(8)ダークエルフの里へ
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<Side:クイン(続)>
我が子の報告通りに戦闘が起こっていたうちの一方はダークエルフで、もう一方はホワイトウルフの群れでした。
ダークエルフは三人組で見た感じでは五体の群れのホワイトウルフには勝てそうでしたが、三人組のうちの一人が何かの理由で損傷していたようです。
三人組に案内されながら聞いた話によると、狩りの最中に一人が負傷してしまい里へ戻る最中にホワイトウルフに襲われてしまったとのこと。
けが人を抱えた状態で周囲を囲まれてしまった上に不意打ちを食らってしまったので、いささか劣勢な状態になってしまったとのことでした。
無理と無茶をすればあの状況を切り抜けることはできたでしょうが、里に戻るのは大変だったでしょうね。
できなかったとは言いませんが。
当たり前ですが、三人組は最初に接触した時は私たちに警戒をしていました。
勿論今も警戒は続けているでしょうが、当初に比べると大分落ち着いているように見えます。
私たちの目的が里にあると分かった時点で一番警戒をしていたようですが、それは当然のことでしょう。
むしろそれで警戒しないようであれば、大丈夫かと心配になるほどです。
里へと向か移動中で、少なくとも今は話し合いを目的をしているということを理解していただいたようで警戒も薄れてきたようです。
正確にいえば、私たちに向けていた警戒度を減らして、その分を周辺に向けているといったところでしょうか。
当然ですが、里に向かう道中も私たちから情報を得ようと様々なことを聞いてきました。
もっとも主様から隠し事はしなくていいと言われているのもあって、私とアイ様は聞かれたことは素直に答えています。
私たちに主に話しかけているのは三人組のリーダーの男で、名前はジンというそうだ。
その実力は私たち眷属には及ばず、進化をしていない子眷属は複数体を同時に相手にしてもどうにかこなせそうといった感じでしょうか。
その他の二人も実力は中々なようで、不意打ちを食らって仲間の一人が負傷していなければホワイトウルフの群れも自分たちだけで倒すことはできたでしょう。
その不意打ちもホワイトウルフではなく別の戦闘で起こったものだそうで、ホワイトウルフには帰り道に襲われたそう。
ちなみにジンには、私の子眷属のことについても詳しく話しています。
ホワイトウルフとの戦闘で先遣隊の子眷属がいることを見ていたようで、主様の助言もあることから隠すことはしなくてもいいと判断したからです。
ただし話しているのはあくまでも私の子眷属のことであって、シルクのことまでは話していません。
聞かれていないのですから、わざわざこちらから話す必要はないでしょう。
そんなことを話しつつ移動をしていると、ついに里から私たちが見える場所まで来ました。
里から見えるということは当然私たちからも見えているということで、特に里への出入り口付近があわただしくなっているように見えます。
出入り口といっても里周辺には簡素な木造りの壁があるだけなので、大型の魔物が来た場合にはほとんど意味をなさないでしょう。
この辺りにはそこまで大きな魔物は出てこないようなので、それでも十分意味を成しているのでしょうが。
私たちがいることで騒がれることは織り込み済みなので、謝ってくるジンを適当にあしらいながら歩を進めていきます。
そしていよいよ出入り口まであと数メートルというところまで近づいたところで、各々武器を構えた十名近いダークエルフに囲まれることになりました。
ジンは私たちに助けられたという建前もあるためか、一応怒ってくれてはいるようですがあまり意味を成しているようには見えません。
それでもいきなり動き出す者がいないということは、きちんと統率は取れているということでしょう。
アイ様も武器を向けられていることにはほとんど反応を示しておらず、むしろジンと警備隊(?)のリーダーのやり取りを興味深く見守っているようです。
ここで簡単に私たちを招き入れるようであれば警戒心が足りず、逆に不用意に攻撃を仕掛けてくるようであれば観察力が足りないといえます。
一応私たちの実力はある程度見えているようで、取り囲んでいる者たちの中には表情の厳しい者もおります。
それでも怯えている者がいないのはしっかり訓練されているとみるべきか、単に注意力が足りないだけなのかは判断に困るところです。
ジンとリーダーのやり取りが五分ほど続いたところで、ようやく状況に変化が見られました。
里の中から新たに現れたダークエルフが、両者を諫めたうえで私たちに頭を下げてきたのです。
「このように寒い中お待たせして申し訳ありませんでした」
「いえ。私たちも状況は理解しているので、特に問題はありません」
「そう言っていただけるとありがたいです。こちらへどうぞ。長老がお待ちしております」
「ありがとうございます」
そう礼を言いながら里へと入ろうとした私たちでしたが、当然のようにリーダーに止められました。
「――何を考えているんだ!」
「あなたの役目は理解していますが、これは長老の指示です。その意味が分からない貴方ではないでしょう?」
「だが、彼らは……!」
「魔物だ――ですか。そんなことはわかっています。それでも今の今まで特に何もせず話をするだけの態度を崩していません。もし私たちを襲うつもりならとっくにやっているでしょう。――という長老の言葉です」
「そ、それは…………」
痛いところを突かれたという顔をするリーダーに、案内役のダークエルフはそれ以上話すことはないと言わんばかりに私たちを見てきました。
「申し訳ございませんでした」
「いえ。それは良いのですが……よろしいのですか?」
「勿論です。こちらのことはこちらの問題ですので、あなたたちが気にされるようなことではありません」
「そうですか。それではよろしくお願いします」
私がそう言うと案内役のダークエルフは別のダークエルフへ視線だけを飛ばし、その場での用はもうないと言わんばかりに歩き始めた。
私たちもそれについていくが、他のダークエルフが動き始めるということはなかった。
案内役のダークエルフに視線を飛ばされたダークエルフが何やら指示を出していることからも分かるとおり、きちんとした役割分担というものがあるのだろう。
だが一つだけ気になった私は、あることを提案することにした。
「私たちを案内してくれた方々も一緒に来たほうがいいのではありませんか? 出会った状況もお知りになりたいでしょう」
「おお。そういえばそうでしたね。――ジン! あなたも来なさい!」
案内役のダークエルフが少し大きめの声で呼びかけると、ジンは慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
これは、指示が来るまで一緒に来るつもりはなかったということでしょうか。
そう考えると思った以上に彼らの統率は取れているように見えます。
これを確認できただけでも、私たちがこの里に直接出向いてきた甲斐があったといえるかもしれません。
案内役のダークエルフは、里の中央に向かって歩を進めていました。
そこにあるのが里の長老が住んでいる住まいだということは、既に事前の調査でもわかっていることです。
最初からそこに案内するということは、先ほどの言葉でも分かる通りに本当に私たちのことを信用しているのか――そこまで行かなくても言葉による話し合いをしたがっているということは理解しているということでしょう。
それにしても……いきなり自分の住処へと案内させる長老は、それなり以上の知恵者だと思われます。
こちらも気を引き締めなければならないでしょう。
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