(4)新しい魔法

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「ここら辺は大丈夫かな?」

「そうですなあ。特に問題ありませんぞ」

 ダークエルフたちに体が大きくなっていることを驚かれた後、俺たちは里の端に位置する場所に来ていた。

 ここは今後畑を拡張する予定になっている場所で、実験するにはちょうどいいだろうと案内されたのだ。

 もし実験が失敗したとしても、全く草木が育たないようなことにはならないと説明したらここへ連れてこられた。

 

 どんな実験をしようとしているのかといえば、新たに覚えた種族魔法(?)で畑を作ることができるのではないかということを調べに来たのである。

 なんで一度も使っていないのに畑ができると分かるのかといえば、これに関しては「そういうものだから」としか説明のしようがない。

 進化してから分体生成を行って魔法のことを考えたら、そういう魔法が使えるようになっていると「本能的に」思い浮かんできたのだ。

 他にも本能的に理解できた魔法はあるのだが、まずは畑ができる魔法を試してみようというわけだ。

 

 ――というわけで、ルフとクイン、それと複数のダークエルフに見守られながら呪文を唱えた。

「えーと……『我が願いに応え、かの地を肥沃な土地へと変えたまえ。土壌開墾』…………おっと!?」

 締めの呪文を唱えた瞬間、目の前の土地がしっかりと開墾されたような土壌に変わっていた。

 思わず驚きの声をあげてしまったのは、一気に風景が変わったからだけではなく予想以上の広さが開墾されてしまったからだ。

「あ~。ごめん。少し広すぎになっちゃった」

「い、いえ、それはいいのですが……今のは、どんな魔法でしょうか?」

「土壌開墾っていって、土地を畑に作り替える魔法なんだけれど……見たことない?」

「ありませんな」

 きっぱりとそう断言してきた農家ダークエルフに、俺は「そうなんだ」としか返せなかった。

 

 そのダークエルフはどういうことなんだという視線を向けてきているが、俺としてもそういう魔法があるとしか説明のしようがない。

 ほぼ本能(?)に従って使った魔法なので、他でそういった魔法があるのかどうかもよくわかっていないのだ。

 ただ使った魔法の効果がどういったものなのかは説明できるので、きちんと説明しておいた。

 説明といっても、普通に畑として使えるように土地の土壌を改良したとしか説明のしようがないのだが。

 

 あ~、いや、ダークエルフさん、もっと具体的に教えてほしいといわれても、正直なところ分かりません。

 そんなことを考えていたのが伝わったのか、傍でやり取りを見守っていたクインが助け舟を出してくれた。

「そこまでにしてください。主様にとってこの魔法を使えるのは自然なこと。あなたもどうやって呼吸しているのか、詳しく説明を求められても困るでしょう?」

「それは、そうなんだが……」

「今はそういう魔法があると分かっただけでいいではありませんか。あとは研究なりなんなりをして使えるようになればいいだけです」

 クインがそうきっぱりと言い切ると、そのダークエルフもそれ以上は何も言ってこなかった。

 もしかするとクインの視線から『これ以上グダグダ言うと……』という意図を感じ取ったのかもしれない。

 

 俺としてもクインとしてもこんなことでダークエルフを責めるつもりはないのだが、ある意味上位の存在と認識されている立場なので、そう取られても仕方ない面はある。

 それにそもそも個人が開発した魔法の秘密を探るのは、マナー違反という面もある。

 魔法に長けているとされているエルフ種がそんなことを知らないとは思えないが、それだけ新たな土地の開墾がこの里にとっては急務だということだ。

 そのことが分かっているので、俺もクインも問い詰めるような姿勢になっていたダークエルフをこれ以上追いつめるつもりはない。

 クインの視線で黙らされたそのダークエルフも、ようやく自分がしていたことを自覚できたのか、少しばかり焦った表情になっていた。

 一応反省する様子も見せているので、俺としてはこれ以上どうこうするつもりはなかった。

 

 俺のその意図を感じ取ったのか、クインがダークエルフから視線を外しながら聞いてきた。

「実験は成功されたようですが、この後はどうされますか?」

「そうだね。一応長にも説明しておかないといけないだろうし、まずはそっちに顔を出すか」

 本当であればもう少し試してみたいこともあったのだが、さすがにこれ以上続けるのは無理と判断した。

「畏まりました。それでは長老の家に向かいましょうか」

 クインがそう宣言すると、これまで伏せた状態でやり取りを見守っていたルフが立ち上がって歩き出すのであった。

 

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 長老宅についた俺たちは、さっそく先ほどの話をしておいた。

 すると話を聞き終えた長老は、渋面を作りながらいつにない声で謝罪をしてきた。

「それは、申し訳ないことをいたしました。あやつにはしっかりと言い聞かせておきます」

「まあ、ほどほどにね。不用意に新しい魔法を試したのも悪かったから……」

「いや。世界樹様が魔法を試すことはわかっておったはず。その上で斯様な態度をとったのですから、それなりの罰は必要になります」

「あ~。その辺は里のルールに従ってやって。こっちから干渉するつもりはないから。――ああ、できればあまり重くない方がいいかな。こっちも一般のルールを知らなかったということにして」

「……さようでございますか。世界樹様の寛容に感謝を」

「寛容というか、こっちが知らなかったことも事実だからね。まあ、お相子ってことで」

 改めてそう宣言すると、長老は無言のまま頭を下げてきた。

 たとえ一部であっても、変なところでダークエルフの恨みを買いたくはないという意図はしっかりと通じたようだ。

 

 それよりも今の俺には、あのダークエルフがやらかしたことよりも気になっていることがあるので、そちらの問題を話すことにした。

「それで長老に相談なんだけれど、信用のできる者を数人貸してくれないかな?」

「それはいいのですが、何かございましたか?」

「実はさっき使った魔法には続き――のような魔法ものがあってね。実験を含めてやってみたいんだよ。俺は別にこの魔法を秘匿するつもりはないから、研究員とか作業員としていたらいいかなってね」

「……ふむ。なるほど。それは重要ですな。ですが、よろしいので……?」

「構わないよ。むしろ他の種族が使えるのかどうかきちんと知りたいという欲求のほうが強いかな。そもそも俺自身は畑が作れる魔法があっても、今のところあまり意味はないし」

「畏まりました。では何人か向かわせるようにしましょう。時期が時期ですので、あまり人数は出せませんが……」

「さっきも言ったとおりに数人程度でいいよ。俺も実験ばかりに時間をかけていられないし」

「そのことは、よく言い含めておきます。それに……この件に関しては眷属の皆様のほうが厳しそうだということも」

「ハハハ。それは間違いないね。俺はどうにもその辺の感覚は、ずれているみたいだから」

 そう笑いながら言った俺に、長老は深々と頭を下げてきた。

 先ほどの件はこれで終わりだという意味で言った俺の意図を、しっかりとくみ取ってくれたようだった。

 

 この後、ホームまで来てくれるダークエルフについては、数日中に決めるということで話がついた。

 きちんとした結果が出るかどうかも分からないので、人数も俺が頼んだとおりに二~三人程度で収めてくれると確約してくれた。

 そしてその約束通りに、三日後には三人のダークエルフが里からホームに向けて出発することになるのであった。




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