(3)外法の地

本日(2020/12/13)投稿1話目(1/2)


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 ルフとミアの子供が元気にキャンキャンと走り回るようになった頃。

 ダークエルフの長老とちょっとした話をしていた俺は、ふと気が付いたことがあった。

「――そういえば、ジャガイモってどうなっているんだ?」

「じゃがいも……?」

「あれ? 通じない? 馬鈴薯って言えばわかるかな?」

「ああ、馬鈴薯ですか。それでしたらございますぞ。……なかなか上手くはいっておりませんが」

「そうなの?」

 長老から聞いた意外な言葉に、俺は思わず首を傾げてしまった。

 俺の中でのジャガイモは、どんなところでも育つ作物で米以上に育てやすいというイメージがある。

 勿論育てやすいというのはきちんと手間暇をかければという意味で、放置していても育つということではない。

 

 以前の生では栽培初心者にお勧めの食材として目にしたことがある気がしていたが、やはり大量生産ともなると難しい面が出てくるのかもしれない。

 そう考えた俺は、田舎の祖父母から聞いた話であることを思いだして聞いてみた。

「もしかしなくても、連作障害は対策しているよね?」

「……はて? 連作障害とは何でしょうかな?」

「あれ……待って。その辺りは専門家に聞いたほうがいいのかな? ずっと同じ場所に育てると病気が出やすくなるとかなんだけれど?」

「すぐに確認……いえ、こちらに呼びましょう」

「それがいいかもね」


 長老が人を使って専門家(農家)を呼びにいている間、折角の機会なので他のことを聞くことにした。

「ラックとかクイン辺りから聞かれていると思うけれど、やっぱりこの辺りに他の人種はいないのでいいのかな?」

 この世界で「人種」と呼ぶときには、ヒューマンやエルフなどの二足歩行で歩く知的生命体のことを呼ぶ。

 ゴブリンなんかも二足歩行だがあちらは魔物に分類されているので、人種には含まれていない。

 

「そうですな。既にご存じかも知れませんが、我々も追われる立場でしてできる限り人里から離れた場所を目指しておりましたからな。私どもが知っている人里で一番近くて、足の速い冒険者で大体一週間程度といったところでしょうか」

「一週間ね。野営しながらだと考えると優に百キロ以上……やっぱり札幌辺りになるのかな」

「さっぽ……?」

「ああ、いや、なんでもない。こっちのこと」


 俺が知っている札幌―旭川間のように整備された道もないところを歩くことを考えると一週間というのは驚くほど速い気もするが、現代日本人と比べるとそもそもの基礎体力が違う上に恐らく魔法も駆使できるので団順に比較するのは難しいだろう。

 それでも長老から聞いた話と方角を合わせると、恐らく札幌辺りに人里――大きな村(五千人規模)――があるのは間違いなさそうだ。

 今進めている領域の拡張は北方面になるが、そうなってくると次の拡張方向は東方面が無難ということになってくる。

 問題があるとすればダークエルフが知らない町や村の存在があることだが、こればかりは避けようがない。

 ダークエルフの里をいきなり見つけた時のように探索を慎重に進めるのは当然のこととして、今後は人との遭遇も視野に入れておかなければならないだろう。

 もっともそんなことは俺から言うまでもなく、既にラックやシルク辺りが情報として仕入れたうえで対策を取っているはずだ。

 

 今のところはダークエルフ一種族(というか一氏族?)だけで、当初の予想以上の恭順を示してくれているお陰でほとんど問題は発生していない。

 とはいえ今後を考えると今のダークエルフだけで済むわけもなく、人種の支配についても考えておかなければならない。

 土地の防衛という観点で考えるのならば、海に囲まれた環境を生かして最低限は北海道全体を領域としておきたい。

 今後眷属も含めて世界樹がどういう力を手にしていくか分からない以上は、様々な可能性を考えないとだめだろう。

 ……と、そこまでいくと戦略ゲーというよりも内政ゲー的な要素が強くなっていく気がするのだが。

 

「……そう考えると前途多難だなあ……」

「そうですかな?」

「あれ? 長老はそう思っていないってこと?」

「そうですな。……ああ、なるほど。世界樹様はこの地がどう呼ばれているのかご存じないのでしょうか」

「うん? どういうこと?」

「冬は雪に閉ざされて、人が食す食べ物を育てる環境は非常に厳しい。こんな土地に敢えて住もうという者もほとんどいないですからな。大陸や南の島の住民にはこの地は『外法の地』と呼ばれておるのですよ」

「あ~。なるほど。よほどのことがないと住みたがらない、と?」

「そういうことですな。現に、我々も逃げ延びた先がここだったということですからな。……そんな場所で世界樹様のお姿を見ることができるとは思いませんでしたが」

「むしろ人がいない場所だったからこそ生えていたともいえるかもね」

「そう考えることもできますか。いずれにしてもこの地はそこまで人の数は多くはないはずです。むしろ今後のことを考えるとそのほうがいいのではありませんか?」

「今後のこと?」

「おや。いずれは南の大きな島へと攻めるのではありませんか?」

「いや、今はまだそんなことまで考えていないから!」


 当然そうするのだろうという顔をして言ってくる長老に、少し食い気味に反論してしまった。

 とてもではないが、今は本州方面に進むことなど考えている余裕はない。

 ……そもそも世界樹の領域が、海を越えられるかどうかも分からないしね。

 まずはでっかいどーをどうにかすることを考えるだけで手一杯なので、その後のことはその時になってから考える――と後の自分に丸投げすることにした。

 

 

 そんな話を長老としていれば、当然のように呼び出していた人物がやってきた。

 そこでさっそくジャガイモ――というよりも農作物全般について確認した。

 そこで分かったことが、連作障害という言葉自体はなくとも同じ場所で同じ作物を育てれば駄目だという知識は持っているということ。

 当たり前のことだが、農家を専門でやっていればそのことは知識ではなく経験としてわかっているということだろう。

 

 よく農業チートとして出てくるいわゆるノーフォーク農法というのがあるのだが、少なくとも俺は今すぐにそれを導入しようとは考えていない。

 その理由は単純で、そもそも魔物が出てくるこの世界で当時(十八世紀ごろ)のヨーロッパでできていた大規模栽培ができるとは思えないためだ。

 それをするための土地や人手の確保が現状では難しいということもある。

 別に菜園規模でやればいいのではという突っ込みが来そうだが、そもそも連作障害を意識して別の作物を植えていく、あるいは休耕地にするなんてことは経験として普通にやっていたことは話を聞いてわかっている。

 というわけで、人手もない土地もないという現状ではノーフォーク農法を取り入れたところで、そこまで大きな効果は見込めない――というのが俺自身の考えだった。

 とりあえずやってみればいいじゃんと掲示板辺りで言われそうだが、ぎりぎり以下でやってきたダークエルフの里で今すぐにそんな実験的なことをする余裕はない。

 

 その代わりに農家の代表らしきダークエルフと話をしていくうえで、今後必要そうな情報は仕入れることができた。

 結果として、魔物のことを考えて畑の拡張を控えているというのもあるのだが、まずは生産力を上げて里の人数を増やすことの方が優先したほうが良いという話になった。

 今のところ外部からの人の流入もなさそうなので、自前で増やしていくことを考えると数年やそこらで劇的に変えるなんてことはできそうにない。

 もしその辺りのことを考えるならば、寒冷地用(?)の米を持ち込んだように作る作物から考えた方がいいという結論に落ち着くことにした。




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