(9)見落としと新たな仲間?

本日(2020/12/1)投稿1話目(1/2)


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 小型の蜘蛛の子眷属を偵察用に作ると決めて安心したところまではよかったのだが、一つ大きな問題が発生した。

「雪が…………」

 そう。ここは(恐らく)でっかいどーなのだ。

 当然のように、冬に雪は降ってくる。

 何故そのことをすっぽりと忘れていたのかといえば、そもそも本体や妖精の体でいるときには外気温というのものをあまり意識しないですむからだ。

 目の間で降っている雪を見て、そういえば分体生成したばかりの頃も雪が積もっていたなんてことを思い出した。

 何故そんなことを忘れるのかと言われそうだが、そもそも北国出身である俺は「冬期間=雪が積もっている」という意識が当たり前のようにある。

 人は当たり前すぎる事実があると、目の前でその現象が起こらないと忘れてしまうものなのだ。……俺だけじゃないよね?

 

 それらの事実は横に置いておくとして、問題なのは雪が降っているといことだ。

 といっても「雪が降る」というのは間接的な問題で、直接的なものは気温が低いということである。

 そして気温が低いということは、動物たちの活動そのものが低下するということになる。

 何が言いたいかといえば、雪が降っている、あるいは積もっているのに、蜂や蜘蛛が外で活動しているなんてことは普通ではあり得ないのだ。

 

「――というわけで、どうしたもんか」

 と、悩ましい顔になってシルクとクインに相談したわけだが、二人は一旦顔を見合わせてから不思議そうな視線を向けてきた。

「どうするも何も、人前に姿を見せなければいいのではありませんか?」

「………………はい?」

「これは既にラックの偵察でわかっておりますが、ダークエルフは普通に家を建てて暮らしております。その軒下なり屋根裏なりに潜ませればいいのでは?」

「え、あれ? もしかしなくても、最初からそのつもりだった?」

「勿論です」

「わたくしの場合は土蜘蛛という種類の蜘蛛もおりますから、土の中を掘り進んでいくということも考えられますわね」

「いや、それはどれだけ掘らせるのということになるわけですが……」

「大したことではありませんわ。そもそも彼らが土を掘るのは、そこでキノコなどの食料を作ったりするためですからちょうどいいと言えますわ」

「え。そんな種類の蜘蛛もいるのか。というか、蜘蛛ってキノコ、食べるんだ」

「そういう種もいるということですわね。というよりも、基本的に魔物の蜘蛛は雑食ですわ」


 もしかしたら今後役に立ちそうな豆知識が手に入るとともに、あっさりと悩ましい――と勝手に勘違いしていた問題が解決してしまった。

 問題というよりも、一人で先走ってしまっていたわけだが。

 ……うん。まあ、これからもあれこれと命令する前に、きちんと眷属たちに相談しよう。そうしよう。

 とまあ、少なくとも今回に関しては眷属たちのお陰で事なきを得ることができた。

 軒下や屋根裏に隠れて見つからずに済むのかという問題はあるが、そこまで追及するとそもそも偵察自体ができなくなってしまう。

 そこは子眷属たちの活躍に期待するしかない。

 

 

 そんなこんなで子眷属の問題は解決したわけだが、根本問題であるダークエルフに関してはほとんど状況は進んでいない。

 一応ラックに頼んで空から数度の偵察をしてもらったくらいだ。

 ダークエルフの住んでいる集落辺りには、野生魔物含めて梟型の生物は何種類か存在している。

 それであるならば、ラックが数度集落の上空を飛んでいたとしても問題ないだろうと判断した。

 

 その結果わかったことは、ダークエルフの集落はまさしく集落と呼ぶにふさわしい規模で、行っても総勢百名は住んでいないだろうということだった。

 冬の間の食料はどうしているのだろうかという問題はあるが、恐らく秋のうちに収穫した穀物などでしのいでいるのだろう。

 この辺りに国家規模の組織が存在しているかどうかはまだ分からないが、もしないとすれば租税が抑えられている(もしかしたら無い)というのも大きいのだろう。

 正しく自給自足の生活というわけだ。

 だからといって、豊かな生活というわけでもなさそうだが。

 

 いずれにしても集落の規模は百人程度。

 その規模で周囲の魔物をやり過ごしているのは驚嘆に値するが、もしかするとダークエルフの能力が高いのかもしれない。

 その辺りは、今後の偵察でわかってくるはずだ。

 もっとも魔物の襲撃などを防げていたとしても、集落を拡大できるほどの余裕はないとみている。

 もしそんな余裕があるならば、とっくにもっと大きな村や町になっていてもおかしくはない。

 もしくは、彼ら彼女らが何らかの理由で最近住み着き始めたかのどちらかだろう。

 

 できることならすぐにでも彼らに接触してみたいという気持ちはあるが、そもそもどういう立ち位置にいるのかが分からないまま交渉すると間違った判断を下す可能性が高い。

 一応方向的には彼らを滅ぼすつもりはないのだが、態度や出方によってはどうなるかは不透明だ。

 変に高圧的に出てくるようであれば、無理に言うことを聞いてやるつもりもない。

 ……ないのだが、彼らの戦力がどの程度かを知らないことには、下手に戦いを仕掛けることもできないので、やはり偵察は必要だということだ。

 

 とにかくダークエルフの集落については、今すぐにどうこうできるわけではない。

 それも含めて、当面は自前の領域を増やすことに専念することにした。

 領域が増えれば、それだけ糧食を必要とする子眷属たちを増やすことができる。

 それもまたこちらの戦力の増強になるわけで、ダークエルフと対抗していくためにも必要なことなのだ。

 少なくとも一方的にこちらが良いようにされることがあってはならない。

 

 ――と、そんな捕らぬ狸の皮算用をしていたら、ルフがエリアを一つ取ったという報告をしてきた。

 最近はエリアの吸収も進んでいるのでいつものことだと聞き流そうとしたが、すぐに聞き逃せない言葉があることに気が付いた。

 というよりも、ルフの傍に似たような体色をした狼がいることで、なんとなく事情を察してしまった。

「――もしかしなくても仲間になったとかかな?」

「ワフ!(そうだよ!)

「ああ~。やっぱり。まあ、その辺のことは個人個人に任せるけれど、何かあったらきちんと責任は取ってもらうからね?」

「ワ、ワフ……(は、はい……)」

「主様大丈夫ですわ。私も一緒に行っておりましたが、そこまで問題があるようには見えませんでしたから」

「そう? それならいいけれど……というか、別に新規参入に限らず眷属たちでも問題を起こせば処分することはあり得るからね?」

「それはそうですわ。信賞必罰は必要ですから」

「……今のところ『賞』はあまり与えられていない気がするけれどね……」

「何を仰いますか! 私たち眷属にとっては、主様が主様として存在しているだけで十分ですわ!」

「ハフ!(そうだそうだ!)

「……まあ、いいけれどね」


 何やら盛り上がっている眷属二人から視線を外した俺は、改めて新しく仲間になった銀狼(♀)を見た。

 眷属ではないためか、ルフのように会話(らしきもの)はすることができないようで、向こうもジッとこちらを見てくるだけだ。

「名付けしたら眷属になったりしないかな?」

「それはどうでしょう? 私たちは最初から眷属でしたから、他の場合はよくわかりませんわ」

「それもそうだねえ。 ……どうしようか。もし君が望むのであれば、名づけもこのまましちゃうけれど?」

「ワフ!(是非、だって)」

 返事ができない銀狼(♀)の代わりに、ルフがそう答えてきた。

 

「本当にいいのかな? 名付けによって俺に縛られる可能性もある……というかその可能性が高いよ?」

 そう言ってジッと銀狼(♀)の目を見つけると、そのままジッと見つめ返してきた。

 流石にこれは、会話になっていなくても彼女が何を言いたいのかは理解できる。

 というわけで、急遽ではあるが銀狼(♀)のための名前を考え始めた。




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