サメは動いていないと死んでしまう。新人作家も同じこと

羽鳥狩

受賞は運だよ

 友人(名前を出すなといわれているので、ネコ係長とでも名付けておく)が、新人賞を受賞したと聞いたときには驚いた。あいつは私よりも現代国語の成績が悪かったのだ。

 ということは私にだって作家になるチャンスは十分にある。

 安い居酒屋で彼と酒を飲みながら、気になっていたことを聞いてみた。

「どうやったら新人賞を取れるんだ」

 ネコ係長は少し考え込んでから「まあ、運だな」と役に立たない言葉をつぶやいた。

 プレゼントの応募ハガキじゃあるまいし――真剣に答える気はないようだ。居酒屋の会計は割り勘という約束が影響しているのかもしれない。

 私のとがめるような視線を受けて、ネコ係長は言葉を続けた。

「バカにしていると思っているようだけど、これは本当のことだ。デビューしてから新人作家同士で飲み会をやったりしているんだけど。みんなが口を揃えて『結局、新人賞なんて運だよな』と言うわけ。例えば凄い傑作ミステリを書き上げた人がいるとする。ミステリ系の新人賞は有名な乱歩賞など長編・短編で両手ほどの賞がある。どの賞にその傑作を応募するかで運命は変わる。本来受賞したかもしれない作品がその傑作のせいではじき出されることだってあるだろ。もちろん賞の傾向もあるし、大賞ではなく優秀賞とか佳作になる場合もあるから一概に言えないけど。それと、本来応募する賞に間に合わなかったので別の賞に出したら受賞したとか、ダメ元で狙っていない賞に応募したら受賞したとか、みんなの裏話を聞いていると様々な偶然が影響していることが多いんだ。振り返ってみると、落選していたかもしれない可能性も結構あって、それこそ薄氷を踏むような受賞だったことに気がつくというわけさ」

「じゃ、推敲やアイデアを考えるよりも星占いとかで運気の高い日に応募原稿を投函すればいいじゃないか」

「実際、落選したから応募原稿を出す郵便局を代えたという人もいたからな。験を担ぐのもいいかもしれない。言葉が足りなかったようだけど、運次第というのは新人賞の最終選考に残るくらいの実力がある人の話だ。つまり最終で終わるか、受賞出来るかはもう運みたいなものですよ、ということ」

 ネコ係長は話し終わると、親指と人差し指で五ミリほどの隙間を作ってみせた。

「受賞作と最終落ちの作品にはその狭い間隔の差しかなくて、それが運で決まる――というわけか」

 私が言うと、ネコ係長はニヤッと笑い「理解力あるね」と肯いた。

「受賞した人は高額の賞金をもらい、さらに出版した本の印税が入る。かたや落選したら別の賞に応募するか、再挑戦するかしないといけないんだろ。雲泥の差があるじゃないか」

「俺だって受賞出来たからよかったものの、落選したら、そのときの受賞作をアマゾンレビューで星一つつけて酷評するような、悲哀と嫉妬にまみれた生活が待っていたかもな」

 冗談めかして言っていたが、ネコ係長なら本当にやりかねない。


 次回はどうやったら最終選考に残れるのか、そのあたりをネコ係長に尋ねてみたいと思う。


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