(8)事前準備
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ファイが戻ってくるまでの間、少しばかりハウスに戻ってとある相談をすることにした。
その相談というのは、『こんなメッセージが出ていて嫌な予感がするけれど、間違っていないですよね?』というものだ。
あまりにも具体性に欠けている内容だが、幸いにも掲示板ではそうした相談が多くなっているので、深く突っ込まれることはない。
プレイヤーは間違いなく運営(主に上司)に振り回されている側なので、目新しい情報がなくなってきている最近ではそうした相談がメインになっている。
かくゆう俺自身もそうした相談にちょっとした答えを提示したりすることもあるので、いきなり拒絶されることはないだろうと考えて投稿してみた。
すると返ってきたのは、ある意味予想通りの内容だった。
その答えでほぼ一致しているのは、『その予感。間違っていない』というものだった。
付け加えると、領土化すると間違いなくボスが出てくるんじゃないかという意見もぽつぽつと上がっていた。
というよりも、一度その意見が流れるとあとはここの運営ならやりかねないという意見のほうが多くなっていった。
ここまでくると、敢えて無視していた事柄から逃れられないのだろうと流石に諦めもついた。
あのメッセージを見てからやけに慎重に行動していたのは、掲示板諸君が言ってきたとおりにボスが出てくるのではないかと懸念していたからだ。
もっというとこれまで討伐してきたようなエリアボスではなく、もっと大きな領域――まさしく領土を統括できるような力を持ったボスである。
エリアボスを小ボスとするならば、そのボスは中ボスと呼んでもいいような存在になるはずだ。
ここで敢えて大ボスといわないのは、
というよりもここで大ボスが出てきてしまうと、北海道全域とか日本全域とかを領土化した時にはどうなるのかというメタ的思考もあったりする。
いずれにしてももし掲示板諸君の予想通りにボスが出てくるとすれば、それはこれまでとは違った強さのボスになるはずだ。
掲示板でも既にその予想はされていて、逆に応援されるところまで来てしまった。
さすがにここまでされて、逃げるわけにはいかないし、最初から逃げるつもりはないのだが。
そのためにも眷属たちには、罠も含めて様々な準備を進めてもらっている。
そういう意味では、ファイが戻ってくるまでの時間があったのはちょうどよかったともいえるだろう。
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俺がハウスに戻って掲示板でコソコソと(?)相談している間に、ファイはホームまで戻ってきていた。
そこで改めて集まって貰った全員に、今までにない強力なボスが出てくる可能性がることを説明した。
ここ最近の俺の様子からそのことを予想していたのか、意外にも眷属たちは特に驚く様子を見せることなく普通の状態で話を聞いていた。
ごく一部――特にファイ――は、格上と戦えるかもしれないということで、静かに興奮しているようだったが。
表立って騒いでいないのは、基本的に『命大事に』を信条としている俺のことを考えてのことだろう。
ということで、メッセージに従って領土化をするよりも先に、できる限りの準備を進めることにした。
これまでの準備を継続するという形にはなるのだが、明確な目標が示されればそれに合わせて行動できるというメリットがある。
ここまでしたうえで中ボスが出てこないなんてことがあれば笑い者になってしまうが、それはそれで問題はない。
石橋をたたいて渡る――ではないが、俺自身がそういう考えで行動しているということが眷属たちに伝わってくれればそれでいい。
もっとも眷属たちは既にそのことを察しているようで、以前からそれに即した行動をとっているように見受けられるのだが。
とにかく戦いの準備は着々と進んで、いよいよ今できる準備は終えたというところまで進めることができた。
時間をかければもっと強固な罠なども用意できるだろうが、そこまで大掛かりなものを用意すると週・月単位での日数がかかることになる。
そこまで時間をかけてしまうと、それであれば素直に領域を順々に平定していったほうがいいのでは――ということになってしまう。
それだとこれまでの準備が意味をなさなくなってしまうので、そんな無駄なことをするつもりはない。
罠設置なんか含めて戦いの場所に決めたのは、世界樹本体から十キロほど離れた場所にある適当な森林がある領域内ということになった。
出てくると予想されるボスがどんな相手になるか分からない以上、どこで戦えばいいかを決めるのは難しいのだが、眷属たちの能力を考えた時に平原よりは森の方がいいだろうということになった。
特に木々が生い茂っている場所だと逃げやすく、相手もこちらを探しづらくなるという目論見もある。
他にも蜘蛛の罠を作るのには森があったほうがいいとか、蜂に関しても似たようなものだという意見があったことも森林を選らんだ理由になっている。
ここまで進めておいてボスがランダム出現になるなんてことになったら目も当てられないのだが、そこに関しては心配していない。
――というよりも、一度試しにステータス画面から領土化を選択しようとした際に、ボスを出す場所を選択する案内が出てきたのだ。
これ幸いとそのシステムを利用して、これ見よがしに罠の用意などを進めたという経緯もある。
なんとも
それどころか、ありがたく利用させてもらうことにした。
ゲームシステム的にここまでのお膳立てをされて負けるというのは、できれば考えたくはない。
これで負けるような相手が出て来た場合は、素直に負けを認めるしかないだろう。
そう考えられるだけの準備を進めたと自負している俺は、既に周りに揃っている眷属、子眷属たちを見ながら宣言した。
「もう解放するぞ? ――各々、準備はいいな?」
「「「「「(応!!)」」」」」
それぞれの発する音は違ったが返ってきた意味は全て同じで、それ故に眷属たちの気合の高さも十分すぎるほどに伝わってきた。
その眷属たちの反応を手ごたえに感じつつ、おれはステータス画面を操作しながらボスを出現させる場所を目の前にある森林地域に指定した。
その後すぐに確認を求めるメッセージが出てきたが、ためらうことなく『ハイ(yes)』を選択する。
するとその選択を行った直後、あからさまに普段では起こりえないような変化が目の前の森林上空で起こった。
もう少し具体的にいえば、ごく普通の森の上に今まで見たことがない巨大な魔法陣のようなものが現れたのだ。
その魔法陣から漏れてくる魔力だけで、よほどの大きな魔法が使われていることがわかった。
そしてこれまでの経緯からもその魔法陣が何かを召喚するためのものだということも。
何が起こってもいいように前後左右に控えている眷属たちもそれが分かっているのか、一見美しいとさえ見える魔法陣に見とれることなく戦闘態勢を取り続けていた。
そして、魔法陣の出現は一分もあるかないか程度で終わり、それが消えた後には今までいなかったはずの存在が現れていた。
その存在は名前でいえばフリーズホーク。
基本は鷹のような姿かたちになっているが、大きさは普通の鷹の倍以上もある。
それだけではなく、名前の通り翼が湖の氷を思わせるような青白い光沢を放っていた。
出てきたのはたった一体であったが、その巨体から放たれている存在感からは間違いなくこれまでのエリアボスとは一線を画しているということはわかった。
相手からの威圧を感じつつ、俺は眷属たちの様子をそっと伺った。
その眷属たちは、明らかに格上の相手に対して変に緊張するでもなく、それどころかわずかに自信さえ持っているように見えた。
それを確認した俺は、こちらの存在を認めた相手が動き始めるのとほぼ同時に声をかけた。
「戦闘開始!」
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