(8)植物魔法
本日(2020/12/26)投稿2話目(2/2)
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予定外の大きさの畑を作ってしまったが、それは大した問題ではない。
必要であれば、一部を元の環境に戻すことも可能――なんてことをふと思いついてしまった。
「――ああ、そうか。ちゃんとやってみればいいのか」
「何がでしょう?」
ちょうど横にいて土の様子を見ていたレインがそう聞いてきたが、俺は黙ったまま首を振った。
口で説明するよりも実際にやってみたほうが良いと考えたのだ。
思い立ったら即実行――ということで、畑の様子を見ていた他のメンバーに声をかけて集まって貰った。
「ピ?(主、どうしました?)」
「ごめんね。ちょっとやってみたいことができたから集まって貰った」
そう説明してから畑を作った時と同じ魔法を使ってみた。
魔法の基本は同じなのだが、やることは真逆のことになる。
「……ええ!? 畑が元に?」
整地されて畑になっていたところの一部が、以前と同じ自然のままの姿を取り戻すのを見てミランが思わずといった様子で驚いていた。
他の面々も声には出していなかったが、驚いている様子が見て取れた。
「うん。上手くいったみたいだ」
納得した様子で頷く俺を見て、ミランが何とも言えない表情でこちらを見てきた。
以前の里で起こったことを知っているので、聞きたいけれど聞けないという顔をしている。
そのことに気付いた俺は、苦笑しながらミランを見て言った。
「ちゃんと後から説明できることは説明するから、それまでとりあえずは結果だけを確認しようか」
「は、はい……! すみません!」
「いや。謝る必要はないよ。こうなることはわかっていたしね。それに、聞かれた全員に説明するのが面倒だからこうやって集まってもらっているんだし」
そうぶっちゃけた俺に、ミランは頭だけを下げて元の環境に戻った区域を確認しに行った。
皆が畑になっている部分と元に戻った部分を確認している間、俺は次にするべきことを考えていた。
世界樹が進化して出来るようになったことは多いのだが、こうした植物関係で出来るようになったことは特に多いと感じている。
後からきちんと確認して分かったことだが、スキルとして発現されるのは試したことがうまくいってからで、最初から使えるようになる類のものではないらしい。
それこそレベルで新しい魔法やら技が使えるようにならないのと同じ理屈なのだろう。
例えば料理なんかでレベルアップによって『揚げ』のスキルを習得するのではなく、何度か揚げ料理をすることによってスキルを覚える形である。
全てのスキルがそうであるとは限らないのだが、基本的には経験によって覚える経験型のスキル習得になっているということだ。
そのためにも、思いついたことはできる限り試していった方がいいのだろう。
作った畑に関しては既にダークエルフの里で試していることもあって、調査らしきものはすぐに終わった。
俺自身が試したいことがあるといっておいたので、早めに終わらせてくれたというのもあるのだろう。
いずれにしても作業を終えた畑に向かって、また違った魔法を試してみることにした。
といってもこれも種族由来になるらしく、呪文らしきものは思い浮かばなかった。
ただただ畑に向かって、思い描いたとおりに魔力を注ぐだけである。
「ご主人様……?」
畑から手を離した俺を見て魔法の行使が終わったのだと判断したのだろう。
何の変化も起きない畑を見て、アイが不思議そうに首を傾げながらこちらを見てきた。
「ちゃんと魔法は上手くいっているみたいだから、しばらく様子を見ていて。そろそろ結果が……ああ、ほらほら」
俺が説明をしている最中に、畑に魔法の結果が現れてきた。
具体的には、植物の芽がにょきにょきと伸びてきたのだ。
これも通常ではありえないくらいの成長スピードだが、魔法を使ったタイミングで何となくこうなることが予想ができていたので、今後は慌てることはなかった。
勿論、この様子を見ていたダークエルフ三人は、唖然とした様子で見ている。
「ピピッピ、ピ?(中々興味深い魔法ですね。成長促進といったところでしょうか)」
「それだけじゃなくて、種子選択なんかも含まれているね。今回は種じゃなくて種イモになるけれど」
「魔法で種イモまで作り出したのですか?」
「そうなるね。何となくできそうだからやってみたけれど、実際に目の当たりにすると驚くよね」
本来であれば驚くだけで済むような話ではないのだが、敢えて軽い調子でそう言ってみた。
それを聞いたアイやラックは、いつも通りですねといった感じだったのだが、ダークエルフ三人組はそうはいかない。
あり得ないと表情にも書いているし、実際に口に出して問い詰めたいという思いがありありと態度に出ている。
のんびりとこんな話をしている間も、畑に生えている植物(ジャガイモ)が目に見えて成長しているのでそうなるのも当然だろう。
「……ところでご主人様。この作物は一気に成長するのですか?」
「さすがにそれはないと思うよ。……ないよね?」
「私に聞かれても……」
「ピッピ(主、私にも分かりませんからね)」
「だよねー。まあ、大丈夫だよ。一時間やそこらで収穫まで行けるまで育つなんてことは無いはずだから」
魔法を使った時の『手ごたえ』で何となくそう感じただけなので、きちんとした説明ができるわけではない。
それでも何となく感覚的に感じたとこを、そのまま説明しておいた。
その説明だけで納得してくれたのか、眷属二人はそれ以上聞いてくることはなく、成長し続けているジャガイモの芽を見始めた。
ダークエルフ三人組に関しては、俺たちの話を聞いてはいるようだが、それよりも植物の変化から目を離さないように集中しているようだった。
他の人が使った魔法でこんな場面を見させられると同じようになったのはわかっているので、敢えて彼らに声をかけるようなことはしない。
魔法を使った時に感じた『手ごたえ』の通りに、芋の芽の成長はだんだんと緩やかになっていき、五分もしないうちに目に見える変化は終わった。
勿論それ以降も、通常の植物ではありえないくらいの速さで成長をしているはずだ。
俺が言葉でそう説明をすると、レインが恐る恐ると言った様子で聞いてきた。
「――それでは、どれくらいで収穫できるかとかも予想はついているのでしょうか?」
「そうだねえ。早ければ明日の同じくらいの時間には……? 遅くても二、三日中には収穫できるようになるんじゃないかな?」
「そうですか……」
完全に疲れたような表情になって肩を落とすレインに、一応補足として付け加えておく。
「言っておくけれど、この魔法が使えるようになったのは本当につい最近のことだからね。冬の厳しかった時に使えと言われても無理だったよ」
「そんなことは言いません……! そもそもキラ様は、苦しむ私たちに援助をしてくださったではありませんか!」
慌てた様子で手を振るレインに、俺も「そうだね」とだけ返しておいた。
冬の時期のダークエルフは本当に食料を得るだけでも苦労をしていたので、そんなことを言われてもおかしくはないと思っている。
それほどまでに、今使った魔法は画期的すぎる魔法だといえるだろう。
どんな世界でも食というのが大事だということを理解させられた。
だからこそ敢えてこう付け加えておくことも忘れない。
「多分だけれど、この魔法が使えるのは
「そうですか……」
「勿論、効果が落ちた簡易版とかなら使えるようになる可能性はあると思うけれどね。だからこそ君たちにも来て貰っているんだし」
「そう、だといいですね」
「大丈夫大丈夫。魔法を使った時に、恐らくできるようになるんじゃないかなって予感はしたから。あとは努力と時間が解決するんじゃないかな?」
俺がそう言うと、ダークエルフ三人組は希望が見えたという明るい表情になった。
ちなみに今言ったことはただ単に彼らを元気づけるために言ったことではなく、実際にそう感じたからこそ口にしたことだ。
本当に何となくだが、彼らにも『出来る』と感じたのである。
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