(5)メモ帳と魔石の扱い
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ハウスに戻って掲示板で「狼の人」に呼びかけてみたが、残念ながら冒険に出ているのかすぐの応答はなかった。
こういう時に役に立つのがメモ帳機能で、掲示板をいつまでも占有しないために個人間のやり取りをするときには重宝されている。
掲示板で呼びかけてもすぐに応答がない時にはメモ帳に質問などを書いておき、メールみたいなやり取りができる。
その方法を見つけた当初は「そんな使い方に意味あるのか」という突っ込みが幾つか見られたのだが、今では無駄な掲示板利用が減ったと喜んでいる者のほうが多そうだ。
そんなメモ帳に狼の子育てについての問いかけを残してからしばらくして、狼の人からの返信があった。
余談だが、掲示板もそうだがメモ帳で名前を記すときには、なぜか別名を使うことができなくなっている。
別の名前で書きこんだとしても自動で掲示板名に変わってしまうという(無駄なところで)高機能を誇っている。
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木の人:質問。狼(特に魔狼)の子育てについて。
生まれてひと月も経つか経たないかで魔物に突っ込ませるのは、
普通でしょうか?
狼の人:んなわけあるか!
スライム相手とかならともかく、わざわざ聞いてくるってことは、
違うんだろう?
俺が知る限り、それくらいの子だったら精々完全に息の根が止まっ
ている相手をガジガジする(させる)くらいだ。
木の人:やっぱりそうなんですね。
……はあ。どうしたものか。
狼の人:こんな質問をしてくるってことは、実際にやっているところを
見たということか?
木の人:そういうことですね。
具体的には眷属の狼夫婦が。
狼の人:そうか。だったら↑みたいな回答しておいてなんだが、放置して
おいた方がいいぞ?
魔狼は特に子育てについては本能に近い部分でやっているみたい
だからな。
理屈じゃなくやっているってことは何かの意味があるんだろうさ。
子狼が傷だらけになるまで追い込んでいるとかじゃなければ、放っ
ておいたほうがいいだろうな。
それに狼は犬に気質が近いのか、主人がいるとほぼ絶対服従に近く
なるから木の人が指示すると委縮してしまって出来の悪い子ができ
る可能性もある。
まあ、参考までに。
木の人:そうなんですか。それは確かに注意の仕方にも気を付けないとですね。
とりあえず様子見してみます。ありがとうございました。
狼の人:いんや。こっちも面白い(面白くなくても)進化とかあったら教えて
くれると助かる。
そっちの眷属は何歩か先に進んでいるみたいだからな。
子供の情報も。
木の人:分かりました。
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と、狼の人とこんなやり取りがあったので、今はルフとミアのやりたいように任せている。
ただ狼の人の助言で俺から注意すると面倒なことになりそうなので、何かあった場合にはほかの眷属たちからそれとなく話すようにしている。
もっとも他の眷属も基本的には狼夫婦と同じような考え方のようなので、滅多に注意まで行くことはないようだ。
俺も毎日のように子狼の様子は見ているので、変な動き(怪我)をしていない限りは注意するつもりはない。
子狼たちも親に甘え切っているので、行き過ぎた躾ということではないのだろう。
今も元気に走り回っている子狼たちを見ながら、俺はラックとクインを相手に魔石についての話を聞いていた。
「――ということは、やっぱりある程度の強化が進まないといくら魔石を取り込んでも進化はしないというわけか」
「ピッピ(そうです)」
「正確にいえば、取り込もうとしても体が受け付けないと言った方が正解でしょうか。無理に取り込むこともできなくはないでしょうが……」
「却下。無理したら絶対にろくなことにならないだろうしね」
「私もそう思います」
それは、魔石を使えば進化するということはわかっているので、多少余裕の出てきた魔石の幾つかを渡して試してもらっていた――というよりも試したいという申し出があった――結果の報告だった。
結論からいえば、早々簡単に進化をするというわけではなく、魔石を取り込むための前準備のようなものが必要なのではないかということだ。
魔石から得られる膨大なエネルギーを使って進化をすると考えれば、そのエネルギーを受け入れるための器をしっかりと用意しておかないといけないというわけだろう。
その表現が正しいかのかはわからないが、それがそのことを指摘するとラックとクインはしっくりくると納得していた。
少なくとも魔石の取り込みについては最後の手段というわけで、普段はやはり魔物の討伐などが大事になってくるということだろう。
「それじゃあ進化用の魔石については、今渡している分だけで十分といことでいいかな?」
「ピ(よろしいかと)」
「そうですね。もし足りなければ足りないと、本人から申告させるようにします。感覚的なものですが、どうやらどれくらいの量が必要なのか、直感的に分かりそうですから」
「そうなんだ。それは便利だね――」
「――それで、子眷属たちの分はどうする?」
「それですが、今のところ不足はありません。ただ、もし今後領域の拡張速度を上げるおつもりでしたら、もう少し増やしていただけると対応可能かと思います」
「ああ、そういう考え方もできるのか。でも変に増やし過ぎると食料とか大丈夫?」
「今は春ですからよほどのことがない限りは大丈夫でしょう。冬になるまでに増やした分の領域を確保しておけばいいのです」
「あー……なんか。自転車操業的な考え方な気もするなあ……」
「ジテンシャ……?」
「いや、なんでもない。確かに、スピードを上げるにはそういうやり方もできるか。でも、確実に領域を手に入れられるとは限らないんだよなあ……」
「探索についてもノウハウができて、よほどのことがない限りは失敗することもなくなっています。というよりも、失敗しそうな相手こそファイとか私たちを向かわせればいいと思うのですが?」
「それもその通りだねえ……。とりあえず、北方面については今以上にスピードを上げてみるということで……あ。アイの罠設置は間に合うのかな?」
「最近は以前のように設置まで行っているわけではないので大丈夫でしょうが、聞いてみたほうがいいでしょうね」
「あれ? アイが設置しているわけじゃないんだ」
「今はダークエルフの手もありますからね。里周辺に設置した時に覚えたようで、今では狩りのついでに、領域内に設置していっているようです」
「それは知らなかった。今度お礼をしておかないと」
「そうしてください。ただ彼らも返しきれない恩を返す一環だと言っていますが」
「恩か。それはありがたいけれど、いつまでもそれに頼っていたら駄目だよねえ」
「ピッピ(確かに)」
今は世界樹を崇める勢いの長老の存在もあってどこまでも好意的なダークエルフだが、何十年先もそうであるとは限らない。
そうならないように努力なり成長なりを続けていくつもりではあるが、そのバランスが絶対に崩壊しないわけではないだろう。
そのためにも、今できることはできる限り進めておく。
そう考えると、やはり領域の拡張は前提条件として必須事項なようである。
そのあたりのかじ取りは俺自身に任せられているので、今後も慎重かつ大胆に進める必要があるだろう。
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