プロローグ3(キャラ作成)

本日(2020/11/21)投稿3話目(3/4)


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【Q&A】を一通り見終えて改めて【キャラクリエイト】を開いた昭だったが、最初の選択肢を見ただけで思わずうめき声を出してしまった。

 昭が【Q&A】を見ているときに周りにいる何人かが同じような動作をしていたことに気付いていたのだが、これが理由かと納得できた。

 最初の選択肢では転生先になる世界を選ぶことになっていたのだが、その種類が豊富すぎるほどに豊富だったのだ。

 ジャンルでいえばファンタジーからSFまで、いわゆる異世界ものと呼ばれるような世界観のほぼすべてを網羅しているように見えた。

 試しに一番わかりやすいファンタジーを選択してみれば、さらにその先にも細かい設定(魔法有り無しなど)まで選べるような選択式のチェックシートのようなものまで出てきた。

 大きなジャンルだけでも種類が多いのにこれほど細かい設定が選べるのであれば、それこそこの場にいる全員が全く同じ世界になることはないのではないかと思われるほどだ。

 逆にいえば、これだけの種類の世界を用意できるということは、昭たちをこの場に召び出した運営は色々な意味でかなりの力を持っているといえるだろう。

 この場合の『力』というのが、単純な腕力だけではないのは言わずもがなである。

 

「――そんなことはともかくとして、さてどうしようか。これだけあると逆に悩むな」

 王道であるファンタジーものは勿論のこと、SF世界で艦隊戦なんかも心が惹かれる。

 それ以外のジャンルも、やりようによってはいくらでも楽しめる要素がありそうだ。

 選択肢が多い分自分好みの世界がいくらでも作れそうな気になってしまい、その分だけ悩む要素が多くなって来る。

 

「まじでどうするか。…………ここで悩み過ぎて時間を使っても意味がないから、とりあえずで選んで先を見てみるか」

【はじめに】や【Q&A】にも、世界観を選んだあとにキャラ設定と書いてあった。

 であればまずはキャラを決めてしまってから、そちらに合う世界を選択してみるというのもありかと考えたのだ。

 だが、この時の昭は気付いていなかったが、キャラ作成は世界観にあった項目が選択肢として出るようになっている。

 そのことに昭が気付いたのは、とりあえず適当に選択したファンタジー世界でキャラを作った後に、二番目の世界としてSFを選択してキャラ作成画面を見た時であった。

 

 

 キャラ作成の落とし穴に気付いた昭が机に突っ伏していた上体を起こしたのは、【キャラクリエイト】の画面を初めて開いてから二時間ほどが経ってからだった。

「――――どうするか。ここままじゃ、何も決められずに時間だけが過ぎていく気がする」

 優柔不断ここに極まる――と言いたいところだが、昭が周りを見た感じでは何となく自分と同じような状態に陥っている様子のプレイヤーが複数人見受けられた。

 困った様子で昭が視線を向けると、それに呼応するように苦笑したり困ったような顔をしたりする者がいたので、恐らく勘違いではないはずだ。

 もっとも自分の同士を見つけて安心できたからといっても、時間は刻一刻と過ぎているのだが。

 

 すでに案内人である美女が来てから三時間ほどが経っていて、昭がこの部屋にいられる残り時間も先ほど二十一時間を切っていた。

 それだけで見ればまだまだ時間は残っているともいえるのだが、今現在の自分の悩みかたを考えるととても時間が足りるとは思えない。

 とはいえ、ある意味でこの先の人生を決める場面であるだけに、適当に勢いだけで決めてしまうのも何か間違っている気がしている。

 だからといって、自分の好みと勢いだけで決めてしまっても――とループ状態に陥っているのが現在の昭であった。

 普段から即断即決ができる人間からすれば何をこんなところでうじうじと、といわれても仕方のない状態だが、こればかりはどうしようもないという思いもある。

 いつもの昭はそこまで優柔不断というわけではないのだが、今の状態はいわば好きなおかずが所狭しと並べられていて、さあ最初に選ぶおかずはなんだといわれているようなものだ。

 悩んでしまうのは仕方ないだろうというどうでもいい言い訳を、自分の中で昭はしていた。

 

「…………よし。いったん落ち着こう」

 思考がとっ散らかって来ていることを自覚した昭は、そう呟いてから一度だけ大きく深呼吸をした。

 それが功を奏したのか、先ほどまでの焦りが徐々になくなっていくことが分かった。

 そうなってみると、先ほどまでどれほど慌てていたのかがよくわかる。

「――なんで二十一時間なんて考えていたんだろうな。まだ二十時間以上もあるじゃないか」

 先ほどまでとはまるで違った感覚に自分でも苦笑するしかない昭だったが、お陰で落ち着いた様子で端末を見ることができるようになった。

 

 初めて【キャラクリエイト】の画面を見た時よりも落ち着いた気持ちで見始めた昭だったが、詳細設定を決める画面で先ほどまでは視界に入ってなかったある項目を見つけることができた。

「運営お勧め? ……こんなもの、最初からあったっけ? 途中で生えてきた?」

 さらっと見ただけではわかりにくい場所にひっそりと置かれているその項目は、普通に考えれば最初の選択画面に置かれていてもおかしくはないようなものだ。

 だがこれほどまでに大掛かりな仕掛けを用意する運営(特に上司)であれば、こんな目立たない場所に置いてあるのは納得できる気もする。

 

「……さて。この運営であれば、罠という可能性もあるとは思うけれどどうするか……。…………うーん。迷っていても仕方ないからとりあえず見てみるか?」

 つい先ほどまで運営に流されるのは勘弁と考えていたのだが、落ち着いたところで考えるとどうせなら敢えて運営に流されるのも悪くないと思えてくる。

 結局のところこうやって振り回されている時点で、運営(特に上司)の思惑通りに動かされているのではないかと気付いたのだ。

「どうせだったらとことん流されてみるのも面白いかもな。よし、とりあえず見てみよう……って、おい!」

 まずはどんな内容になるか確認するかと決めた昭は、【運営お勧め】の項目をタッチしてみた。

 すると当然のように画面が切り替わった……のはいいが、そこに書かれている内容が問題だった。

 

 タイトルのように【運営お勧め】が一番上にあるのは普通だろう。

 だが、画面の中央にデカデカと【attention!!(注意!!)】と書かれているのはどういうことだと。

 さらにその下には注意を促す内容が、申し訳程度に書かれていた。

「『【YES】を選択すると強制的に第二の人生が始まります。【NO】を選択すると二度と【運営お勧め】は表示されません』って、やっぱり罠じゃねーか!」

 自分の声が周囲に漏れないようになっているのは、この時ばかりはいい方向に作用した。

 

 思わず大声で突っ込んでしまった昭だったが、開いてしまった以上は仕方がない。

 ここまでお膳立てしてくれれば、先ほどまでの大量の選択肢とは違って二つの選択肢しかないとも考えられる。

「…………よくよく考えれば、死に戻って新しいキャラで作り直しもできるんだよな。だったらこの際、運営の用意したルートに乗ってみるのも手か?」

 今の昭には、運営の手のひらに転がされるのは癪だという考えはほとんどない。

 むしろ用意されたルートで、自分がどう対応できるのか試してみたい気分にさえなっている。

「なんだ。それだったら変に悩んで時間を浪費するよりも、スパッと覚悟を決めますか」

 一度方向性さえ決まってしまえば、思い切りよく決断することができた。

 その決断を持って、昭はさっさと画面内にある【YES】に触れるのであった。

 

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『ゲーム』が始まってから既に二十四時間近くが経とうとしていた。

 昭たちに『案内人』だと自己紹介した美女は、制限時間の残り十分にしてこのサーバ最後のプレイヤーが新たな世界に旅立つのを見届けていた。

「さて。これでこのサーバは最後の一人が旅立ちましたか。他のサーバは……残り一パーセント未満ですか。思ったよりも優秀とみるべきか、思惑通りと喜ぶべきか、判断に迷うところですね」

 その呟きは、既に彼女以外には誰もいないために、他に聞かれることなく霧散していく。

 

 それでも美女は気にした様子もなく、ガランとした部屋を一度見回した。

「皆がこの先どういう選択をしていくのか。……あの方の思惑に流されるのは少々癪ですが、たまにはこういう経験をしておいてもいいでしょうね」

 そう言った美女の口元は、緩やかなカーブを描いていた。

 もしこの場に誰かがいてその微笑を見ることができたのであれば、間違いなく魅了されていたであろう。

 だが残念ながらこの場にはその美女一人しかおらず、その微笑みを見ることができた存在はいないのであった。




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