(6)複数領域の主
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眷属を含めて戦力が確実に増大していく中で、領域の拡大も順調に進んでいる。
ダークエルフの里を抑えたあとはその周辺領域も取り込んでいき、既に留萌辺りだと思われる領域もエリアボスの討伐が終わっている。
もちろん正確な地図があるわけではないので絶対だとは言えないのだが、里の方角からみてもほぼ間違いないだろうと考えている。
現在の領域的には、世界樹周辺(大雪山系)を中心に北東と北西に線を伸ばして、そこから北の方角に向かって領域を拡大していっている。
このまま北方面に向かって領域を広げていくという方針は変えていない。
どうせだったら一方面だけでも後ろをつかれる心配がないという状態にしておきたいのだ。
それにダークエルフからの情報で、恐らくだが人里らしきものもないだろうという予想もある。
先住民がいるのであれば話は別だが、そもそもそう言った存在が過去にいたという話もないので、恐らくいないだろうと思われる。
領域拡大――というよりもエリアボスの討伐は、今のところファイが率先して行っている。
もともとが戦闘種だということもあるのだろうが、こと戦いにおいてはファイが一番優れているからというのが大きな理由の一つだ。
ルフのように子供をつくるという気もないようで、戦闘に割ける時間が他の眷属よりも多いということもある。
だからといって眷属の中で一番偉いというような勘違いをしていないところが不思議なのだが、やはり世界樹の魔力を多く取り込んでいるというアイの存在が大きいということだろう。
そのファイと領域制圧後の安定を図ってくれている子眷属たちの存在のお陰で、エリアボス討伐後の領域の安定は今のところうまくいっている。
領域が増えてきた分、領域内に出現する魔物も増えているのだが、子眷属たちが問題なく討伐しているのだ。
時折俺自身も討伐に参加していたりするのだが、完全におまけか気まぐれ扱いにされている。
世界樹が進化するかどうかは今のところ不明だが、戦闘が必要になることは本能的に分かっているのかそれについて苦言を言ってきたりする眷属はいない。
そんなこんなで北方面に領域の拡大を邁進している毎日だったが、ついに嬉しくない報告を受け取ることになった。
その報告を持ってきたのは、領域外の探索を担当しているラックとその探索に付き合っていたファイだった。
「ガウ(主、戻ってきたぜ)」
「ああ、意外に早かったのかな? それで、どうだった?」
「ガウガウ(前にラックが言っていた通りほぼ間違いないだろうな)」
何の話をしているかといえば、最近見つけたエリアボスが他のエリアボスと比べて明らかに格が違う相手で、それを不思議に思ったラックが色々と調査を進めていた。
その結果そのエリアボスは、これまでのように大体同じ大きさだった一領域分ではなく複数のエリアを統治しているらしいと推測されたのだ。
その報告を持ってきたラックに、ファイと一緒にそのエリアボスの強さを確認してきてほしいと頼んだ結果が先の報告だった。
「そうか。拡張が楽になったと喜ぶべきか、倒すべき相手が強くなったと嘆くべきか……微妙なところだね」
「ピイ(強くなったといっても、複数でことに当たれば問題なさそうですが)」
「一領域として考えればそれはそうなんだけれどね。全体でみるとどうかな?」
「ガウ?(どういうことだ?)」
「ピピッピ。ピイピイ(簡単なことです。複数の領域分を支配しているエリアボスは今後も出てくるかもしれない。主様が懸念しているのはそういことです)」
「ガ(なるほどな)」
「そういうことだね。ついでに言うと、俺たちが北方面にかまけている間に、他の東とか南では同じように拡大している領域主がいるかもしれない」
「ピピー(私たちのように、ですね)」
「ガウガガ(それは面倒だな)」
ちなみに西を含めていないのは、札幌と函館辺りに人が住んでいるということがダークエルフからの情報でわかっているからだ。
人里があるということは周辺の魔物の討伐も行われていて、そこまで強大なエリアボスはいないだろうと予想している。
ただそのダークエルフも五年の間は他との交流をしていなかったので、その間に状況が変わっている可能性はある。
だからといって北方面を先に潰すという方針は変わらないのだが。
「――先のことはこれからも考えていくとして、とりあえずそのボスを倒す分には問題ないんだよね?」
「ガウ(問題ないぜ)」
「ピピ、ピィ(戦力を揃える必要はありますが、それ以外は問題ないでしょう)」
「そう。だったらとりあえずそのエリアボスをつぶしてしまおうか。複数領域を持っている
ラックとファイの答えを聞いた俺は、特に気負うことなくそう言った。
こと戦闘に関しては、眷属たちの言い分には全幅の信頼を置いている。
とはいえ、ここまで厳しい戦いということもあまりしてこなかったことまであって、絶対に間違いがないと考えているわけではない。
駄目なら駄目で、しっかりと判断して逃げてくれるだろうという意味を含めての信頼だ。
当該のエリアボスの討伐については完全に眷属たちに任せて、あとはその準備を待って命令を下すだけになる。
これもまた、今までのエリアボス討伐と何ら変わることがない流れの一つだ。
少し変わっているのは、討伐に行くのが眷属一人(か二人)と子眷属複数ではなく、眷属が五人いるということだろうか。
ファイとしては二人いれば十分ということだったのだが、今後のことも考えて複数領域のエリアボスがどんなものかを体感する意味でも最大戦力で向かうことにしたらしい。
というわけで彼らが出発するのを見送ってあとは結果の報告を待つばかりということになったのだが、その報告が届くまでには何日かかかった。
そもそもホームの位置から該当する位置まで到達するのにも数日かかるので、結果が出てから報告が届くまでに時間がかかるのは仕方のないことだ。
そのあたりはここ最近の悩みでもあって、できることなら遠距離通話ができる方法を確定したいところなのだが、いかんせん今のところいい方法は思いついていない。
ハウスでそういった魔道具が買えないかと安易に考えたこともあったが、残念ながらそんな便利な道具は置いていなかった。
子育て中のミアと護衛役として残っているシルクを相手に適当に時間をつぶしている――わけではなく魔法の練習なんかをして待っていると、ついにその報告が届いた。
先触れで子眷属の誰かを出すよりも早いと判断したのか、その報告を持ってきたのはラックだった。
「ラック、お帰り」
「ピッピピ(ただいま戻りました、主様。それで討伐自体は、特に問題なく終わりました)」
「あら。随分とあっさりだね」
「ピピ(実際、そこまで苦労はしませんでしたから)」
「あれ、そうなんだ。複数領域の主だからと思っていたけれど、過剰戦力だった?」
「ピイピ(そうですね。あまりにあっけなく終わって、ファイなどは拍子抜けしていたようです)」
「ラックらしい……と言いたいところだけれど、問題もあるかな?」
「ピ?(と、おっしゃいますと?)」
「戦力が少なすぎるのが問題になるのは当然として、多すぎるのもそれはそれで問題だからね。今回は敢えて送ったというのもあるけれど、今後はできれば少なくしておきたいな」
「ピピ(相手を見る目も必要ということですか)」
「だね。正確な戦力把握は、それこそ探索時に要求されるからね。頼んだよ」
「ピ(畏まりました)」
現在領域外の探索をメインに行っているのは間違いなくラックなので、敢えてそう念を押しておくのであった。
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