(9)実験の結果
本日(2020/12/27)投稿1話目(1/2)
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ダークエルフたちが土壌開墾や植物成長に類するようなスキルや魔法が使えるようになるかどうかはともかくとして、まずは俺自身が使った魔法の結果を確認する必要がある。
いくら魔法で成長促進しているといっても、結果を確かめるためにはそれなりに時間がかかることは事実だ。
ということで、ひとまず魔法を使ったジャガイモの成長を見守ることになった。
結果として、ジャガイモは予想した通り翌日の同じくらいの時間に収穫できるくらいに成長していた。
収穫したジャガイモは、シンプルに蒸してから塩を振って食べたのだが、振る舞った三人のダークエルフにとても好評だった。
曰く、こんなに美味しいものは食べたことがないと。
その時はさすがに大げさすぎるだろうと笑ったのだが、三人はどうやら本気で言っていたらしい。
こうなってくるとダークエルフの食生活が気になってくるところだが、そもそも食べるだけで精いっぱいだったので味を求めるのは二の次だったのだろうと思い直した。
そんなダークエルフの食事情はともかくとして、ジャガイモが成長する間、ダークエルフ三人組は何もやっていなかったわけではない。
俺が使った二つの魔法のことは勿論のこと、出来上がった土壌のことや成長中のジャガイモもそれぞれの成長段階で色々と分析をしていた。
今ある畑はあくまでも実験のために作ったものなので、食料として考えるのではなく研究のために自由に使っていいと言ってある。
三人は、そのことにはきちんと感謝しつつ、精力的に分析を進めていたようだ。
ただし、いくら分析に使うためとはいえ、収穫したジャガイモのすべてを使うわけではない。
そうして余ったジャガイモを蒸して食べたわけだが、それだけは残りをすべて消費できなかった。
というわけで、残りは三人のダークエルフに確認をとってから里に送ることになった。
一応、実験で作ったものであることだけは念を押してある。
魔法を介して作った食料が食べた後にどんな影響があるのかわからないので、先に食べた三人のダークエルフたちは勿論のこと、里に送ったジャガイモもきちんと理解してから食べるように伝えてある。
何かおかしなものが入っているとは思えないのだが、体の中に直接取り込む以上は、いくら念を押しても押し足りないということは無いだろう。
魔法の研究に関しては、いくつか分かったことはあるもののいきなり使えるようになったわけではない。
というよりも一度使って見せただけで使えるようになるとは、全く考えていなかった。
そのことを伝えると、主に魔法の分析をしているミランが安堵したようにため息をついていた。
「――いくら何でも未知の魔法を立った一日で分析して使えるようになるなんて考えていないから」
「それを聞いて安心いたしました。まだ使えるようにならないのかと言われることも考えていたので……」
「いやいや。そんなこと言うわけないよね!? 里では俺のこと一体どう思われているんだよ?」
「それは……色々です」
「……なんか、一瞬問い詰めたい衝動に襲われたけれど、やめておくね」
ここでミランを責めても仕方ないと考え直した俺に対して、ミランはもう一度ため息をついていた。
流石に恐怖の大魔王的な立ち位置では見れられていない……と思いたいだが、この分だとその可能性もわずかながらにありそうだと内心では頭を抱えていたりする。
とはいえいきなり自分たちを支配する者が現れれば、そういう噂が流されても仕方ないかと思わなくもない。
できればそういう噂は無くしていきたいとは考えているが、こちらから押し付ければ押し付けるほどそういった悪い噂は加速していくだろう。
俺としてできることは、時間が解決するだろうと思って黙っていることしかできない。
そんな俺に対する悪評(?)はともかくとして、ミランをはじめとしたダークエルフたちがあげてきた報告は中々興味深いものがあった。
「――それにしても、たった一日で随分と細かく分析できているね。土壌開墾は以前も使ったからいいとして、植物成長に関してもここまで進むとは思っていなかったよ」
「それはサンプルが多く取れたことと、実は似たような魔法は昔から研究されてきたということがあります」
「あ。そうなんだ。それはそうか。食に関することだから猶更研究は進むよね」
「……主に戦地で現地生産ができないかという目的があって研究されたようですが」
「ああ~。まあ、そういう考え方が入ってくるのは仕方ないか」
魔物との戦闘が常にある世界では、戦いのことが念頭にあって研究などが進むのは致し方のない面がある。
厳しいことを言ってしまえば、戦争の役に立たない技術なんかは軽視されがちになる。
食料生産に関しては、戦争を続けることにおいては重要な課題になってくるので、注目されるのもよくわかる。
ただしミランの話を聞く限りでは、今のところうまくいっているとはいいがたいようなのだが。
「私が知る限りでは少し土が良くなったとか、少しだけ成長が早くなった気がするとかその程度ですが、ある程度の基礎はできている感じでした」
「なるほどね。その魔法を基本にして、俺が使ったものと照らし合わせたわけか」
「そうなります。ただそれらの魔法が役に立つかは、今のところ微妙なところだと考えています」
「というと?」
「そもそもキラ様が使われた魔法は、根本的なところで違っているようなんです。きちんと研究を進めないと言葉にするのは難しいのですが……」
「それは仕方ない。何度も言うようだけれど、そのためにわざわざここまで来てもらっているんだからね」
少なくともこちらの世界の一般的な魔法に詳しいミランがいてくれるだけで、魔法の研究が進むのはありがたい。
植物関係の魔法は恐らく種族由来だろうという認識はあるのだが、それを一般的に使えるように落とし込むのは今後のためにも大切だろう。
特に魔物が闊歩しているような土地では、時間を短縮して野菜などが生産できるようになれば色々な面で助かることになるはずだ。
もっとも今後そういった魔法が役に立つような場面が来るのかは、今のところ未知数なのだが。
「――よし。とりあえず昨日使った魔法に関してはわかった。それじゃあ次はまた別の魔法――というかスキルを試してみるね」
「ま、まだ何かあるのですか!?」
「いや。そんなに引かないでよ。どちらかといえば、俺にとってはこっちがメインなんだけれど?」
「そうですか……」
俺のその言葉を聞いたミランが、なぜか肩を落としていた。
こういったところが俺の悪評を増長させているような気もしなくもないが、それについては気付かなかったフリをしておく。
俺自身のためにもスキルや魔法の確認は必須なことなので、いくら悪く言われる結果になろうが止めることはできない。
何よりもこれから使おうとしている魔法かスキルは、今後のためにも役に立つはずだという確信があるのだ。
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