作家はコスパが悪い(売れない作家限定)

 今回、私はネコ係長の家に来ていた。

「最終候補に残る秘訣があるんだったらさ。チャチャと教えてくれよ」

 私はズバリと切り込んだ。

 目の前には茶菓子どころかお茶さえも出ていないので、必要なことだけ聞き出したら、すぐにでも帰りたいと思っていたからだ。

「そりゃないこともないけどさ。ところで最近小説を書いているんだって」

 ネコ係長が作家になれるなら、私だってなれるんじゃないかという気持ちは隠して答えた。

「退屈だから趣味で書いてみようかと思って。どうせ書くなら運試しに乱歩賞とかに出してみようかな、なんて……」

 私の下心を見抜いたような表情をしたネコ係長は口を開いた。

「小説家に憧れる気持ちはわかるけど。作家はコスパが悪いぞ。運良く受賞しても賞金からきっちり源泉を引かれて振り込まれているし、市民税や保険料も一気に上がる。作家なんて出版社にとってただの個人営業主に過ぎないからな、見切りをつけられるのも早いんだ。それにメジャーな賞を受賞しても初版が一万数千部とかいう噂もあるくらい業界は冷え切っている。今流行の書き下ろし文庫なんて初版一万部、印税一割として、入ってくる金額はおおよそ七十万くらいだろ。一ヶ月に一冊出せるような売れっ子ならまだしも、半年に一冊だとしたら月収十万ちょっと。会社勤めをしながらの兼業なら、バイト感覚で出来るかもしれないけど、専業なんてとても無理。それに半年に一冊出せる作家なんてこれもごく一部分だけだからな。売れない作家は時間をかけた割にリターンが少なくて、コスパが悪いんだ」

 嫌な記憶が蘇ったのかネコ係長は顔をしかめながら言った。

 私の気持ちを逆なでするような発言に、少しだけムカついた。

 ひょっとしたら、ライバルを増やさないための牽制球なのかもしれない。

「ツイッターとか見ていると、増刷されました! とか原稿の締め切りがとか、呟いている作家だって多いじゃないか」

「増刷もさ。昔はある程度まとまった数じゃないと刷れなかったらしいんだけど、今は数百部から出来るらしいんだ。だから初版が五千部で増刷が五百部でも、増刷されました! ということになるだろ。具体的な数字が出されない限り、宣伝目的で増刷することもあるんじゃないか。増刷=売れてます、みたいにさ。締め切りの話だけど、雑誌連載する作家は売れっ子や一流作家だからな。ドラマやマンガ・アニメに出てくる締め切りに追われる作家なんて現実には一握りの存在でしかも締め切りに間に合わないようなずぼらな作家は生き残れない。手書きで原稿を渡せる作家もごく一部で、ほとんどはワープロなどで書いてメールで送信だと思うぞ。つまりドラマに出てくるような作家は昭和時代のイメージで、今そんな作家がいたら天然記念物のようなものだな。それにプロットが通らないとか担当者から何ヶ月も返事がない、なんていう作家のつぶやきだってかなりあるはずだ」

 なんてネガティブな思考に支配された男なんだネコ係長。私が作家になったら絶対にこんなふうにはなりたくない。

「愚痴話はいいからさ。前に言った最終候補に残るための戦略を教えてくれ」

 

 次回こそ、秘訣を公開してもらえる予定です。

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