(5)新たな仲間?
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
雪解けが終わっているとはいえ、ダークエルフの里からホーム近辺までは人の足で歩くと数日はかかる。
その間に幾つかやっておきたいことはあるのだが、その代表が例のゴブリンたちと会うことだ。
元の予定ではゴブリンたちに来てもらうことになっていたのだが、ダークエルフとの予定が入ったので直接行った方が早いということになった。
一部眷属は、「主(様)自らが……」と渋る者たちもいたが、何気に進化をしてから忙しくなっているのでさっさと済ませられるものは済ませておきたい。
とりあえずゴブリンたちと会う予定は、準眷属がどういった存在であるかを直接確認することだ。
安易に仲間と認めると裏切られたときに面倒なことになりかねないのだが、今は眷属以外にはダークエルフしかいないのだからちょうどいい。
ゴブリンたちの戦力自体は大したことではないというのが分かっているので、結果的に失敗したとしても大きな痛手にはならないはずだ。
そんな幾つかの思惑を持って、ゴブリンたちがいる場所へと向かった。
ゴブリンの住処は新しく領域にしたばかりの北側ではなく、以前から領域化していた南側に存在している。
ゴブリンたちがどこからやってきたのかはわかっていないのだが、住処自体は領土化が終わって世界樹の進化が済んでから確認されていた。
本来であれば領域化している範囲内に魔物が出現していればわかるのだが、ハウスに行っている間に出来たようだ。
しかも報告では住処ができてから一週間も経っていないはずなのだが、既に二十近いゴブリンがいるらしい。
まさしく『湧いて出てきた』ゴブリンたちだが、その程度の規模の魔物の巣であれば最近では割と頻繁に出現している。
ただし出現頻度自体は以前と変わってい無いのだが、その質は進化以前とは明らかに違っているようだった。
現にこれから向かうゴブリンの巣には、ゴブリンナイトの個体が確認されているとのことだった。
ゴブリンナイトがいたとしても眷属たちには敵わないので問題ないのだが、それでも不安要素の一つであることには違いない。
ただ不安要素といっても、眷属どころか子眷属たちで対処できる範囲内なので全く問題はない。
ゴブリンたちが準眷属らしき存在になっているのは確かなのだが、それでも恭順を示してきたのは子眷属たちの強さを理解しているからだと考えている。
下手に逆らって集落全てを失うよりは、どんな扱いになったとしても生き延びたほうが良いと判断したのかもしれない。
ある意味ではまさしく弱肉強食の世界で生きている魔物らしい考えといえるだろう。
――と、そんなことを考えながらゴブリンの拠点へと向かったのだが、そこで予想外の光景に出くわすことになった。
一緒についてきていたルフと同じ速度で空を飛びながら向かうと、拠点の出入り口らしきところで多くのゴブリンたちに出迎えられたのである。
しかも全員が土下座らしき姿で平伏をしていて、知能が低めの魔物の代表格とは思えない統制のとれた姿だった。
恐らく彼らの中でも体格の良い中心らしき場所で平伏しているゴブリンナイトの指示があってのことだろうとは思うのだが、何故彼らがいきなりそんな行動に出ているのかはよくわからない。
驚きが顔に出そうになるのを抑え込みながら、俺は視線を先触れとして来てもらっていたラックへと向けた。
「――これはどういうこと?」
「ピイ(私が指示したものではありませんよ)」
「ということは彼らが独自にしたと? どういうこと?」
疑問と焦りで繰り返し同じ言葉を言ってしまったが、どうやらゴブリンたちにはそのことは気付かれていないようだった。
「ピピッピピッピ(私にも詳しくわかりませんが、主が近づいてい来るのが分かったからではありませんか?)」
「えー……? そんなことでこうなる? まだ仲間と認めていないのに?」
「ピピイ?(認めてないからこそ、ではありませんか?)」
「下手に逆らうと……的な意味で?」
「ピ(そうです)」
「なるほどね~。――とりあえず、楽にしていいよ。あ。言葉は通じているんだよね?」
「ピピ(問題ないはずです)」
俺たちの会話がしっかりと耳に入っていたのか、ゴブリンナイトの個体が恐る恐るといった様子で顔をあげた。
通常のゴブリンとゴブリンナイトではそこまで顔形に変わりはないのだが、受ける印象はやはり段違いだ。
勿論、ゴブリンナイトの視線を受けたからと言って気後れするようなことは無い。
ゴブリンナイト程度の圧であれば、子眷属の中での上位の者たちの方が強いだろう。
だからこそ彼らは無駄な抵抗はせずに恭順することを決めたのだろう。
一目見てそのことを理解できたので、恐らく俺からの言葉を持っているゴブリンナイトに先に声をかけることにした。
「ずっとその態勢はつらいだろうから、まずは立ってもらおうか」
「ハッ!」
できるだけ軽い調子で呼びかけたつもりだったのだが、ゴブリンナイトが軍人のような返答をしてからざっと立ち上がった。
それに合わせるように、後ろにいた他のゴブリンたちも一斉に立ち上がる。
中には足がしびれたのか、よろけている個体を見つけることができたが、追い打ちをかけるつもりはないので見なかったことにしておく。
「えーと、とりあえず、君に話を聞けばいいのかな?」
「ソウ……デス……!」
ゴブリンナイトであっても片言になってしまうのは、種族特性なのか単に練習不足なのかはわからない。
意思疎通のスキルは眷属だけに適応されるのか、傍にいるラックやルフのようにはっきりとした意思を感じ取ることはできていない。
それでもきちんと答えが返ってくるというだけで、今後の話が楽になることだけは確かだ。
まずは代表者とだけで話をして、あとは好きにしてもらっていいと伝えるとゴブリンナイトと両隣にいた別のゴブリン二人を残して、他のゴブリンは散っていった。
中には拠点の外に向かう個体もいたので、恐らく食糧確保か何かに出かけたのだろう。
そんな光景を見守りつつ、ゴブリンナイトからゆっくりと話を聞きとり始めた。
まずは具体的に、どういう経緯でこちら側に与することを決めたのかを聞かなければならない。
そこから分かったのは、そもそもここにいるゴブリンたちは元はもっと南側に拠点を作っていたそうだ。
元の拠点は今よりももっと大きく他にもゴブリンナイトは存在していたのだが、オークとの勢力争いに負けて北に逃げてきたらしい。
具体的な日数を聞けば、ゴブリンたちが逃げてきたのはちょうどフリーズホーク戦の準備を進めていたころで、彼らの侵入に気付けなかったようだ。
そこから数日経って世界樹の進化が起こったわけだが、それに巻き込まれるようにゴブリンたちも世界樹の魔力の影響を受けるようになったそうだ。
彼らが世界樹から受けている影響というのはいまいちはっきりしなかったのだが、少なくとも魔力に関しては以前よりも増えているらしい。
以前は魔法を使えなかった個体が軽い魔法なら使えるようになったように、はっきりとした変化が見られたようだ。
今、分体である俺が目の前に来たことで、そのことははっきりと意識できるようになったということだった。
それらの話から考えれば、彼らが世界樹の魔力の影響を間違いなく受けているのはほぼ間違いないと断言してもいいだろう。
そしてそのことは、話を聞いて彼らに向かって「仲間と認める」と言ったことではっきりすることになる。
フリーズホーク戦以来のメッセージが流れてきたのだ。
『初めて準眷属の存在が認められました。ステータス画面をご覧ください』
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます