(3)眷属

本日(2020/11/22)投稿2話目(2/3)


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 昆虫の羽を持った女性――魔蜂人というらしい――によると、現在傍に控えている六体はすべて俺の眷属になるらしい。

 まず本体の大樹から落ちた枝から生まれたのが木の人形――木人で、続いて生まれたのが大樹を住処にしていた大梟。

 残りの四体である蜘蛛人アラクネ、銀狼、火熊、魔蜂人は、大樹の傍を住処にしていた際に、魔力の影響を受けて眷属になったそうだ。

 本体である大樹の魔力の影響を受けたということだが、少なくとも自分自身は特に何もやっていない――とそう考えていた。

 だが俺がそのことを指摘すると、魔蜂人の女性が首を傾げながらこう言ってきた。


「――そうですか? ですが、ここ最近は特に世界樹の中での魔力の動きが激しかったようですが?」

「うん? なんて?」

「最近は、御身の本体である大樹の中で動く魔力の量が大きくなっていた、と」

「うん。いや、そっちもだけれど、その前になんて言った?」

「そうですか?」

「もうちょっとあと」

「ですが、ここ最近は特に」

「もうちょい」

「世界樹?」

「それ!」

 思わず魔蜂人の女性に向かって指をさしてしまったので、慌てて指を腕の状態をもとに戻した。

「大樹だと思っていたけれど、この木ってもしかしなくても世界樹?」

「そうですが?」

 当然だろうという顔をしている魔蜂人だったが、その認識がなかったのは俺だけで他の眷属たちも当たり前のように頷いていた。

 知らなかったのは自分だけかいと突っ込むが、そもそも木だということも考えないようにしていたので、世界樹なんてことはかけらも考えていなかった。

 

 そんな考えた頭の中を一瞬よぎった瞬間――、

『ピンポーン。種族が確定しましたので、情報を更新いたしました』

 そんな音ならぬ声が分体の頭の中に響いてきた。

 そして慌てて確認をしてみると。

 

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 ステータス

 

 名前:キラ(桂木昭)

 種族:世界樹(苗木)

 職業:世界樹の精霊

 所持スキル:魔力操作、分体生成

 眷属:木人、大梟、蜘蛛人、銀狼、火熊、魔蜂人

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 ――となっていた。

 

「まじで世界樹だったのか……」

「……はい?」

「ああ、いや。なんでもない」

 独り言に反応した魔蜂人に、慌てて手を振りながら首を振る。

 

 後ろに(苗木)がついているのが気になるところだが、少なくとも世界樹の一種であることはステータスが証明している。

 さらに気になるのが次の職業で、精霊って職業なんだとこれまたどうでもいいことを考えてしまった。

 ただ確かに周りにある木々なんかを見ても妙に小さい気はしていたので、人型になれたときほどの驚きはない。

 最後の眷属の表示も魔蜂人から話を聞いたことで、全員がそうだと認識された結果だろう。

 

「うん。まあ、とりあえず俺が世界樹とやらになったことはわかった。君たちが眷属だということも。ところで――」

「はい?」

「この後何をすればいいかわかる?」

「え? ええと……」

「ああ、ごめん。ちょっと言い方が悪かったか。主として? 何かやってほしいことはあるかな?」

「それでしたらぜひお願いしたいことが一つ」

「何かな?」

「我々に名づけを、是非」

「なづけ……名づけね。なるほど」


 魔蜂人からのお願いは、ある意味では定番ともいえる展開だといえるだろう。

 それが眷属なのか、テイムモンスターなのかの違いはあるにせよ、得た仲間に名前を付けるのはごく当たり前の行為だといえる。

 だからこそ名づけをお願いされた俺は、特に深く考えることをせずにそれぞれの名前を考え始める。

 そうして付けた名前はそれぞれ、大梟:ラック、木人:アイ、蜘蛛人:シルク、銀狼:ルフ、火熊:ファイ、魔蜂人:クインとなった。

 名前そのものについてはインスピレーションで付けたので特に理由はないが、それぞれの性別については事前に確認していたのでそれっぽい名前にしてある。

 木人に関しては見た目は完全に木の人形なので性別があると言われて驚いたのだが、そういうものだと納得することにした。

 

 そんなこんなで全員に名前を付け終わったところで、ふと疑問が浮かんできた。

「そういえば、君たちって食事はするの?」

「栄養を取ると言った意味での食事はしません。私たちのエネルギー源は、あくまでも主様からもらえる魔力になります」

「魔力……仙人でいうところの霞みたいなものかな?」

「そういう認識でよろしいかと」

 魔蜂人――クインがあっさりとそう言って頷いてきた。

 異世界の生き物であるはずのクインが共通の認識を持っているのが不思議な感じだが、眷属になった時点である程度の情報は共有されたらしい。

 何ともご都合主義的だなとも思わなくもないが、ありがたいことには違いないので多少の不条理(?)には目を瞑ることにする。

 

 名づけも終わって皆が喜んでいるのを見てなんとなくうれしくなりつつ、さてここからどうしようかと考える。

 別に彼らからは言われていないのだが、眷属とした以上は何かの仕事を与えたほうがいいはずだ。

 というよりも、会話の流れで一度だけのんびりとしていたらどうかという話を振ったのだが、何とも哀愁漂う雰囲気になってしまった。

 彼らにしてみれば、主人から生きるための糧(魔力)を得ているのに、何もせずにだらだらしているのは許しがたいことらしい。

 

 というわけで、まず彼らに与えた仕事はこの辺りの探索がいいだろう。

 以前の感覚でいえば異形ともいえる存在が目の前にいる以上は、確実に魔物的な何かがいると考えたほうがいい。

 そうした生き物の調査を行うととともに、周辺の状況を把握していく。

 そのうえで一番の目標は、自分たち以外にいわゆる知的生命体のような存在がいるかどうかだ。

 もしいるのであれば、敵対的なのか、あるいは中立的なのか、出来る限り把握しておきたい。

 何しろこの世界に来てからやっていたのは、本体(世界樹)の把握だけなので、世界の状況というものがまったくわかっていない。

 出来る限り多くの情報を持ち帰ることが重要だと言い含めて、無理をしないことを大前提とした。

 行動命令としては『命大事に』といったところだろうか。

 

 それに加えて、自分自身でも分体を使って周囲の把握をしていくことにする。

 そもそも分体でどのくらいのことができるのか全く把握できていないので、できる限り多くのことを試していきたい。

 既にこの時点で運営さんがゲームの作り的に優しくないことはわかっているので、出来ることからコツコツと試していく。

 そんなことを眷属たちに漏らすと、護衛は絶対につけますと宣言されてしまった。

 彼らにしてみれば、栄養(エネルギー)を得ている本体が無くなってしまえば自分自身もどうなるかわからないのだからそうなるのも仕方ないと諦める。

 ただ少し過保護すぎやしないかと考えてしまったのも仕方ない、と思うことにした。

 眷属たちの前では、絶対に口に出して言えないんだけどな!




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