(6)情報まとめ

本日(2020/12/6)投稿1話目(1/2)


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 チラチラと降るだけだった雪が本格的に降り始めて、地面に春まで解けない雪が積もってから早二月ほどが経った。

 でっかいどーの冬としてはようやく折り返し地点くらいだろうかと半ばどうでもいいことを思い浮かべてしまったのは、直前までとある問題で頭を使っていたからだ。

 それが何の問題かといえば、いうまでもなく本体世界樹から見て北西側にあるダークエルフの里についてだ。

 シルクの子眷属たちによる情報収集は、今もなお続いている。

 基本的にダークエルフ同士の会話から得られる情報だけがこちらに入ってくるので、当初はほとんど有用な情報は得られなかった。

 最初のうちはともかくとして、普段の生活の中で会話されている内容はほとんどが繰り返しのようなものなのでそれも仕方ないだろう。

 生活する上での会話はそれはそれで重要な内容にはなるのだが、いかんせん内向きの会話だけになってしまいがちだ。

 ダークエルフの里で、外敵に向けてどのような対策を取っているかなどの会話はほとんどされるはずもない。

 

 そんな中で、俺たちにとって有用な会話がほとんど毎日のように行われている場所がある。

 それがどこかといえば、ある意味当然ではあるが里にとっての長が暮らしている建物だ。

 その建物に潜んでいる小蜘蛛たちから得られる情報は、里を運営する上でのものが多くある。

 それでも一日にやり取りされる情報の量はさほど多くはなく、そこから得られた情報をまとめて納得がいく形に出来るまでには二か月以上かかった。

 その期間が遅いか早いかは、それぞれの価値観によって違うだろう。

 ちなみに、既に木に生まれ変わってそろそろ一年になる(はず?)俺としては、特に遅いとも早いとも感じていない。

 そんなものか――という程度だ。

 

「――定番といえば定番ネタだけれど、敵対勢力の追われてやってきたというのは予想通りかな?」

「そうですの? 何故ですか?」

「もともと定着しているんだったら、もっと外と交流していてもいいはずだから? いくら冬とはいっても交流が全くないというのはね」

「田舎であれば数か月に一度というのはあり得るのではありませんか?」

「確かにね。だから確信はしていなかったけれど……そういう意味では早めにわかってよかったかな」

 

 下手するとその情報を得るのはもっと後になるかと思っていたと付け加えると、向かい側にいたシルクがなるほどと頷いていた。

 小蜘蛛たちから得た情報をシルクがまとめて、それを俺に報告するというのは既に日課のようなやり取りになっている。

 そんなやり取りを続けているためか、シルクは他の眷属たちから既に情報収集とそれを纏める担当とみられているようだ。

 俺としてもそうしてもらったほうが助かるので、特にそれを訂正するつもりはない。

 ただ春になって雪が解ければクインの小蜂たちも活躍を始めるはずなので、役目を固定するのもどうかと考えていたりする。

 

「わたくしとしては、もう少し早めに知れてもよかったと思うのですが?」

「そうかもね。でもまあ、初めは飲み会とかの席で出てきた話だろう? 裏付けをとるのに時間がかかっても仕方ないよ」

「そんなものですか」

「そんなもの、そんなもの――ということにしておこう。俺だって情報の専門家というわけじゃないし、詳しくはわからないよ」

「それは仕方ありませんわ。これからも手探りで考えていくということですわね」

「だろうね。どこかのタイミングでそう言った人材が手に入ればいいけれど……今はそれを言っても仕方ないか」

「そうですわね」


 今話題となっているダークエルフはともかくとして、世界樹の領域とその周辺には魔物か野生動物しかいない。

 そんな状態で、人の営みで必要なスペシャリストを求めるのは間違っているだろう。

 そもそも今いるでっかいどーにどれくらいの人種が住んでいるか分からない以上、そこまでの能力の人材を求めること自体間違っているともいえる。

 

「――で、今までの情報を纏めると、彼らは南から逃げてきて(恐らく本州?)人を避けていくうちにここにたどり着いたと」

「時期的には五年ほど前ですわね」

「そこが意外だったかなあ。もっと前から住んでいると思ったのに。でもまあ、思い当る節はあったか」

「長年定住していたと考えると、微妙に行き当たりばったり感が出ていたりしますわね」

「だねえ。まあ、結果論で分かっただけだけれどね」

「んで、逃げる先に海岸沿いではなく内陸を選んだのは、岩塩の鉱床を見つけたからか。……うーん。残念」

「どこまでもつか分かりませんが、今の規模を維持するのであれば数十年どころではなく持ちそうですわね」

「折角覚えた魔法だけれど……まあ、仕方ないか」

「いずれ役に立つこともありますわ」

「だね」


 人の生活――というよりも食にとって欠かせない調味料は塩だ。

 特に冬が厳しい地域になると、保存食を作るという意味においても欠かせないものとなる。

 その塩の入手先が近くで見つかったからこそ、彼らはあの地を定住先と決めたのだろう。

 だからといって、塩だけで一つの種族を繁栄させることは難しいはずだ。

 

「――今の生活で一族の維持はできるけれど、繁栄させるとなると心もとない、か」

「維持……できますか?」

「というと?」

「確かに生活はできているようですが、どう見てもギリギリかその一歩手前といった感じですわ。今のところ飢えは出ていないようですが、十分な食料が得られているかといえばそうでもありませんわ」

「なるほどねー。だからといって、こっちで食を提供できるかというと……どうかな?」

「わたくしとクインの子供たちであれば巣で食料も作っていますが、果たして彼らがそれを受け取るかどうか……微妙ですわね」

「だよねえ」


 子眷属たちは姿かたちは横に置いておくとして、誰がどう見ても魔物でしかない。

 そんな魔物たちが作った物を彼らがありがたく受け取るかというと、確かにシルクが言うとおりに微妙だろう。

 それであれば、直接身体の中に入るものを最初に渡すよりかは別のものを渡したほうが良いだろうとなってしまう。

 

「――となると『食』から攻めるよりも、『衣』にした方がいいかな?」

「い、ですか?」

「衣服の衣だよ。この場合はダークエルフたちが着るための衣服となるね」

「なるほど。それの作成をわたくしたちが担うと。――それはいいのですが、彼らは受け取りますか?」

「そこが問題だよね。冬の間に作りだめしているからいらんと言われたらそれまでだから。……うん。そう考えると手詰まりかな」

「いっそのこと糸だけ渡して、作るのは向こうに任せてしまっては?」

「それも同じことだろうね。彼らが綿なりを育てているかはわからないけれど、今まで維持できていた以上は何らかの方法があるだろうし」

「今後はそちらの方面でも情報が必要ですね」

「そうだけれど、今のやり方だといつまで経っても入らない可能性があるね」

「そのようなことなないかと思いますわ。冬になって室内で活動することも多くなっていますから、生活に関わる情報は入りやすいかと」

「確かに、それもそうか。じゃあそっち方面の情報収集は任せるとして……少し、というかちょっと方針を変えて見ようか」

「というと……?」

 

 そう言いながら首を傾げるシルクに、俺はニコリと笑い返した。

 そもそもを考えれば、ダークエルフが俺たちという存在を知った場合にどういう対応をとってくるのかを知らなければならない。

 そのためにも一度は接触しなければならないだろうと考えていたところなのだ。

 彼らの立場も大体わかったので、次はこちら側のターンというわけだ。




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