(7)派遣
本日(2020/12/6)投稿2話目(2/2)
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何故このタイミングでダークエルフと接触を図ることを決めたかといえば、いくつか理由がある。
一つは、受身形でこのまま情報収集を続けても有用な情報が手に入りにくいだろうと考えたこと。
もう一つは、次の春を迎える前に彼らに接触をしておきたいと考えたためである。
後者については、ダークエルフたちが世界樹の分体である俺に対してのどのような態度をとるかによっても、こちら側の対応が変わってくる。
もし保護を求めてくるようなことがあれば、彼らを養っていくことを考えなければならない。
そうなったときに、でっかいどーの短い春を逃すのを避けたかったのだ。
ダークエルフたちは、眷属たちと違ってどうしても作物を必要としてする。
それらを育てる期間を考えると、春が来る前に接触しておきたかったのである。
もし彼らが保護ではなく敵対を選んだ場合は、容赦するつもりはない。
ダークエルフの戦力に関しては、小蜘蛛たちの偵察のお陰で大体のことはわかっている。
とはいえダークエルフは男女関係なく魔法が得意な種族であるので、油断するつもりはない。
それでも数だけで押し切れると判断したからこそ、今の時期での接触を考えている。
とまあ、ここまでうだうだと考えていたが、ようやくダークエルフと接触する決意を固めたというわけだ。
――俺自身が、というわけではなく、使者としてアイとクインが。
…………いやだって、ダークエルフの住処は領域外にあるから
むしろ一緒に行くつもりがあったからこそ前もって抜け道がないかを探そうとしていたんだが、残念ながらそれは無理だったというわけだ。
そんな言い訳を胸に抱きつつ、俺は使者の二人を他の眷属と共に送り出した。
あとはもう出たとこ勝負――どころか結果待ちになってしまうのは、致し方ない。
これもまた一応組織(?)のトップに立つ者として、ドンと構えて待つしかないだろう。
ある意味では、ここが初めての大きな分岐点の一つとなるのかもしれない。
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<Side:クイン>
主様から指令を受けた私たちは、綿密な打ち合わせをしながらダークエルフの里へと歩みを進めていた。
「――それにしても、主様はお優しいですね。百人程度の里など蹂躙してしまえばいいと思うのですが」
「駄目。ご主人様は後のことをちゃんと考えている」
「後とは?」
「反抗的な態度に出て成敗するのならともかく、いきなり力で抑え込むと後々反発する力もその分大きくなる。ご主人様はそれをできる限り抑えようとしている」
「できる限り恩を売って取り込み易くしようとされていると?」
「そう。そのほうが後々の統治がやりやすい」
「ですが、今のところ統治すらしようとしていないと思いますが?」
「それならそれで構わない。私たちの存在を認識させて後は周辺の領域さえ確保してしまえば、彼らはそれ以上の拡張もできなくなる」
「今はまず、緩衝地帯になっている空白地帯を確保しておきたいということですか。なるほど」
私としてはそんな手間をかけずにさっさと主だと認めさせればいいと思うのですが、主様は勿論のことアイ様も違ったお考えをお持ちのようです。
とりあえず私個人としての考えはどうでもいいので、まずは主様のお考え通りに行動しなければなりません。
そう考えると私とアイ様が先遣隊として選ばれたのは当然と考えるべきでしょう。
なにしろ他の眷属たちは、ラック様を除いてイケイケの方々ばかりですからね。
シルクもそういう面があるのが頭の痛いところです。
まあ、シルクの場合はご主人様命なところがあるので、そう考えると私と同じようなものかもしれませんが。
今回の先遣隊からシルクが外れたのは、下半身が蜘蛛であるためあからさまに魔物として見られる可能性があるためです。
そういう意味では私も似たようなものなのですが、見た目だけでいえば背中に蜂の羽が生えているだけなので大分ましだろうということでした。
主様は元が人間だったころの記憶を持っているそうなので、その辺りの機微は私たちよりもよくわかっているのでしょう。
いずれにしても私たちがやるべきことは変わりませんが。
「まずは話し合いの場を持ちたいということですが――――おや?」
「どうかした?」
「どうやらあちらの方で争いが起こっているようですね」
「……よくわからない」
「先に行かせている子からの連絡で分かったことですから、アイ様が見つけられるのはもう少し先になるかと思います」
「そう。もしかしなくてダークエルフも?」
「いるようですね。いささか劣勢のようですが、どうしますか?」
「…………急ごう」
「わかりました」
先に行かせている子を戦闘に加えようかと聞こうと思いましたが、すぐにその考えを打ち消しました。
変に助けに入ったところで、あちらに送っている私の子は完全に蜂の姿でしかないので、魔物としか見られないのが落ちでしょう。
そう考えるともしかすると主様は、私やシルクの子たちをダークエルフに認めさせるつもりもあるのかもしれません。
あの子たちが自由に動けるようになれば、里周辺の領域確保もやりやすくなりますから。
そう考えると変にダークエルフと戦って消耗して変に時間をかけるよりも、周辺領域を先に確保しておきたいというのはよくわかります。
……ダークエルフの里の蹂躙程度でさほど消耗するとは思えませんが。
主様は私たち眷属は勿論のこと、子眷属たちでさえ少しでも消耗することを嫌います。
私やシルクとしてはそこまで気にしなくてもいいと言ってはいるのですが、生きてもらっていた方が魔石の消耗が抑えられるとか。
お優しさからくるのか、合理的な判断をされているのか、微妙なところでしょうか。
恐らく自然のうちに両方で考えられているとは思いますが。
私がそんなことを考えながら全力で走っていると、ようやく『現場』に近い場所までやってきました。
ただ近いといっても私たちが視認できる距離なので、ご主人様や普通の人であれば少々距離があるといったところでしょう。
それにしても――と、私は隣を走っているアイ様を横目で見た。
私としてもそこそこのスピードで走ってきたのですが、アイ様はそれにピタリと並走してきました。
それは主様の魔石を取り込んで進化する以前とは、全く違っています。
進化する以前であれば、ここまで一緒についてくることすら難しかったはずです。
勿論、だからといってアイ様のことを侮る気持ちは全くなかったのですが、それでも戦闘面で大幅に成長されていることは紛れもない事実です。
そう考えるとやはり自分自身でも魔石を取り込んでみたいという気持ちが芽生えてくるのですが、これは他の眷属も同じでしょう。
私たち自身で魔石を取り込むことを主様が禁止されているというわけではないのですが、下賜されたものを自分自身のために使ってしまっていいのかと考えるといまいち一歩が踏み込めないというか……。
そう考えるとやはりアイ様は大胆というべきか、他の眷属とは違った面をお持ちのようです。
それだけ主様と近しい存在と言えるかもしれません。
恐らく次に魔石を下賜されるのはラック様になるはずなので、あの方が同じように進化してくだされば私を含めて他の眷属も使いやすくなるのですが、どうでしょう。
主様が作ることができる魔石は今のところさほど多くはないようなので、使わずにとっておくという選択をされる可能性もありますね。
――と。そんなことを考えているうちにいよいよ声が届く範囲にまで来てしまいました。
変なところで思考してしまうのは私の悪い癖です。
最初の対応はアイ様に任せるとして、私はすぐに戦闘に参加できるようにしておきましょうか。
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