(9)激しい戦い

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「戦闘開始!」


 俺がそう宣言をしてからほんのわずかな時間――コンマ何秒という時間の間で動いたのは、眷属のうちの誰かではなくフリーズホークだった。

 恐らく俺たちの姿を見て敵だと認識した瞬間のことだろうが、ほとんど予備動作もなく大口を開けて氷と雪が混じったブレスをはいてきたのだ。

 暴風雪というのも何度も経験してきた俺でも体感したことのないような雪と氷が入り混じった凄まじいまでの風の嵐が、俺を中心とした眷属たちに襲ってきた。

 恐らくまともに喰らっていれば、寒さで体温が一気に落ちてあっという間に凍り付いたであろう攻撃。

 だがそんな攻撃が俺たちのところまで直接来ることは無かった。


「ファイ、ナイス!」

「ガウ!(任せろ!)」


 ファイの張った防御壁というか、炎の壁がフリーズホークの放ったブレスを見事に防いでいたのだ。

 そのファイは、ブレスを防いだと確信したのと同時に相手に向かって駆けだしている。

 

 相手はホークと名の付くだけにしっかりと五メートル上空にいたのだが、ファイにとってはその程度の高さは大したものではなかったらしく、お構いなしにジャンプをしてその凶暴な腕を届かせた。

 本来であれば爪で引っかいたりするのだろうが、まずは相手を地面に落とすことを主目的としたらしく傷を負わせることよりも翼なりにダメージを負わせることを優先したようだ。

 だが残念ながらその目的は半分だけ達成して、半分は失敗したといえる。

 当たり前だがファイが迫ってきていることに気付いたフリーズホークは、スッと身を避け――ようとしたところで、いつの間にか迫っていたルフの攻撃を食らうことになったのだ。

 そのルフの攻撃は翼を傷つけるところまでは行かなかったが、狙って体当たりができたことで体自体にはダメージを負わせることができていた。

 その結果フリーズホークは、先ほどまでの力強い羽ばたきではなく、どうにか空に浮かんでいられるという状態になっている。

 

 ただそれだけで終わらなかったのは、流石の中ボスといったところだろうか。

 ファイとルフの連携の隙をついて、今度はフリーズホークが魔法で作った氷の刃を各個人に向けて放ってきた。

 最初に放ったブレスとは違って全体に向けた攻撃というわけではなかったのだが、それでも強力な攻撃であることには違いない。

 それぞれがその刃に対処している間に、フリーズホークも先ほどルフから受けた攻撃からある程度回復することができたようだった。

 

 ――と思いきや、空を支配しているのは何もフリーズホークだけではない。

 こちらにも空を自由に飛べるラックがいるのだ。

 そのラックは、フリーズホークが放った氷の刃を難なく躱してさらに上空へと移動していた。

 その間もファイ、ルフ、ミアによる直接攻撃と、アイ、シルク、クインの間接・遠距離攻撃は続いている。

 ラックを除いた六人による攻撃は、さすがのフリーズホークも躱すだけで精一杯のようで、こちらに向けて攻撃してくることはできていなかった。

 

 その間により上空に移動していたラックは、自重による落下速度とそれに加えた風魔法による後押しで音速に近いのではないかと思えるような速度を出してフリーズホークの背後からその首筋に向けて一直線に攻撃をしてきた。

 だがフリーズホークもその動きには気付いていたのか、僅かに身をかわしてまともに喰らうようなことは無かった。

 それでも不意打ちに近いラックの攻撃は、しっかりとフリーズホークの身にダメージを残すことになる。

 完全に躱すことができなかったラックの攻撃により、翼の一部に大きな傷跡が残ることとなったのだ。

 

 ただ最初は血が出ていたのだが、一瞬で治してしまったのは流石というべきだろうか。

 その治療も完全に治すということまでにはいたらなかったらしく、完全に上空にとどまっていることは難しくなったようで、先ほどまでとは違って頻繁に上下に動くようになっている。

 その姿は、翼の存在によって浮く位置を調整できていたのが難しくなって、物理的な羽ばたきによって上空にいることを維持しているように見えた。

 フリーズホークも自身が空にいるという優位性を理解しているのか、中々地面に降りてこなかった。

 

 とはいえ翼による物理的な対空の維持は体力を使うのか、さすがにその頻度にも陰りが見えてきた。

 その間も絶え間なく続いている眷属たちの攻撃を躱し続けていることも、体力の減少をより早く招く結果になっているのだろう。

 一応こちらに向けて主に氷関係の魔法を放ってきているのだが、その頻度は初期のころに比べれば見る影もない。

 その姿をみて頃合いだと判断した俺は、フリーズホークがこれまでで最も下の位置にまで下がってきたところで、とっておきの魔法を使った。

 

 ただし「とっておき」といっても、新しく強力な魔法を覚えたというわけではない。

 自分に対してではなく相手に向けて使う魔法で最初に覚えた最も使い慣れた魔法。そう、「枝根動可」を使ったのだ。

 枝根動可の魔法を使って複数の根をフリーズホークに向けて操作した俺は、その体を縛りつけることに成功した。

 これまでの攻撃で食らったダメージによる動きの制限と、初見で根が動く攻撃を躱すことは不可能だったらしく意外にあっさりと捕まえることができてしまった。

 さすがにこれは俺としても予想外だったのだが、うまくいった以上は文句を言うつもりは全くない。

 

 根によって縛り付けられて動けなくなったといっても、フリーズホークの攻撃がやんだというわけではない。

 ブレスをはじめとした魔法による攻撃はまだ残っているのだ。

 むしろ防御を捨てることによって攻撃に集中することになった分、より激しさを増したとさえいえるだろう。

 勿論その攻撃は、捨て身によるものなのだが。

 それでも攻撃を食らう俺たちにとっては、簡単に防げるようなものではなかった。

 

 とはいえその攻撃を防いでいるだけで、終わるわけではない。

 むしろここからが本番と言わんばかりに、新たな攻撃がフリーズホークを襲うことになる。

 その攻撃は眷属たちによるものではなく、事前準備によって用意された罠を使っての攻撃だった。

 具体的いえば、設置型の投石器のようなものを使って子眷属たちがフリーズホークに向かって大きめの石を投石し始めたのだ。

 

 放たれている石は特に魔法の属性などは持っていないただの石だが、木の根によって縛り付けられているフリーズホークにとっては躱すことのできない攻撃となる。

 その結果、どうにか根による縛りから抜け出そうとする動きも徐々に弱くなっていった。

 それに合わせてこちらに向けいた攻撃の手数もだんだんと少なくなっていった。

 明らかに戦闘の終焉に向かっていると分かってはいたが、それでも手を緩めるようなことはしない。

 一瞬の油断が戦況をひっくり返すような相手だということを、皆が理解していた。

 

 投石による攻撃が始まって数分が経った頃。

 ついにフリーズホークが「ギャアアアアアァァァ」と弱弱しい声を上げることになった。

 その後は、根に絡め捕られていた翼も動くことは無くなっていた。

 いつでも攻撃に対応できるように警戒しつつルフがソロリソロリと近づいていき、最後にはフリーズホークが完全に息絶えていることを確認していた。

 そのルフが俺に向かって喜び勇んで駆け寄ってくる姿を見て、ようやく全体に向けて宣言を出すことになる。

 

「俺たちの勝利だ!」

 その宣言と共に、沈黙しつつこちらをうかがっていた眷属、子眷属たちはそれぞれ思い思いの雄たけびをその場で上げるのであった。




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