第五章 胡蝶の夢
家に帰り僕は眠る。
眠ることは好きじゃない。
いい夢を見ないからだ。
嫌な記憶ばっかり見るし、気持ち悪いものばかり。
「疲れた…今日はなんだかよくわかんなかったな。」
そうぼやきながらベットに潜ろうとすると蝶が一羽、布団から出てきた。
「…?なんだこれ、蝶?」
淡く発光するその蝶はふわり、と僕の目の前に現れて消えた。
「なんだこれ、疲れてんのかな。」
そして潜ってから目を閉じようとした瞬間、足元から何かがモゾモゾと蠢く感じがしてふと見ると、
「うわっ!…は!?な、なんだよこれ…!?」
そこにはさっきの蝶が沢山居た。そして飛び上がった瞬間
ブワッ!
とその蝶達がいっせいに飛び立ち、僕を囲む。
「な、な、なんだよ!?うわっ!やめろ!」
蝶達が僕を囲むと突然激しく光り、目の前が真っ白になった。
……段々とその光が柔らかくなり目を開けるとそこは空の上だった。
「え?うわっ!雲?そ、空の上なの?なんだこれ…空に立ってる?」
それはつかの間、足は地に吸い込まれた。
「お、落ちる!助けて!なんだよこれ!?」
落ちる、落ちる、地にめがけて。
落ちる場所は海の上。
「死んじゃうよ!やめて!」
僕はもう必死でもがいた。でも落ちるのは止まらない。
そして海が目の前に現れた。
「わっ!!溺れる!誰か!」
そして落ちた先は海の中。
「…?息ができる。」
海の中には何も無い。
そうすると僕の腕や足がムクムクと形を変え始め、そしてヒレになり、体も魚の形へと変わった。
「なんだよ!?魚?なんでだよ!意味わかんない…怖い…」
目の前の暗い、深い海に吸い込まれるようにスゥッと、動き始めた。
すると、陸にいた。
陸へ移動する度、体が固くなり、手足が生え、そして羽へ変わった。
「次は鳥?飛べるのか…」
僕は羽をばたつかせてみる。
フワリと陸から体が浮く。
「わあ、飛んでる!すごい…!」
と、突風が吹き付けた。
「…っ!」
行き着く先は美しい花畑。
そして体は人へといつしか変わっている。
「いい香りだ。なんだろう、この花。」
と、顔を近づけるとその花の花弁がグニャリと曲がり目になった。
「ヒッ!」
顔を上げるとそこらには奇形の花々が咲き乱れ、僕を食わんとばかりにこちらへ寄ってきた。
「わァっ!近づくな!」
と、叫ぶとそれらは塵になった。
その散らばった塵は、ひとつの場所へと集まり、気味の悪い人形の集合体になる。
〝けけ、け〟
と笑い声とも金切り声ともつかないような音を出しながら口を広げ、当たりはおもちゃ箱のような世界へと変わる。
そして周りはおもちゃのパレードと、気味の悪い歌声、そして血を吐く赤い目のドブネズミの大群が狂喜乱舞して居る。
〝けけ〟〝ギーキキキ〟〝キャハハ〟〝あははははははは〟〝キリキリキリ〟
それらの声が頭をガンガンと叩いて僕は泣きわめいた。
「もうやめてくれ!僕が何をしたんだ!助けてくれ!もう!やめてくれ!」
ゴッ、
鈍い音がしたかと思うとそれらの大群が崩れた。
その崩れた間から聖母マリアのような女性が微笑んでいた。
……目が覚めた。
ここはどこだろう。
白い、何も無い。まるで病棟のような場所だった。
「はぁ、はぁ、はぁ。気持ち悪い…」
ふと横を見ると焔朱音が居た。
「はぁ、目を覚ましたのね。大変だったわよ。」
「…?たすけて…くれたの…?」
「まあそういう事ね。」
呆然とする僕を見て彼女はこちらをじっ、と見た。
「ごめん、」
「なんで謝んの」
「助けてくれたけら…」
「ボクの仕事だからね。」
「仕事…?」
「そ。」
「僕みたいな人を助ける仕事なの…?」
「そうみたいなもんかね。」
「ありがとう…」
それから僕は安心したらしくいつの間にか眠っていた。
死神は僕なんかを殺してくれない にるゔぁ @nehan_444
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