(10)氷の種
本日(2020/12/27)投稿2話目(2/2)
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フリーズホーク戦で勝利して得たものの中に、『極寒の因子』というものがあった。
これが何のためにあるのか最初は具体的に分かっていなかったのだが、畑を作って種イモを植えたことでふと思いついたことがあった。
その思いついたことというのは、この『因子』というのを植物の属性として取り込むことができないかということだ。
それは当然のように、これから植える種や苗だけではなく、既に世界樹そのものにも作用しているのではないかと考えている。
簡単にいえば、『極寒の』とついていることから寒い地域でも生育できるような要因――属性が付与されているのではということになる。
寒冷地で育っている植物は数多く存在しているが、それらの植物はあくまでも温かい季節に生育・繁殖を繰り返しているだけだ。
だがこの『極寒の因子』を持った植物は、ずっと寒いままでも生育・繁殖ができると想像している。
それもこれも植物魔法を使ったことで新しい植物を作れるのではないかという発想に至ったからこその『思い付き』だ。
とにもかくにもまずはやってみないと分からないということで、さっそく植物魔法を使って新しい『種』を作るイメージをしてみる。
そこにプラスして『極寒の因子』が使えないかと強く意識してみた。
そもそも『極寒の因子』がどういったものなのか具体的に見たわけではないので、明確なイメージがあるわけではないのだがとりあえず寒い地域でも成長する植物をイメージする。
簡単にいえば極地にあるような氷に覆われた大地でも育つ植物を考えてみる。
実際にそんな植物が存在しているところを見たわけではないので、完全に想像の範囲内で思いつく限りのことをイメージして魔法を使ってみた。
すると先ほどまではなかったはずの手の中に、明らかに植物の種子だろうと思われるものが幾つか収まっていた。
「おお。まさか、こんなに上手くいくとは思わなかった」
土壌開墾に関してもそうなのだが、自身が世界樹の化身(分体)であるお陰なのか、植物が関わる魔法にはプラスの補正がかかっているのではないかと思えるほどだ。
思わず出してしまった俺の声に反応して、隣にいたアイが視線を向けてきた。
「――何かありました?」
「いや。ちょっと試したことがうまく行ったみたいでね。――これなんだけれど……」
「何? ……って、冷たい!?」
渡された植物の種が冷たくて驚いたのか、アイは思わず受け取った種を落としそうになっていた。
もっとも落としそうになったといっても、ちょっとだけビクリとしてしまったという感じだったのだが。
新しく作った種をきちんと観察してみると、一~二ミリ程度の大きさで何やら光に反射してキラキラ光っている。
その冷たさと見た目によって小さい氷を手に乗せている感じなのだが、溶けて行かないので氷ではないことはわかる。
……ちなみに元が木の人形であるアイに体温があるかといえば微妙なところなのだが、くくりとしては『生物』に入るので体に温度はきちんと存在している。
他の人と触れた時に違和感を持たれないように、人の平熱と同じような温度になっているところが不可思議なところだろう。
アイの驚いた声がこの場にいた他の面々にも届いたのか、三人のダークエルフも注目してきた。
特に先ほどまで近く話をしていたミランは、何やら胡乱気な表情になっている。
その表情から「また何かやらかしたのか」と言いたげなのが伝わってきたが、気付かなかったフリをする。
これから先のことを考えればこの実験は必要なことなので、批判的(?)な意見は受け付けるつもりはないのだ。
「この冷たい種? ……は、何の種でしょうか?」
「さあ? 俺も寒いところで育つ植物をイメージして作っただけだから、どんな風に育つかはわからないな」
「寒いところって……?」
「この辺りも十分に寒いんだけれどね。場所によっては年中氷におおわれているなんてところもあるから、そういった場所で育つ植物ができないかなってね」
「出来たらすごい」
「だよね。というわけでさっそく育ててみたいんだけれど……大雪の永久凍土辺りに作ってみるか。どっか見つけてたっけ?」
「あった……はずです。ラックのほうが詳しい」
「だね。ちゃんと後で聞いてから埋めに行こうか」
「駄目。すぐに確認します」
「えっ……!? ちょっと!?」
ものすごい勢いでアイから引っ張られることになった俺は、そのままの勢いでラックのいる場所へと連れられてしまった。
何がアイの琴線に引っかかったのは分からないが、どうやら氷の中で育つ植物というものに興味を持ったようだ。
その勢いのままアイがラックに説明をしてくれたので、俺がやることはほとんどなかった。
そのアイの説明で理解できたのか、ラックが少し考えてから思い当る場所があると言い出して、結局その場所まですぐに向かうことになる。
ラックが案内してくれた場所は、いわゆる極地のように一面雪で覆われているというよりは、ところどころに溶けることがなかった雪が残っているような地帯だった。
本当であれば極地のようにずっと雪として残るような場所がよかったのだが、現時点でそこまで求めるのは贅沢というべきだろう。
とにかくその場所について作った種を植えるべく土壌開墾のスキルで畑を作ろうとした俺だったが、ふと気づいたことがあった。
「あ。これならいけるかも? ……うん。行けたね」
「ご主人様。何をしましたか?」
「何って、見たまんま? 普通に開墾するんじゃなくて、雪とか氷が残ったまま畑になるイメージしてみた」
そんなことを言った俺たちの視線の先には、土の代わりに雪でできている畑――のようなものができていた。
先ほど作った種が育つのにちょうどいい環境になるようにイメージして魔法を使ったら、勝手にそんな環境で雪の畑ができたのだ。
俺がやったことに少しだけ驚いていたラックだったが、すぐにいつも通りに戻っていた。
「ピピッピ(これは――すぐにシルクとクインを連れてきましょう。この場所をきちんと管理する必要があります)」
「畑のこともある程度面倒見れる子眷属が良いかな?」
「ピーピピ(畏まりました。そう伝えます)」
それだけを答えたラックは、すぐにホームの方向へと飛び立っていった。
ラックたちが戻って来るまでの間、俺とアイはせっせとできたばかりの畑に作った種を植えて行った。
最初の作った種だけでは確実に足りないので、俺自身は魔法を使って種を増やすことがメインの仕事だ。
そして作った畑一面に種を植え終える頃に、ラックがシルクとクインを伴って戻ってきた。
今いる場所はホームからそこそこ離れた場所にあるのだが、俺がやったことを事前に聞いていたのか、シルクやクインもかなり急いできたようだった。
「これが主様が新しく作った畑ですか」
「そうなるね。どういう風に育つかは今のところ全く分からないけれどね」
「分かりました。とりあえず荒らされることが無いように、人員を配置します。他に必要なものはありますか?」
「どうかな? 初めてのことだからここには出来るだけ俺も来るつもりだけれどね」
「そうですか。わかりました」
クインに何が分かったのか俺には分からなかったのだが、シルクも同じように頷いていたので眷属同士で伝わっていることがあるのだろう。
俺としては目の前にある畑で新しく作った植物がきちんと育ってくれればいいので、彼らがどういう人員を配置するかは全く気にしていない。
それよりもフリーズホークを倒してから手に入れたもので唯一使い道が分かっていなかった『極寒の因子』の使い道が分かって、何となくホッとしていた。
結果として、この種がその名前の通り極地でも育つ植物を次々に開発していくきっかけになるのだが、そのことに俺自身はまだ気づいていなかった。
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