海外ドラマの活用

 前回の続きである。

 私は簡単とか楽々という言葉に弱い。そんなうまい話があるのかと思いつつ、ネコ係長にもう一本缶ビールを手渡した。

「最近は、本を読まないけど、作家になりたいという人もいるらしい。そんな人にもお勧めなのが海外ドラマを活用する方法だ。別に国産ドラマでもいいんだけど、人気のある海外ドラマは脚本がしっかりしているからな。まず、冒頭のつかみが早い。二、三分見ただけで、どんな話が展開されていくのか視聴者にわかるようになっている。例えばミステリ系のドラマ。深夜のオフィス、男女がいちゃついていて、男がブロンド美人のファスナーに手を掛けながら、ふと床を見ると、そこに上司(身なりのいい中年男性)の死体が――。若い男女が口論をしながら歩いている、急に男が冷静になって路地を指さす、女性が『話をそらさないで』と言いながら男が指さす場所を見ると、生々しい手首が転がっていて、トランプ(ハートのエース)を握っているのがチラリと映る。恋愛ドラマは見たことはないが、登場人物に彼・彼女が出来た、別れを告げられた、職場にイケメンや美女がやってきた、みたいなわかりやすい展開で始まるんじゃないかな。次はラストシーン。事件が解決したあとの数分間で仲違いしていた刑事二人が和解するエピソードとか、被害者の家族が癒やされるシーンとか、キャラたちがたどるその後の人生を垣間見せる。一話完結のドラマはおおよそ四十分~四十五分くらいだから、本一冊読む時間で三話は視聴出来る。冒頭のつかみやラストシーンなどに注目して、ヒントやネタを思いついたら、すぐにメモするか、スクリーンショットを撮って保存しておくとかするといい。今は動画配信サービスがあるから、レンタルショップに行く必要もないし。便利になったものだ。つまりドラマは最高の教材といえる」

 なるほど、昔は映画でストーリーを勉強したらしいが、今は動画配信でいつでもどこでも視聴出来るわけか。

「ドラマを見るだけなら、本を読むよりも手軽で楽ちんだな。それでお勧めのドラマとかはあるのか」

「海外ドラマでシーズン六以上継続しているものなら、まあ大丈夫だと思う。ミステリ系なら『CSI』とか『ローアンドオーダー』『名探偵モンク』『メンタリスト』『ブラウン神父』『ミステリーinパラダイス 』『クローザー』とかが俺は好きだな。ドラマは人によって好き嫌いがあるから、HuluやNetflixの無料体験でいろいろ視聴して、自分の好きなものをシーズン通して視聴するといいんじゃないか。プライムビデオが一番安いから、取りあえず加入してみたらどうだ」

「取りあえず、無料で見られる『GyaO』で勉強してみるよ」

 ネコ係長は私の言葉にニヤニヤしながらビールを飲み干した。

「おまけにもう一つ、参考になることを話しておく。ドラマは会話を勉強するにも最適だと思うんだ。小説に出てくる会話文は冗長になりがちなんだけど、ドラマの字幕に出てくる会話は長くても三行くらいなものだろ。だから登場人物に簡潔な会話をさせたければ、ドラマの会話でコツを掴むといい。会話をするときの人物の表情とかしぐさとかをメモしておけば小説を書くときに使える」

 小説によく出てくる「ネコ係長の言葉に彼女は眉をひそめた」とか「彼女はネコ係長を見ると頬に皮肉なえくぼを浮かばせた」みたいに使えるわけだ。


 これ以上缶ビールもつまみも出ないと判断したのか、ネコ係長は立ち上がり帰り支度を始めた。

 次回のネコ係長は「書き上げた原稿のどこを見直すか」を語るらしい。

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