(2)眷属間の魔法の扱いとくず魔石

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 自分が転移魔法もどきを覚えたと思ったら、その話を聞いただけで部下の眷属が使えるようになったでござる。

 ――とまあ、さすがにシルクのやったこと驚いて色々とおかしなことになっているが、それは俺だけではなかったようでほぼすべての眷属がシルクから話を聞きたがる事態になってしまった。

 俺のところに来ないのは何故だろうとポツリと呟いた……つもりだったのだが、しっかりとその声を拾ったクインがその答えをすぐにくれた。

 曰く、「主様は、種族由来の使い方をしていることが多く、シルクのほうが分かりやすい」とのことだった。

 どうやら眷属同士では普段から魔法の理論などのやり取りは頻繁に行っているらしく、ダークエルフとの間で発生したような問題は発生しないらしい。

 普段からそんなやり取りがあるにも関わらず、シルクがラックとクインの勢いに押されていたのは、よほど使いたかった魔法だったようだ。

 そろそろ領域の範囲も広大になってきたので、一瞬で移動できる手段があるなら使いたいと考えるのは当然だ。

 いくら普通の魔物と比べても移動が速い眷属たちとはいえ、何日もかけてエリアボスを倒しに行くのは面倒なのだろう。

 

 そんなこんなで眷属たちの間でシルクの魔法の講義が始まったのだが、やはり他の眷属たちにとっては中々使うのが難しい魔法らしかった。

 そもそも俺の魔法が種族由来で使いづらいというのであれば、蜘蛛の糸を利用して転移したシルクの魔法が使いづらいというのは道理だろう。

 とはいってもそれはそれでできることはあるはず……と張り切っているのはラックで、残りの眷属もそれに乗っかるように議論を重ねていた。

 意外だと思ったのは、基本的に脳筋だと思われがちなファイもしっかりとその議論に乗っかっていたことだ。

 

 もしラックたちが転移魔法を使えるようになれば今後の領域の運営も楽になることは確かなので頑張ってもらいたい。

 できることなら俺もその議論に加わりたいところだが……と考えたところでふと掲示板の存在を思い出した。

 もし転移魔法に関する一連の話をあそこに投げたら、中々面白いことになるのではないだろうか。

 そう思った俺は、ラックに今考えている理論を話してもらって、それを掲示板に投げかけてみることにした。

 

 そうして帰ってきた結果は、「わからない」というものだった。

 そもそもどの世界でも転移魔法は、大魔法というか普通ではない魔法に分類されているようで、ほとんど使える者はいないとのことだった。

 逆にこちらの話を聞かれることになってしまったのだが、それはそれで有益な情報だった。

 伝説的な魔法というのが大げさだったとしても、自由自在に使える者はいないと考えてもよさそうだ。

 ただ、どの世界も発展具合は似たり寄ったりというのが掲示板内での常識になっているが、一応ダークエルフ辺りに確認しておいたほうが良いだろう。

 

 それはともかくとして、掲示板でちらりと上がっていた考察に関してはラックに伝えておいた。

 それを聞いたラックもなるほどと頷いていたが、どうやら同じようなことは考えていたようだ。

 この辺りはさすがのラックといったところだろう。

 

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 魔法とスキルに関して色々と話が進む一方で、領域の拡大は手が止まっているというわけではない。

 むしろフリーズホーク戦が終わった以降は、水を得た魚のように攻略が進んでいる。

 初めて出てきたときには多少戸惑うことになった複数領域のエリアボスも、今となっては普通の存在となっていて、時には事後報告で討伐されていることもある。

 事後報告で大丈夫なんかいなと思うこともあるのだが、そういう場合は相手側から不意打ちを食らってそのまま倒してしまったというパターンがほとんどである。

 意図的にそういう状況に持って行って事後報告をしてきたなら注意をしなければならないが、そうではないので怒るわけにもいかない。

 むしろそこで怒ってしまうと、前世の世界でよく話題になっていた理不尽な上司になってしまう。

 流石にそれは嫌なので、報告を受けるだけ受けて注意だけはするように伝えて終わっている。

 

 そんな感じで順調は攻略が進んでいるが、それに伴って以前とは比べ物にならないくらいに手に入るようになったものがある。

 それが何かといえば、エリアボスは勿論のこと領域内に出現している魔物の討伐で得ている魔石である。

 領域の拡大に伴ってシルクとクインの子眷属は増えているのだが、その増加に追い付かない勢いで魔石が増えている。

 これは逆を言えば、以前と比べて明らかに速い速度で魔物の出現ペースが増えているということだ。

 

 あくまでもこれは確証のない個人的な考えなのだが、ダンジョンの拡大に合わせて魔物の出現頻度が増えていくのと同じようなものではないかと感じている。

 だからといって世界樹の支配している領域がダンジョンだとはいわないのだが、どこかで共通するような機能というか影響があるのかもしれない。

 今のところそれが何であるのかはわかっていないが、今後明らかになっていくのでは――という予感がしている。

 どこまで行っても個人的な想像――というか妄想の範囲内でしかないのだが、不思議に思うのはそれが確信をついていると心のどこかで考えていることだ。

 もしかすると世界樹となっていることが、そうした考え方に影響を与えているのかもしれない。

 だからといって嫌な感じはしないので、敢えて今は深く追及するつもりはない。

 

 そんな個人的な妄想は頭の片隅に置いておくとして、現実的な問題となっているのは処理しきれない魔石が増えて行っているということだ。

 そんなものはシルクかクインに渡して子眷属を増やせばいいではないかと言われそうだが、あまり増やし過ぎるのも問題が出るということで、最近では二人から拒否されるようになってきたのだ。

 そうなってくると、質の高い魔石はまだいいとして弱い魔物から出てくる質の悪い魔石はどんどん余ってくることになる。

 余っているのであればハウスに持って行って使えばいいと思わなくもないが、いくらあまりものとはいえ湯水のようにあちらにつぎ込むのもどうかと考えて決断できずにいた。

 こんなところでも発揮されている優柔不断のせいで、質の悪い魔石は拳大の小山となりつつある。

 

「……いっそのことよくあるパターンで、くず魔石同士で合わせることができればよかったんだけれどなあ……」

 そう呟いては見たもののそんな都合のいい方法があるはずもなく。

 実は何度かくっつけることができないかと試してみた後なのだ。

 お陰で失敗作であるなれの果ても幾つか放り投げる結果になっていた。

 

 いっそのこと魔石を使ってどんどん眷属を進化させることができれば、とも考えたのだがそうは問屋が卸さなかった。

 眷属たちの進化にはそれに伴った質の魔石が必要なようで、今となってはくず魔石程度では進化には全く使えないことが分かっている。

 最初の頃はどうやって使うかでヒ―ヒー言う羽目になっていた魔石が、まさか邪魔者扱いになるとは考えていなかった。

 さてこれらの魔石をどうしてやろうかと恨めし気に睨んでみたが、そんなことをしても状況が改善するはずもなく時間だけがむなしく過ぎて行った。

 結局くず魔石に関しては、今後人との交流が増えてきたときに使い道が出てくるだろうといういつも通りの結論に落ち着いた。

 こんなことを掲示板で呟けば、「なんて贅沢な!」という答えが返って来そうなので、書き込むことも自重することにした。




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