(4)子眷属の生産

本日(2020/12/13)投稿2話目(2/2)


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 とりあえずダークエルフの里は、マイナスの状態からプラスに転じるまでは大きな冒険をさせるつもりはない。

 今年の米が収穫できることと今育てている農作物たちが順調に育てば、十分すぎるほどの余裕ができると言っていた。

 それもこれも里の外の防備を子眷属たちに任せたことによって、作物の生産力に人員を回すことができたからだそうだ。

 とはいっても、すべての人員を作物の生産に回したというわけではない。

 里を運営するには道具を作る人もいれば、家を建てるための人材なども必要になる。

 それでも食べ物に余裕ができる可能性があると分かっただけでも里の者たちにとっては心のゆとりができるようで、俺が里を飛び回っていると笑顔で手を振ってきたり、頭を下げてくる者が増えてきた。

 ただし今は里の防衛は子眷属たちがメインになっているが、いずれはダークエルフだけで防衛を担いたいと言われている。

 魔物に守ってもらうなんて――という差別的な意識があるわけではないのだが、自分たちの里は自分たちで守るという気持ちはよくわかるので、その時がくればいつでも言ってくれと伝えてある。

 

 ダークエルフの里については時間をかけて状況が好転していくことを見守っていくしかないが、別に世界樹にとってマイナスばかりだったわけではない。

 一番大きいのは、やはり里がある場所の領域が手に入ったことだろう。

 里の支配している部分と緩衝地帯を急ぎ目に取り入れて行ったことで、世界樹の領域はかなり広くなっている。

 ただその分の管理も必要になるのだが、それはシルクとクインの子眷属たちが大きな役目を果たしている。

 

 領域が広がれば手に入る魔石も多くなるわけで、その分の魔石をシルクとクインに渡して戦力の拡大を図ってもらっていた。

 こちらもすぐに増えるというわけではないのだが、それでも一週間から十日程度で纏まった戦力が新たに増えるというのは大きい。

 領域内を哨戒させるだけなら一番最初に生まれてくる子眷属だけでも十分なので、領域が広がれば広がるだけ一番弱い子眷属を増やしてもらっているのだ。

 もっともこの辺りの匙加減はシルクとクインに任せているので、俺としては後から報告を受けて不足した魔石を渡してあげるだけでよかったりする。

 

「――はいこれ、今回の分ね。ちゃんと二人で分けるように」

「ありがとうございます」

「魔石も随分と安定して手に入るようになりましたわ」

「本当にね。それもこれも領域が増えたおかげだろうけれど、戦力的には大丈夫かな?」

「問題ありませんわ。今のところイレギュラーな存在が出てきたということもありませんわ」

「出てきたとしてもすぐに対応できるように手配済みです」

「そうか。それはよかった」


 シルクとクインの話を聞いている限りは、少なくとも人種の対応以外に関しては完全に任せてしまっても問題なさそうに思える。

 ただ問題が出てないからこそ任せられるのであって、何かがあった時には俺のところにしわ寄せがくることには違いないのだが。

 

「そういえば、子眷属たちの成長はどんな感じ? 確かクインは蜜の生産を始めるんだったよね?」

「はい。今すぐには無理ですが、いずれは主様にもお渡しできるようになるかと思います。……できれば品質をあげてからにしたかったのですが」

「ハハハ。生産者としてこだわりたいというのはわかるけれどね。こればかりは譲れないかな。初物は絶対にいただく!」

「もう……。主様は変なところにこだわりがあるのですから」

 

 多少呆れた様子でそう言っているクインだが、あくまでも表面上のことであって心の底からそう思っているわけではないということは顔を見ればわかる。

 それに、これだけ気軽なやり取りができるようになったのは、眷属だからといって不必要に硬くなる必要がないという俺の考えが浸透してきている結果だろう。

 それはそれでいいことだと思っているので、敢えて強制するつもりはない。

 

「まあ、俺自身が食べてみたいというのもあるけれど、ダークエルフにできる限り早めに渡しておきたいというのもあるからね。急かしてしまうのは申し訳ないんだけれどね」

「それは構わないのですが、私としては蜜の生産よりも戦力にもう少し重点を置きたかったですね。……お陰でシルクに離されてしまいました」

「いずれは私の子たちも生産に回すでしょうから、あまり変わりませんわ」

「そうだね。今は食が優先、そっちの余裕が出てきたら間違いなく蜘蛛たちの布は需要が増えるだろうからね」


 人が暮らしていくのに最低限必要なのは衣食住。

 その三つのうちのどれが重要ということは無いのだが、やはり「食」がなければ飢えてしまうことになるので優先的に考えてしまうのは仕方ない。

 最後の「住」に関しては今のところ不足しているということは無いので、食が満たされた後に需要が増えるのが「衣」になるのは間違いない。

 それを見越してシルクには今のうちから多めに布の生産を進めてもらっているのだが、クインほど生産に傾いてはいないのだ。

 逆にいえば、クインが言ったとおりにいずれは生産用の子眷属を増やす必要が出てくることは確定している。

 

 ちなみに現在のそれぞれの子眷属は、蜂系統が最高で第三段階、蜘蛛系統が第四段階までの進化をしているらしい。

 勿論すべての子眷属がその段階まで進化をしているわけではなく、むしろ最高段階はかなり限られた数らしいのだが、それでも戦力でみればかなり充実してきていることは間違いない。

 それでも眷属たちに比べれば何段階か落ちるらしく、今はまだエリアボス相手に一対一では戦えないようだ。

 そもそも子眷属たちは数で押すことを前提に用意してもらっているので、それで何の問題もない。

 むしろ数で当たれば子眷属だけでエリアボスを倒せるようになっているだけで、以前から比べれば大幅な進歩と言っていいだろう。

 

「ダークエルフたちの食に余裕が出てくれば、里の周辺を哨戒してくれている子眷属たちにも余裕が出てくるはず。そうなったらエリアボス討伐のスピードも上がる……かな?」

「確実にそうなりますね。できればもう少し段階の高い子眷属が増えればいいのですが……」

「そこは焦っちゃだめだからね。今は戦力の拡充が優先。そのあとでエリアの拡大だからね。変に焦ってエリア攻略して戦力が減ったらそこから食い破られる可能性もあるからね」

「承知しております。無茶をする……させるつもりはありません」

「シルクもね。お願いだから……」

「わかっておりますわ。それに、わたくしたちよりもルフとミアを注意なさらなくてもいいのですか?」

「うん……? あの二人がどうかした?」

「『早く主のお役にたてるようになるんだー』といって、一緒に狩りに行ったりしているようですが?」

「……えっ!? まだまだ乳飲み子だと思うんだけれど?」

「わたくしにもそう見えますわね。魔物の狼ですから基準が違うのかもしれませんが」

「……だよねえ。その辺の匙加減が分からない……んだけれど?」

「私もよくわかりません。無茶はダメだと注意はしているので、子育ては二人に任せるしかないのではありませんか」


 クインが誤魔化すように笑みを浮かべながらそう言うと、シルクも「そうですわね」といって頷いていた。

 俺にとっても普通の狼ではない魔狼の子育てについては未知すぎるので、ルフとミアに注意することはできない。

 そんなことを考えていたが、ふと確か人外プレイヤーの一人に「狼な人」がいたはずだと思い出した。

 こういう時こその掲示板――ということで、ちょっとばかりハウスに戻ってみることにした。




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