(8)重要な発見

本日(2020/11/30)投稿2話目(2/2)


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 二体目のエリアボスを倒したあとは、精力的に他のエリアにちょっかいを出すことに決めた。

 眷属たちの能力が上がってきていることに加えて、クインとシルクによる子眷属の増強も期待できることが分かったからだ。

 とはいえエリアボスも全部が全部同じようなレベル帯ではないと考えているので、油断するわけにはいかない。

 ――いかないのだが、今のうちに出来る限りエリアボスを狩って戦力を増強させて起きたいというのが本音だ。

 今はまだエリアボス同士の連携の動きなどは見られていないが、今後はどうなるか分からない。

 もし連携するエリアボスが出てきた場合に対処しきれなくなる可能性もあるので、できる限り個別に潰しておきたいということもある。

 

 潰すエリアボスは北方面で統一することにした。

 領域の隣のエリアボスを倒すようにすれば飛び地になる可能性はないだろうが、方向を定めたほうがやりやすいというのがある。

 その理由の一つに、アイと子眷属たちが作っている罠の存在がある。

 罠は基本的に移動式ではなく固定式なので、一度作ってしまえば壊されるまでそこから動くことはない。

 メンテナンスなどの手間はあるが、防衛体制を整えるという意味においては、欠かせない戦力の一つとなっている。

 

 子眷属たちの罠は、蜘蛛が巣を張っておくのと同じように、蜂もそれぞれの巣を配置していつでも侵入者に対応できるようになっている。

 子眷属たちの数は、既にクインとシルクが目標としていた百を超えており、初期の領域を見張るのには十分とまでは行かないまでもかなりの範囲をカバーできるようになっている。

 それらと合わせてアイの罠もあるのだから十分といっていいほどの防衛体制は整っている。

 付け加えると子眷属たちは、生まれがそもそも弱い種のためか、進化のタイミングも眷属たちに比べて早い。

 普通に魔物を倒しているプラスαで進化できるのだから、眷属と比べるとかなりお手軽ともいえる。

 勿論進化を重ねているとはいえ、親に当たるクインやシルクに比べれば劣ると言わざるを得ないのだが。

 

 そして戦力の要である眷属は、全員が一段階目の進化をしていた。

 これはいい方向での予想外だったのだが、最近はほとんど戦闘に参加していないアイもしっかりと進化した。

 アイは罠を張っていくと同時に、自分自身の体のアップデートも繰り返していて、それが進化の条件に当てはまったようだ……と当初は考えていたのだが、それだけではないこともわかった。

 というのは、子眷属を作るのに時間を割いているクインやシルクもほぼ同時に進化をしたのだ。

 これらの事実を合わせて考えると、何らかの生産活動に対しても経験値のようなものが入っていると推測している。

 まさしく『経験』値だなと一瞬どうでもいいことを考えたのは、眷属たちにはばれていない…………はずである。

 

 

 そんな感じで領域の防衛体制が整ってきたのもあって、今度はきっちりと攻める方に能力を使うことにした。

 北方面にまとめたのも罠の設置が、飛び地にならないようにするためだ。

 結果としてその作戦がはまった――のかはまだ不明だが、二か月のうちに十を超えるエリアのボスを倒すことができていた。

 以前から比べれば格段のスピードだが、それもこれも眷属たちが張り切っているというのが理由の一つとして挙げられる。

 進化した眷属たちは、それぞれの力を試すように次々とエリアボスたちに挑んでいた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんなことを繰り返しているうちに、ついにあるべき存在と遭遇することになった。

 その存在が何かといえば、いわゆる知的生命体との邂逅である。

 最初にその報告を持ってきたのは、やはり空からの偵察に優れているラックだった。

 ラックが次のエリアを見定めている際に、二足歩行で歩く人のような姿を見たということだった。

 

「――ピイピイ(あれはダークエルフだと思われます)」

「ダークエルフね。例の書籍にあった特徴と同じだったということ?」

「ピイ(はい)」

 ちょこちょこホームに帰っている俺は、ある程度余裕ができた時に本を買うということを繰り返している。

 流石に大量買いをすることは無いが、行くたびに一冊単位で買っていれば、種類が増えていくのも当然のことだった。

 ラックは特に雑学系――というよりも生物の生態に関しての知識を仕入れるのに熱心だった。

 それが偵察の役に立つことになるから、という理由なのは言うまでもないだろう。

 

 念のための確認を入れた俺に、梟のラックは頭を上下させた。

「うーん。そうか。……話はできそう?」

「ピイイ?(さて、どうでしょうか?)」

 当たり前だが、ラックは梟のため普通は話をすることができない。

 会話を試みようとしても、ただの魔物だと認識されて弓で攻撃されるのが普通だろう。

 勿論ラックは、ただの弓でやられるようなことは無いのだが。

 

「さて、どうしようか。できれば事前に集落の規模なんかも知りたいけれど、ラックが飛んでるときはともかく近づけばすぐに気づかれるだろうなあ……」

「ピイ(恐らく)」

「だよねえ。となると純粋に話ができるクインかシルクを派遣するとなるけれど……やっぱりクインだよなあ」

「ピピ(やはりそうなりますか)」

「シルクも人の普通の感覚でいえば魔物側だからねえ。それを言えばクインもなんだけれど、まだ姿はあちらよりだから」

「ピピピピ(適材適所ですな)」

「そうなるかな。まずは、一度クインと相談してみようか」


 できることなら相手の戦力がどれくらいあるのかをきちんと調べたうえで、今後どういう対応をしていくのかを決めたい。

 一番やってはいけないことは、相手がどれくらいの規模の集落を作っていて、どれくらいの戦力を持っているのかもわからずにやみくもに攻め込むことだ。

 ラックの見立てでは一人一人の力はそこまで強くはなさそうだといことだが、知恵を持つ相手との戦いはそんな単純なことでは決まらない。

 まずは徹底的な情報収集を行うということは、ラックから話を聞いた時点で決定事項していた。

 

 そんな懸念をクインに伝えたところ、何故かしまったという顔をされた。

「あれ? なにかあった?」

「いえ。申し訳ございません。主様に一つ伝えておかなければならなかったことを忘れておりました」

「クインが……? 珍しいね」

「はい。……いえ。私たちにとっては当たり前すぎることでしたが、主様にとってはそうではなかったというべきでしょうか……」

「うん? どういうこと?」

「もし人の集落があるとして、蜂を向かわせれば偵察という意味では十分に果たせるかと。人の領域に蜂がいてもさほど不思議には思われないでしょうから」

「蜂を……? いや、それはすぐに気づかれるのでは?」

「勿論蜂といっても今いる子眷属ではなく、ごく普通の――大きくても三センチ程度の蜂です。言ってしまえば、人の里のどこにいてもおかしくないような蜂です。少なくとも見た目は」

「え。待って。言いたいことはわかったけれど、そんな蜂がいるの? というか従うの? その辺の蜂とかをテイムするとか?」

「そういうわけではありません。これまでは戦闘にあまり役に立たないということで作っては来ませんでしたが、必要であればいつでも作れます」

「子眷属で作れるのか……」

「あの……黙っていたのは、申し訳ありませんでした」

「ああ、いや。別に怒っているわけじゃないよ。今までの状況を考えれば、クインがそう考えるのも当たり前だし。それじゃあ今すぐに……は無理としても、偵察用の子眷属を作ることは可能ってことだね?」

「はい。ご命令いただければ、近日中に誕生するかと思います」

「あら。思った以上に早いね。それじゃあ、頼むよ」

「畏まりました」


 黙っていたことに後ろめたさを感じたのかこれまで以上に丁寧に頭を下げてきたクインに、俺は適当に「よろしく」とだけ返した。

 後から思い返して少し冷たかったかと思ったのだが、時間を戻すことはできない。

 起こるつもりもないのだが、そう取られてしまったらどうしようかと一瞬小心者的な思いに囚われてしまった。

 そしてこのやり取りがあってから数時間後に、シルクからも同じように小型の蜘蛛が作れるという話をされることになるのだが、それはまた別の話。

 その後、俺って脳筋だと思われているのかと悩むことになるのだが、その姿は幸いにも眷属たちに見られることはなかった。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る