(7)罠の効果
本日(2020/11/30)投稿1話目(1/2)
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相手が動いてから急遽決めた作戦だったので、蜘蛛子眷属は十分な罠を張る時間はなかった。
それでもある程度相手の動きを縛ることができるはずだ――というのがシルクからの報告だった。
「申し訳ございません」
「うん? 謝る必要はないよ。作戦を決めた時にも言ったけれど、あくまでも予備的なものだからね。罠がどうなったとしても大勢に影響はないし。できれば子眷属たちの自信につながればいいかな程度だよ」
「自信……ですの?」
「そう、自信。罠を張っていくって、戦闘という分野においては地味に見られがちだからね。種族的にそんなことは考えないのかもしれないけれど、心のどこかでしこりになったりしかねない。それを払しょくするためだよ」
「お言葉ですが主様。罠の重要性を分かっていない者はいないと思いますが……?」
シルクに変わって、クインがそう疑問を呈してきた。
直接かかわっているシルクは聞きづらくても、間接的な位置にいるクインであれば当たり障りなく聞けるという判断だろう。
眷属たちは、時折こうした繊細さを見せるときがある。
「まあ今はそうだろうね。でも、今後領域が拡大して種族が増えた時はどうかな?」
「それは――」
「ないかも知れないし、あるかも知れない。もしあった時にはそのしこりが変な軋轢を生む……かもしれない」
「失礼をいたしました。そこまでお考えだったのですね。余計な問いでした」
「いんや。これからもお願いするよ。俺の考えが必ずしも合っているというわけじゃないだろうし。一人で考えて気付けなかったら最悪だからね」
「畏まりました。精進いたします」
「精進するのは、俺も同じだけれどね」
丁寧に頭を下げてきたクインに、俺はそう返しながら笑いかけた。
そんな話題を挟みつつ、俺は視線を再びシルクへと向けた。
ちなみにシルクは戦闘の途中経過ということでここにきている。
初めての実戦を伴った罠張りということでシルクが監督をしていたということもあり、その報告も兼ねている。
「それで、実際はどうなった?」
「半分失敗で半分成功と言ったところですわ。具体的にいえば、ボスは張った罠を気にせずに突っ込んできました。罠の効果がなかったとまでは言いませんが、張った意味があるかというと微妙ですわね」
「あらあら。結果としては微妙だったか。でも蜘蛛の糸がまとわりついているんだから、動きは鈍くなっただろう?」
「それは間違いありません」
「だったらよし。これで子眷属たちを褒められる」
「それはあの子たちも喜ぶでしょう」
「それで? 戦闘はもう直接対決に変わった?」
「恐らく今はそうなっているかと。わたくしは、相手が罠を食い破った時点でこちらに来ましたから」
「そうか。じゃあ効果のほどは戦闘組から直接聞くか。まあ、全くなかったということだけは無いと思うけれど」
「間違いなくそうですわね。わたくしが離れる時点でも多少はスピードが落ちていましたから」
「なるほどね。それじゃああとは結果待ち。シルクは、気になるようだったら戻ってもいいよ」
「いいえ。こちらで結果をお待ちしておりますわ」
今更自分が戻ったところで、大勢に影響はないと考えたのだろう。
それよりは、何かあった時のために俺の傍にいるほうがいいという判断だ。
もしこれでエリアボス同士が連携して攻めてきたなんてことがあれば、目も当てられない結果になりかねない。
そして俺たちがそんな話をしている間も、世界樹の足元ではアイがせっせと罠を作っていた。
世界樹の根に影響が出ないように罠を設置しているのだが、それはもう見事というほかない。
流石に世界樹の枝から生まれただけはあると、変なところで感心していた。
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「バウ(随分楽に倒せたぜ)」
エリアボスが倒されたというアナウンスの後、しばらくしてから戦闘組が戻ってきて開口一番にそう報告してきた。
侵入してきてからアナウンスが流れるまでに時間がさほどかかっていなかったのでその結果は予想できていたが、ファイの様子を見る限り予想以上に簡単だったようだ。
「各々がレベルアップしているのもあると思うけれど……やっぱり罠の効果はあった?」
「進路妨害としては意味を成しませんでしたが、戦闘となると大いにありましたね。私などはほとんど空から見ているだけで済みました」
ファイに変わってそう報告してきたのは、空からの急襲役を担っていたラックだ。
「それはよかった」
「ただ罠の効果も勿論ですが、失敗したと勘違いした子眷属たちが奮闘したのも大きいですねえ。私など入る余地がないくらいの波状攻撃をしていましたよ? どうやって教えたのですか?」
どうやら戦闘が楽に終わったのは、蜘蛛の子眷属たちが戦闘に参加したお陰でもあるようだ。
そこまでの作戦は考えていなかったので、これは完全に眷属の独断になる。
別に悪いことではないので怒ってはいないが、子眷属を仕掛けるよう指示を出したのかだけは気になった。
「わたくしは何も教えておりませんわ。あるいは、蜂の子たちを見てやり方を覚えたのではないではありませんか?」
「そうですか。体はそこまで大きくないとはいえ、三十近い蜘蛛たちが順々に襲い掛かってくるのですから、とにかくやりづらそうでしたね」
蜘蛛も蜂もシルクやクインに比べればそこまでの大きさはなく、体長でいえば五十センチ程度となる。
魔物ではない普通の蜘蛛や蜂に比べれば十分に大きいのだが、それでもエリアボスに付け入る隙を与えないほどの攻撃ができるとは考えていなかった。
ちなみに蜘蛛の子眷属たちは、シルクのように人の上半身はついていない。
進化を繰り返せば、いずれはつくこともあるそうだ。
とにかく子眷属たちの奮闘があって、今回のエリアボスは難なく倒すことができた。
決定力不足もあって子眷属たちだけでは倒しきることはできなかっただろうが、そこは本来の役目である眷属が補ったそうだ。
どちらかといえば今回の戦闘は、結果的に子眷属が主で眷属は交互に戦闘に参加する形になった。
この結果のお陰で、子眷属の予想以上の戦闘能力があることが分かった。
それが分かっただけでも十分な成果だといえるだろう。
――というわけで、報告から得た情報はこれで終わり、あとは戦闘後のお楽しみタイムである。
まずは当のエリアボスから得た魔石だが、これは先のものと大きさも質も変わりがなさそうだった。
とはいえ通常入手できるものと比べれば、それぞれの質が高いことは間違いない。
この魔石を何に使うかが判断に困るところだが、今回は保留することにした。
普通に考えれば、シルクかクインに与えて戦力の増強を図ったほうが良いのは間違いないのだが、今後のことを考えればどちらか一方の戦力を拡大させるのはどうかと考えたのだ。
後々のことを考えれば微妙な違いになるだろうが、初期のころに着いたイメージというのは払しょくするのは難しい。
逆に、初期の勢力が弱かったせいで後々奮闘しすぎるのも面倒なことになる。
俺としては、蜘蛛と蜂の勢力は均等であってほしいというのが今のところの望みだ。
あとは眷属や子眷属たちのレベルアップだが、なんとこの戦闘で眷属の進化が起こった。
それが誰かといえば、先の報告で一番に突進してきたファイだった。
どうやら眷属の進化はその場で起こるわけではなく、休息をとる形で起こるようだ。
戦闘が起こった翌日にファイの姿が微妙に変わっているのを見て驚くことになってしまった。
ファイがいの一番に進化をしたのは、さすがの戦闘好き(まだ戦闘狂一歩手前)といったところだろう。
さらに今回奮闘しすぎるくらいに奮闘していた子眷属たちも進化をした。
具体的には戦闘に参加した三十体のうち進化前だった二十体が、先の十体と同じ進化をしていた。
元居た十体は進化しなかったが、これは仕方ないだろう。
それはともかく、今回の戦闘で質という意味では蜘蛛と蜂の子眷属には差がついてしまった。
そして次のエリアボス討伐には、蜂の子眷属たちを参加させようと決心するのであった。
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