてきた弊害がここにきて出てきたようで、思っていた以上の答えが返ってきた。
生み出す時点で進化種も含めた好きな種を作れるのであれば、最初から苦労して育てる必要がなくなる。
それは時間短縮という意味においては、最高の結果になるということだろう。
とはいえ、好きな種を好きな時に生み出すというのは、利点ばかりあるわけではない。
「一応付け加えますと、そもそも私自身よりも強い種は生み出せません。それに当たり前ですが、進化種を生もうとするとそれに合わせて時間なり魔力なりを必要とします」
「なるほどね。やっぱり早々上手いことにはならないというわけか。ざっくりでいいんだけれど、いきなり進化種を生みだした場合と経験と時間をかけて進化させた場合では能力に差があるの?」
「それこそ個人個人の資質によるとしか言えませんわ。ただし基本的にわたくしたちが作って生まれてきた場合は、能力が一定になりますわ」
「そういうことね。一概には言えないわけか。これも当然といえば当然……なのかな?」
この世界が「ゲーム」だと分かってはいても、そこで暮らしている生物たちが全てシステマティックに動いているわけではない。
ゲームとしてある一定の「ルール」を設けたうえで、あとは自由に暮らしているのがこの世界で生きている生物たちだと俺は考えている。
そういう意味では、基本的には地球で暮らしてきたのと何ら変わりはないのだと。
いずれにしても魔物の進化に関しては、まだまだ分かっていないことの方が多いと改めて自覚できた。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
今年の更新は以上になります。
来年からも本作をよろしくお願いいたします。
※今後の更新ですが、お正月の三が日は一日二回更新する予定です。
それ以降は基本的に一日一回更新。
気分……というかストック次第で土日(もしくはどちらか)が二回更新になる日も
あります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます