第6章

(1)転移魔法?

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 氷の種を植えた畑の管理はシルクとクインの子眷属に任せることになった。

 とはいっても初めてのことなので、俺自身もちょくちょく顔を出すことにはしている。

 氷の種を植えた畑は、魔法を使わずに手作業で植えているので、ダークエルフの前で使った魔法とは違って一気に成長しているわけではない。

 何しろ初めて見る植物なので、きちんとした経過を見守ったほうが良いと考えたのだ。

 それに加えて、下手に魔法で成長させると周辺にどういう影響を与えるかが分からない。

 そうした諸々のことを考えてゆっくりと成長を見守ろうということにしていた。

 

 ホームに来たダークエルフの三人は、しっかりと精力的に活動している。

 次の日に収穫できたジャガイモに関しては一旦終わらせて、今は彼ら自身が植えた植物の経過を観察している。

 植えているのはジャガイモではないが、俺が作った畑でどう成長していくのかを見ていきたいとのことだ。

 ついでに、研究目的でミランが使った魔法の効果を合わせて確認している。

 今のところ魔法なしと比較してさほど違いがあるようには見えないとのことで、今後に期待するしかないだろう。

 

 そんなこんなで植物関係に関しては一段落したので、次は別の魔法を試してみることにした。

 これも進化した時からできるのではないかと感じていた魔法だったのだが、今まで使う機会に恵まれなかったのだ。

 そうこうしているうちに時間が経ってしまったので、敢えて理由を作って使ってみることにした。

 その魔法(スキル?)とは、以前からできるようになっていた分体生成の延長のような魔法である。

 今までも根が張っている先には自由に出ることができていたのだが、それを領域内に転移したように出現することができないかを確認したかった。

 

 というわけで今ちょうどシルクが領域内で戦闘をしているようなので、そこにめがけて本体から分体生成を使って出現するようにイメージしてみる。

 ちなみに何故シルクが離れた場所で戦闘しているか分かったかといえば、シルクがいる場所に魔物がいる反応があったからだ。

 進化してから特に領域内から感じる魔力の反応が細かいことまでわかるようになっているようで、中々便利なことになっている。

 ただし細かく反応が読み取れるのは本体の中にいるときで、分体でいるときにはそこまで具体的にはわからない。

 この辺りも要検証だが、恐らく魔法を使っている状態ではわかりにくくなっているのではないかと考えている。

 

 それはともかくとして、本体の中からシルクのいる場所を探った俺は、そのあたりをめがけて分体生成の魔法を使ってみた。

「――――おおっ!?」

「あ、主様……!? 何故ここに!?」

「えっ……? おっと!」

 分体生成で姿を見せると同時に、こちらに向かってくるウサギ(魔物)が見えたので慌てて魔法を使って処理をする。

「おー、危ない危ない。転移するときはきちんと考えたほうが良いな」

「考えた方がいいな、ではありませんわ! いきなりすぎて驚いてしまったではありませんか!」

「おおう…………」

 戦闘中にいきなり俺が現れたことに驚いたシルクが、珍しく本気の声で勢いよく怒ってきた。

 そのあたりのことを考えなしに転移したことは流石に悪かったと思っているので、ここは素直に謝っておく。

 もっとも、俺がすぐに謝ったことで怒りがすぐに冷めたのか、今後は逆にシルクが恐縮することになってしまったのだが。

 

 恐縮するシルクをなだめた後は、先ほど使った分体生成について考察し始めた。

「うーん……。好きな場所に出られるようになったのは便利だけれど、転移先の状況によっては危ないことになりそうだな。どうしたものか」

「あっ……! それですわ! 主様、いつの間に転移ができるようになったのですか?」

「できるようになったのは恐らく前からだけれど、試したのは今回が初めてだね。ただ一応言っておくと、普通の転移とは違う……と思う」

「そうなのですか?」

「うん。そもそも領域内でしか使えないからね」


 イメージでいえば、領域内に満ちている世界樹の魔力を伝って道を作り、その先で分体生成を使うような感じだ。

 そのため世界樹の魔力が行き届いていない領域外では使えないので、好き勝手に行き来ができる転移魔法とは微妙に違っている。

 とはいえいきなり違った場所に出現できるという意味では、転移魔法と同じかそれに似た魔法だといっても構わないだろう。

 そこまで考えた俺は、ふとこのことを掲示板辺りに投げたら面白いことになりそうだと思った。

 掲示板にいる魔法使いたちならこのことを基本にして、転移魔法を完成させてしまいそうだ。

 

 そんなことを考えていた俺に、シルクが何やら考え込むような顔になってうつむいていた。

「……あれ? 何かあった?」

「何かというか……主様の話を聞いていたら、わたくしにも出来そうだなと思っただけですわ」

 プレイヤーならもしかしてと思ったのだが、まさかのシルクの「できるかも」発言だった。

「いや……だけって、本当にできたら凄いと思うんだけれど?」

「わたくしは主様やアイ様のように世界樹の魔力を強く感じ取ることはできませんわ。ですが『糸』と通すことはできますので、それを伝っていけば……」

「なるほど。糸ね。シルクらしい発想だけれど、そんなことができるの?」

「わかりませんわ。ですが何故かはわかりませんが、できそうだという感覚があります」

「なるほどね。それじゃあ、ホーム辺りを目標にやってみたらどう? あのあたりならいきなり戦闘ということもないだろうし。俺もそこならすぐに戻れるからね」

「そういうことでしたら……試しにやってみますわ」


 俺の言葉に頷いたシルクは、周囲にいた子眷属に何やら指示をしてから目を瞑って集中し始めた。

 本来なら自然に使えるようになった方がいいのだろうが、今は初めてのことなので敢えてそうしているようだ。

 そして、シルクが目を瞑ってから十秒ほどが経ったか経たないかくらいの時間が経過すると、いきなりその場にあったシルクの姿が消えた。

 それを目の前で確認した俺は、すぐにシルクの実験が成功したことを確信した。

「うーん。俺の言葉をヒントにすぐに成功してしまうか。…………天才じゃね?」

 思わず呟いてしまったその言葉に、たまたま近くにいた子眷属(蜘蛛)が反応して何やら体を大きく揺らしていた。

 それを見てどうやら同意してくれたらしいと理解した俺は、その子眷属に一言断ってから分体生成を解除して本体へと戻るのであった。

 

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 シルクが結果を出したことに満足してゆっくりと本体から分体生成でホーム周辺に出現すると、そこでは何故かシルクがラックとクインから問い詰められていた。

 どうやらシルクが突然現れたことに驚き、さらに転移ができたと聞いてそんなことになっているらしい。

「こらこら。俺が言うのもなんだが、魔法について問い詰めるのはマナー違反だったんじゃないか?」

「ピッ!?(主様!?)」

「主様まで、いつの間に!?」

「いや。俺は普通に世界樹本体から分体生成を使っただけだから、少しは落ち着こうか」

「す、すみません」

 俺に言われてようやく平静ではなかったと気付いたのか、クインが少し表情を赤くしながら俺に謝罪してきた。

「気持ちはわかるが、問い詰めるのはほどほどにな。それでへそを曲げて情報を貰えなくなったら本末転倒だぞ」

 最後にそう釘をさすと、流石にやりすぎだったと反省したのか、ラックとクインは改めてシルクに対して謝っていた。

 

 その後、どうにか落ち着いたラックとクインにシルクが転移魔法について説明をしていたが、理屈は理解できても彼らに同じことができるようになった……わけではなかった。




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